第9話 好き嫌いしても大丈夫
「あ、有り得ない…」
魔王は声を震えながら呟いた。
「えっ?」
ゆっくり着いて来ていたセナは驚いて駆け寄った。魔王は恐怖で染みた表情で厨房の中を指さした。
セナは緊張した。虫でもでたのか。もしかしたらネズミ?最悪の場合町に潜み込んだ魔物かも…どっちにせよ大きな問題であることは違いなかった。
彼女はこわごわと厨房の中を覗いた。そこには普段と同じ厨房があって異様はなかった。
「ピピ、ピ、ピ…」
魔王が何か言おうとした。でもセナは聞き取れなかった。
「何がありましたか?私には見えません。」
魔王は喉に詰まっていた単語を吐き出した。
「ピ、ピマンがある!」
「まさか!」
セナの目線が調理台の上に移った。そこには確かにピマンが何個か置かれていた。緑で光沢のある食材!それは明らかに大きな問題…
ではない。魔王があまりにも必死に叫んだので若干戸惑ったセナは疑問符を浮かべながら聞いた。
「ピマンに何かありましたか?虫であれ、ネズミであれ…」
「ピマン自体が問題じゃん…ここでもあの呪われたものが栽培されるの…?」
「火山地帯でよく栽培されております。でも呪われたとは…」
魔王は絶望した。人間界まで来てもピーマンから逃げられないなんて。
「あれがどうしてここにいるの?」
「ああ、朝ごはんに提供されるチャーハンに入れてみようかと存じまして…」
「じゃあ、あれをあたしに食べさせようとした訳?」
「ええ、マオウノ様に召し上がって頂けるのは嬉しいことですから。」
「ヒイイッ」
魔王は自分を殺しに来た殺し屋と遭遇したかのように悲鳴をあげ、セナから離れようとした。
「いかがなさいましたか?」
「あたし、ここは安全な所だと思っていたのに!」
セナは訳が分からなかった。
「あの…」
セナは魔王に手を伸ばしたが振られてしまった。
「君もあたしがピーマン食べなかったら無理やり口開けて詰め込むのよね!吐こうとしたら口を封鎖するのよね!好き嫌いしたらダメだと言って!」
魔王は目を閉じて大声を出した。ピーマンはもう飽きた。ここまで来てピーマンなんか食べなければいけないなら住み込みなんか諦めようと思った。その時。
「そんなこといたしません。」
セナが魔王を抱いてやった。セナは魔王の頭を撫でながら優しい声で言い続けた。
「ピーマンなんか食べなくてもよろしいです。好き嫌いなんてしても大丈夫です。勿論、野菜を全然召し上がりませんのは駄目でございますけれども。マオウノ様は私がサンドイッチを提供したとき、中に入っていたレタスも、トマトも、玉ねぎもちゃんと召し上がってくださいましたね。だから大丈夫です。」
それは子供を扱うようなセリフだったが魔王には実の慰めになった。落ち着いた彼女のお腹はグーグー鳴った。
「あっ、」
魔王は恥ずかしそうにお腹に手を当てて頬っぺたを赤く染めた。
「お腹空きましたね。」
セナは魔王を厨房の中に連れて入り、調理台の前の椅子に座らせて料理を始めた。ニンジンと玉ねぎ、肉などの材料を小刻みにし、ご飯と炒めながら溶き卵を入れたらすぐ一皿のチャーハンが完成された。
「すごい。美味しそう!」
「ピーマンは少しも入れませんでした。」
「話さなくても分かるよ。見てたから。」
「セナは食べなくていい?」
「私はお客様たちの食事の支度を終えてから食べます。」
「じゃ、あたしも…」
「いいえ。腹が減っては戦ができません。お先にどうぞ。」
セナはすぐ宿のみんなの為の食事の準備をし始めた。それを見ながら魔王はチャーハンを食べた。それは美味しいという言葉では表現できない料理だった。なんだか心が温かくなる味だった。
食事を終えた魔王は手を洗い包丁を手にした。食べたからには働くべきだ。
「よし!」
魔王はセナから材料の下ごしらえを頼まれて、初めにニンジンを切ろうとした。でも帝王学には料理についての教えは一行もなかった。そのため、魔王は包丁を使うのが下手だった。
「ひっ!」
彼女は自分の指を切ってしまった。びっくりした彼女は包丁の刃を確認した。魔王の皮膚は大型犬の牙も貫けない。包丁で掠ってただけで血が出る訳がない。むしろ刃の方が壊れやすい。
「ふ…」
幸い今回は包丁は無事だった。なので魔王はもう一回ニンジンを切ることに挑んだ。でも今回は力を入れすぎてまな板まで二つに切ってしまった。同時に包丁も壊れてしまった。
「あら!」
声がした方向に振り向くと、片手を口に当てている社長さんがいた。
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