第7話 食堂にて

「トーマス。俺の分とピーターのための『持ち帰り』を1人前ずつ頼む」


「ああ。すぐに用意する。ピーターの『持ち帰り」だな。アレを始めてから時間外にごねるヤツには『持ち帰り』を渡せば済むようになった。店じまいしても階級を嵩に注文してくるやつがいるせいで、1人前ずつ作らされていて店じまいができなかった。そんな奴には調理済みの『持ち帰り』を渡すだけで済んだ。ピーターに礼を伝えておいてくれ。いつでも厨房に帰ってきていいぞって』


「わかった。前半だけ伝えておく。今は俺の部屋を掃除してくれているよ。助かっている」


「ははは。いつものやり方だな。まずは掃除。次は仕事の見直し。順番を決めて担当を決める。特別な事はしていないように見えるのに、やってみるとうまくいくんだよな。仕事のコツかもしれないな」


「俺までゴミ扱いで捨てられそうになったよ。ピーターは優秀だがまだ15才だからな。ゆっくり教育していくよ。事務仕事では教えることはほぼないが」


「そりゃあたいしたもんだ。ほい、出来上がり。ピーターによろしく」


マックスが自室に戻るとゴミエリア以外は綺麗になっていた。机の上には少なくなった書類が置いてあるだけで、寂しいくらいだった。


「隊長。大体終わりました。あとはゴミを捨てるだけです。隊長の机の使い方ですが、左側が未処理、右側が処理済みの書類置き場です。ペンとインクとハンコは引き出しです。使ったら引き出しに仕舞って帰ってください。期限が近い案件から順番にしています。意味がない要望や、書式が不適当なものは差し戻しました。隊長が読む必要はないです。ああ、『持ち帰り』ですね。ありがとうございます」ピーターは礼を言って食べ始めた。


「差し戻しは可哀そうじゃないか。お前みたいに読み書きが得意じゃないヤツもいつだろう。こちらで修正して提出すればいいじゃないか」つい思ったことを口に出した。


「それは隊長の仕事じゃないです。間違いを指摘して直してあげないと覚えないし、修正することも隊長の仕事になってしまいます。見てください。整理したら未処理の書類はあれだけです。あれが終われば帰れます。奥様が喜ぶんじゃないですか」愛妻家と評判のマックス隊長が早く帰れれば機嫌もよくなり隊の士気もあがるので良いことである。


「そうだな。正しい書類が作れる方がいいよな。お前に任せた。それとは別に何か欲しいものはないか?」掃除1つで思った以上の成果をあげてくれたので礼の代わりに希望を聞いてみた。


「荷車が欲しいです。村でも使っていて便利なのです。図面を書きますので作れる人を紹介してほしいです」ピーターには珍しく華やかな笑顔になった。マックスには初めて見せる嬉しそうな顔だった。


「うちは工兵隊だぞ。工作が得意な人間はたくさんいる。一番優秀な者を派遣する。完成品と図面は一度俺にも見せてくれ。欲しかったら俺も作ってもらう」


「トーマス料理長も欲しがると思うので2台ください。僕が持っていれば隊長に台車は不要です。兵站や輜重隊が欲しいと思いますが、僕が欲しい仕様とは違うと思うので検討が必要ですね」


「よし、兵站と輜重と工作兵を呼び出す。ピーター。欲しいものがあったら、すぐに作らせるから言ってくれ」マックスはピーターの頭の中の仕組みがどうなっているのか不思議だった。打てばすぐに打ち返してきて、他の部署まで巻き込んで大きな話になっている。時間ができたら僕の「ヤコブ式」についても聞きたいものだ。


「わかりました。ありがとうございます。まずは今日の仕事を終わらせましょう」

ピーターは理解のある上官を得て安心した。少し悪口になることを言ってみたが気にしない大きい器の持ち主のようなので、いい関係が築ければと祈るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る