第6話 工兵での毎日
ピーターはマックスの副官見習いとして一週間ほど過ごした。午前は工兵に必要な学科を教わった。測量、地図の作成、築城の為の設計、橋のかけ方、通信などの信号、爆破の知識などの学科を勉強した。午後の実地訓練は当面不要としてマックスの事務仕事の手伝いをすることになった。
計算が得意で早いピーターには午前のカリキュラムを消化していく。ダーンの元で工作をした経験もあるので、実際のものとして想像することができた。工兵は特殊で非常に高度な知識を覚えて活用できなければいけないが、吸収力が高い年齢なのか順調に進んだ。
午後になるとマックスの補佐としての仕事が始まる。
マックスの階級は軍曹で30~40名を預かる小隊長の役職に就いている。
しかし、小隊長に1名欠員がでていて、現在は一時的に2小隊約80名を預かっている。
上司の上級軍曹から「マックスならできるだろう」と、気軽に指名され怒りを抑えながらも拝命した。マックスも今までは一人で頑張ってパンクしそうだったので、ピーターに手伝ってもらうようになった。
「お前は他の兵士のように訓練する必要はない。俺の副官として事務仕事を手伝ってほしい。お前もその方が向いているだろうしな」
「マックス隊長の机の状態を見れば優秀な副官が必要であるのはわかります。僕の故郷の牧師様の部屋より整理しがいのある部屋を初めて見ました。いるんですよね。整理整頓ができない人って」
「いや、資料室に取りに行く必要がないように机の上や椅子に書類を保管しているだけで、どこに何があるかは把握しているんだぞ」
「整理できない人の10人に15人が言うセリフですね。ヤコブ牧師は元気かな。同じことを言っていました」
「じゃあ、同じように整頓してもらおうか。お前の故郷はどこだ?」
「マーストリヒトです。パン屋の三男坊をしていました。まず、ゴミを捨てますね」さっそくピーターは手を動かす。
「マーストリヒトか。ネーデルランドを人に例えるとお尻のイボのような土地だな。もうゴミ箱がいっぱいだな」初めて聞くタイプの故郷への表現に興味を持って尋ねる。
「初めて聞いた例えです。ただの田舎だと思っていました。ゴミ箱に入りきらないので、ゴミエリアと必要なものエリアに部屋を分けますね。隊長はゴミエリアでゆっくりしてください」どんどん片づけるがほとんどがゴミにしか思えない。
「マーストリヒトは戦略的に大切な場所だ。いずれしっかり教えるが東のドイツと西のベルギーに挟まれた国境にイボ痔みたいに飛び出しているだろ。病気なら大変だが領地となるといい拠点になる。交通の要衝でもあるしメリットは非常に大きい。文化的にも重要な街だから、戦場にしたくないがこのイボ痔は地政学的に必要だ。なぁ、ゴミに囲まれていると俺もゴミになった気持ちになるんだが?」
「だから牧師様はすごい方が配属されたんですね。僕に読み書きやドイツ語とフランス語も教えてくれました。計算も得意な方で物理学も研究する素晴らしい方でした。私生活と神学以外は。基本的に罰当たりな人でした。ゴミの分別ができたら整頓しておきますので、ゴミ・・・じゃない、隊長は食堂でお食事を済ませたらどうでしょう?」マックス隊長が掃除に付き合う必要がないので、食事を勧めた。
「その牧師はただもんじゃないな。どこかの大学を卒業しているだろう。3か国語に計算ができるのはエリートの中でもごく一部だ。まあ、優秀な奴ほど妬まれる。能力じゃなくて人脈・コネ・家系で強さが決まるのが政治ってもんだ。政治的に負けて飛ばされたんだろう。俺みたいに優秀だと大変だよ。じゃあ、飯でも食ってくるか。お前、俺をゴミって言ったか?」
「トーマス料理長に僕の分の食事を持ち帰りでお願いしてください。時間通りに食事をとれない人もいるからと『持ち帰り』を作りましょうと提案してあります。そろそろ提供できる時期だと思うので頼んでみてください。まあ、パンにニシンを挟んだブローチェと、リンゴとチーズくらいですけど。尊敬するマックス隊長殿」
「じゃあ、ゆっくり食べてくるから頼んだぞ。生意気な副官殿」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます