第24話 反物屋

 聖職者の衣を脱ぎ、五人はずんずんと歩く。

 琴と夕海の後ろには、刀を腰にさす凛太郎、弓を持つ涼人、両手を頭の後ろで組んで歩く将大の姿があった。

 街の人々は、ふたりの姫を護衛する者としか見えないため、何も感じず通り過ぎていく。


「み、皆さま、なんかすごいですね」

「でしょう? 三人が居れば怖いものなしよ」


 夕海は自分のことのように胸を張る。

 その後ろで、男性陣は白い目で夕海を見ていた。


「……利用されてるな」

「利用されるために弓をやっているんじゃないぞ」

「まぁ、僕の拳に勝った人はいないからねぇ」


 ややげんなりしながらも、武器を持った三人は周囲に目を光らせている。

 国民が当たり前のように武器を持てる時代なのだ。どこで誰が襲ってくるかわからない。

 武道で国一番の腕を持つ織也は、帝直轄の護衛であるため動けない。

 となると、聖職者であり、武に長けている凛太郎、涼人、将大が適任なのだ。


「さぁ、着いたよ!」


 夕海が足を止める。

 そこは、古いけれど趣のある店だった。店の看板には、大きな字で『反物』と書かれている。外から見ても、店内は布で溢れ返っていた。


「へぇ。こんな店あったんだ」

「ここは老舗の反物屋よ。いろんな布を売っているの」


 夕海が店の中に入る。

 琴も、そんな夕海の背を追いかけた。

 男子陣も、少し狼狽えながらも店の敷居をまたぐ。


「うお。布だらけだ」

「初めて来た」

「すごいなぁ」

「うわぁ、お姉さま! この布、とっても綺麗です!」


 琴は大はしゃぎだ。

 そんな姿に男性陣は顔をほころばせる。


「あら、いらっしゃい。夕海ちゃん」


 店の奥から中年の女性が顔を出した。 

 反物屋の店主らしく、色鮮やかな衣を着ている。店主は、夕海を見て顔をぱっと明るくさせた。

 夕海も、嬉しそうに店主に近寄っていく。


「こんにちは。お久しぶりですね」

「あらまぁ、たくさんお友達を連れてきて。ゆっくりしていってね」

「はい!」


 店の主人と話を終えた夕海は、後ろを振り返った。


「よしっ、探すぞぉ!」


 夕海は手当たり次第に、布を漁りまくり始めた。たくさん積み重なっている布は、どのくらいあるのか分からない。それくらい、店の中は布だらけだった。

 色とりどりの布が、夕海によって掘り出されていく。夕海は、手にした布を近くにいた琴に見せた。


「琴、この布なんかどう?」

「わぁ、良いですね! でも、この模様で緑色はありませんね」

「そうだなぁ」

「俺たちって必要だったのか?」


 涼人が、呆然としてその場に立ち尽くす。

 すると、将大がにこにこと近づいてきた。手には、何やら派手な布を持っている。


「まぁまぁ涼人。ほら、頭にこれ巻いてみて」

「わっ、何する、止めろ!」

「ほら、あっという間に異国人!」

「止めろって!」

「あ、夕海の方から布飛んできた。良い感じじゃないか、涼人!」

「巻くのも被るのも、俺は嫌だ!」

「怒らないでね、涼人さまぁ!」

「おい、凛太郎はなぜ簪を……!」

「可愛いでしょう? うふん、涼人さま、一緒にお出かけしませんかぁ?」

「止めろ、気持ち悪い。琴、止めてくれ……って」


 唯一まともな琴に涼人は目を向けた。しかし、夕海の後ろにいるはずの琴は姿が見えない。変わりに、琴がいた場所には布の山ができていた。

 涼人は辺りを見回すが、琴の姿は見つけられない。どこに行ったのだろうか。


「琴、おい琴? どこ行った」

「ふわぁ、涼人さま。ここです……」


 どこからか声が聴こえた。

 夕海が作った布の山から腕だけが出て、だるまのようになっている。

 涼人はあわてて琴を掘り出し始めた。


「おい、夕海。琴が……」

「あ、これすっごく良い!」

「こっちもどう?」

「夕海ちゃん、この簪いかが?」


 誰も、涼人の声など届いていなかった。

 将大は布を勧め、凛太朗は猫なで声で簪を差し出している。

 その姿に、涼人の肩がわなわなと震え始めた。


「将大、凛太郎まで……」

「ぷはぁ……ってお姉さま!? 布があふれちゃってます!」

「お、ま、え、ら……」


 涼人の顔が、どんどんと赤くなっていく。

 そして。


「俺の話を聞け!」


 怒声が飛んだ。

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