第2話 森の神シルヴィス
「――ん。っうぐ……い、痛……」
リファが目を覚ますと、そこは森の中だった。
目の前には、森の神様が宿るとされている大樹――だと思われる大きな木がそびえている。
「ひっ――! い、嫌……食べられたくないっ……」
リファは必死で逃げようとするが、手も足も枷で拘束されていて、逃げるどころか動くことすらままならない。
動いたことで背中が一層激しく痛み、意識が朦朧として涙がこぼれた。
空が暗くなっていく中、最初は状況を打開しようともがいていたが。
しかし暫くして、ふとあることに気がついた。
「……でも、神様が食べてくれたら死ねるんだ」
あの様子だと、村へ帰れば死ぬよりひどい目に遭わされるだろう。
殴られるのも蹴られるのも、鞭打たれるのももう嫌だった。
でも、リファには村以外に帰る場所なんてない。知っている場所もない。
だったらここで――。
そう考えたら、次第に食べられることが希望にすら思えてきた。
「森の神様、お願いします。早く私を見つけて――」
そう言って目を閉じたそのとき――。
「おいおまえ、こんなところで何をしている?」
「――へ?」
リファの目の前に現れたのは、緑色の美しい長い髪と切れ長の目を持つ青年だった。
その手には籠を抱えており、中からは甘い香りが漂っている。
「――あ、あの、あなたは?」
「私はこの森を管理している神、シルヴィスだ」
「えっ? り、竜じゃない……?」
「竜? ――ああ、あれは私の使い魔だ」
――じ、じゃあ私、この男の人――じゃなかった、神様に食べられるの?
どうやって食べるんだろう?
噛みつくのかな……。それとも焼くの?
あんまり想像できないけど、こんな綺麗な神様に食べてもらえるならもうそれでいいや。
そう思ったリファは、意を決して痛む体に鞭を打ち、どうにか男の足下に正座をして頭を下げた。
「私が生け贄です。どうぞ食べてください」
「……え? は?」
覚悟を決めて身を捧げようとするリファに、シルヴィスは驚いた顔をして後ずさる。
「そ、そんな怖いことできるわけないだろう! 訳の分からないことを言ってないで、さっさと家に帰りなさい!」
シルヴィスはリファの枷を外し、「ほら立って」と手を差し伸べた。
リファはぽかんとしてシルヴィスを見る。
それからハッとした様子で、慌ててシルヴィスにしがみついた。
「お、お願いします。食べてください! このまま帰ったら私――」
「こ、断る! 私には食人の趣味なんてない!」
「――そ、それなら奴隷でもなんでもいいです。ですからどうか、どうかここに置いてください。お願いします……」
泣きながらそう言って縋るリファに、シルヴィスは困り果ててしまった。
いったいなぜこんなことになったのか。
この娘は誰なのか。
なぜ食べられたいと願うのか。
私はただ、夕飯にするつもりのフルーツを採りに行っていただけなのに!
その短い間にこんな困ったことに巻き込まれるなんて!
そんなことを考えながら、しかし放置するわけにもいかず、諦めたようにため息をつく。
「……散らかってるけど、とりあえず今日は家に入りなさい。でも朝には帰ること。いいね?」
シルヴィスはそう言って大樹に手をかざす。
すると大樹の幹に扉が現れ、開かれていく。
扉の先には、広くて立派な部屋が広がっていた――のだが。
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