森の神様と生け贄少女 ~生け贄だけど、ぽんこつ優しい神様に拾われました~

ぼっち猫@書籍発売中!

第1話 生け贄になった娘リファ

「おい、いつまで同じ作業をしてるんだ!」

「――かはっ! ……う……ごめ……なさ……」


 魔力持ちが悪とされる小さな村、ライア村。

 ここでは三歳になると、教会の聖女による魔力鑑定が行われる。

 そこで魔力持ちと判断されてしまった銀髪の少女リファは、魔力封じの首輪をつけられ、村の奴隷として扱われていた。


「まったく、魔力持ちのうえ使えないなんてゴミ以下じゃないか」

「おまえは生きてるだけで害悪なんだ。もっと死ぬ気で働いて、ちゃんと罪を償え!」

「は……はい……ごめん……なさ……い……」


 家主の男に蹴られた腹部が激しく痛み、苦しくて息もできない。

 今日も朝から大した食事ももらえないまま働かされており、まだ幼い少女の体力はとうに限界を超えていた。

 起き上がらなければ、きっとさらに蹴られる。

 そう分かっていても、体に力が入らず起き上がることができない。


「いつまで転がってるんだ! もういい、出ていけ!」

「――がっ、あっ……ぐ……」


 男はリファを蹴り飛ばし、外へ追い出して扉を閉めてしまった。

 通りがかった村人たちは、そんなリファに嫌悪の眼差しを向ける。

 両親はリファを捨てて行方知れずで、頼れる人はいない。誰も助けてくれない。

 リファは痛む体を引きずりながらどうにか目立たない位置へ移動し、身を隠すようにうずくまった。


「ごめんなさい……魔力持ちで、ごめんなさい……」


 リファは自分の存在を呪い、憎み、しかし死ぬこともできず、エメラルド色の瞳をした目から涙を流し眠りについた。

 これが、リファの日常だった。


 ◇◇◇


「――来い。おまえを生け贄に捧げることが決まった」

「え――。い、いけ……にえ……?」


 五歳になったある日のこと。

 リファは強制的に腕を掴まれ、村のみんなが集まる中に放り出された。

 そして服をはぎ取られ、冷たい水を浴びせられて乱暴に体を洗われる。


「いっ――痛いっ! 痛いですっ!」

「騒ぐな! そんな汚い姿じゃ、生け贄として受け取ってもらえないだろうがっ!」


 体を押さえつけている男に引っぱたかれ、頬に焼けるような痛みが走る。

 リファは自分がいったい何をされているのかも理解できないまま、この痛くて怖くてたまらない時間が終わるのを待った。


 体を洗い終えると、リファは再び服を着せられた。

 今まで着ていたボロボロの服ではなく、新しい服だった。

 そして首輪につけられている鎖を引っ張られる。


「いいか、これからおまえを、生け贄として森の神様のもとへ連れていく」

「い、いけにえって、何、ですか?」

「生け贄ってのはなあ、神様へのお供え物のことだ。噂では恐ろしい竜の姿をしていて、生け贄を食っちまうそうだぞ。あっはっは」

「これでようやく邪魔者が片付くってもんだ!」

「――っ!? そ、そんな、い、嫌! 嫌ですっ!」


 リファは恐怖に顔を引きつらせ、生け贄から逃れようと暴れ出した。

 だが、そんなことが許されるはずもなく。


「おい、口答えなんて誰が許したんだ? ああ!?」


 リファは鎖を引っ張られ、髪と両手を掴まれて地面に押さえつけられ、近くにいた別の男に木の枝の鞭で何度も何度も打たれた。

 背中を集中的に狙われ、服どころか皮膚まで破れ、肉が裂けて血が溢れる。


「い……あ……痛……痛あああああああっ!」

「おいおい、生け贄なんだからあんま傷だらけにしちゃ――。それに服もせっかく替えたってのによ」

「こういうのは徹底的にやらなきゃ意味ねえんだよ。万が一にも戻ってきたらどうすんだ」

「だな。服はまだある。布を撒きつけて新しい服を着せときゃ神様も気づかねえだろうよ。どうせこのまま食うんだろ?」


 ――どうして。頑張りが足りなかったのかな。

 魔力持ちだから、悪い子だから、少しでもいい子に近づけるように一生懸命頑張ったのに――。


 途中まで泣き叫んでいたリファだが、次第に体から力が抜け、耐え切れず気絶してしまった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る