第2話 家、燃えたんだけど?
『あ!誠!?』
電話に出ると、母さんが金切り声でそう言った。そして、そのまま俺の話も聞かずに怒号の喋りを捲し立てた。
『あのね!あんたの叔母さんいたじゃない?ほら、お父さんのお姉さん』
『その叔母さんがね、事故で亡くなっちゃったのよ!』
……は?
言葉が理解できなかった。
叔母さんが亡くなった?それも事故で?
言っちゃなんだけど、俺は叔母さんとそう接点が無い。むしろ、今日初めてその存在を知ったと言っても過言ではないだろう。
それより、今は俺の家が燃えたことの方が重大なんだけど……。
しかし、落胆する俺を無視に、母さんは止まることなく話を続けた。
『ほら、今日クリスマスじゃない?それで遠いところに車で出かけたらしいんだけど、そこで事故に……』
待て待て待て待て
『もう、一家諸共亡くなっちゃったみたいなんだけど、そこのお子さんだけが運良く生き残ってね』
『その子の今後について話すために、若い人は明日本家に来て欲しいって』
……明日本家に来いだって?
俺……家、燃えたんだけど?
『…誠?大丈夫?』
「母さん……今俺さ――」
『あ、お父さんに呼ばれたわ。詳しいことはLINEで送っておくから。また後で電話かけるわね』ガチャ
…なんなんだよ一体……。
大家さんが憐れんだ目で俺を見る。
ツーツーと音が鳴る電話を見ながら、俺は静かに膝をついた。
○△□
「ではこちら鍵になります。ごゆっくりどうぞ」
金髪の受付嬢から鍵を受け取る。
仕方なく今日は、近くのネカフェに寝泊まりすることになった。
料金は格安の2000円。風呂は明日実家で入るとして、とりあえず飯だけでも食うか。
「ガチャえーと、ビーフカレーと、あと、濃厚豚骨魚介つけ麺ひとつお願いします」
フロントへ電話をかける。受付の人は「了解しやしたー」と軽い口調で言った。
もうやけくそだ。メニューの中からは1番重たそうな物を選んだ。今日は食べて食べまくるぞ!
○△□
「ふぅー……食った食った……」
空になった器を重ね、脇に置く。
久しぶりにこんなに食べたからか、随分お腹が張っていた。
「はぁ……クリスマスに何してんだ俺……」
火災保険に入っているかは、保険証券を確認するとして……。その保険証券が燃えてたら元も子もないんだよなぁ…。
しかし幸いな事に、通帳その他諸々は金庫(中古)に入れてた為に燃えている可能性は低い。きっと保険証券もそこに入っているはずだから、また明日見に行こう……。
「まじか……」
パソコンを起動すると、時刻は午前2時。
しかし、俺の目はバキバキでおおよそ眠れそうではなかった。
「……とりあえず、ネットサーフィンでもするか…」
Googleを開き、画面をスクロールする。
“植之動物園の赤ちゃんパンダ、クンクンのお披露目会が開催”
“材料3つで簡単手作りお好み焼き”
今の俺の状況と対になるような、なんとも平和な記事。
「はぁ〜…世間はいいよな。クリスマスに家が燃えた奴の気持ちなんて分からないもんなぁ……」
卑屈になる。
くそっ!俺、しっかりしろよ!
カチカチ……
「…!」
さらにスクロールすると、目に留まった記事が1つ。
神奈川県付近での事故の記事だった。
“神奈川県横浜市近くでトラックと乗用車の衝突事故。乗用車に乗っていた大人2人が死亡、子供1人軽傷。原因はトラック運転手の脇見運転か”
そんな言葉が並んでいた。
記事をクリックし、画面をスクロールする。
すると、事故現場の画像が流れてきた。
「うわ……」
画像には、大破した自動車と運転席が潰れたトラックが映っていた。
周りには人だかりが出来ていて、赤いパイロンがぐるっと囲っている。
脇には警察車両と救急車が並んでいて、大事故だったことが伺えた。
「トラックの運転手は無傷だったのか…。エアバッグが作動して……。ということは自動車の方はそんなのも関係ないほど……?」
更に記事をスクロールする。すると、被害者の名前が載っていた。
“事故にあったのは、都内在住の
高田 美津木さん(35)、
高田 義信さん(40)、
高田 真白さん(6)。
尚、トラックの運転手は某有名運送会社の社員だそうで―――”
「!」
そこでハッとする。
さっき母さんから送られてきた、叔母たちの情報……それと完全に一致していた。
高田 真白。
彼女こそが、明日話し合うであろう人物だった。
「こんな小さい子が、一夜にして親を失ってしまうなんて……」
俺が気にかかることはもう1つ。
それは、LINEで送られてきた情報にあった、彼女の母、高田美津木さんの立ち位置だ。
LINEによると、高田美津木さんは親戚関係が上手くいかず本家と絶縁。
そして、夫の義信さんと、その連れ子である真白ちゃんと共に3人で暮らしていたそうだ。
そこでまたあることに気づく。
「待てよ……?母は本家と絶縁していて、自分は夫の義信さんの連れ子…?」
「てことは、真白ちゃんは本家の誰とも血の繋がりがなくて……しかも頼れる親戚もいない状態?」
「つまり………天涯孤独……?」
「6歳で…………?」
天涯孤独とは、血の繋がりがある人や頼れる親戚が誰も居ない状態を表す。
こんなに小さな子が、一夜にして親を失うどころか、天涯孤独……。
一体、その小さな心でどれ程の恐怖を抱えたんだろう……。
「っ……」
胸がギュッと締め付けられる。
……明日、大丈夫か…?
俺が何か出来ればいいんだけど……。
「……いやいやいや、俺家燃えてるし。どうせ関係ないしな。うん。そうだそうだ」
なんとか自分を振り戻し、横に寝転ぶ。
そうだ。今はそんなことよりも、家をどうにかしなければならない。
どうせ俺に出来ることは限られているだろうし、まぁ、明日は他の親戚筋がどうにかしてくれるだろう。
うん。きっと大丈夫だ。
今日は、もう寝よう。
そうして俺は、疲れ切った身体のまま意識が落ちていった――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます