ちょっと寄り道して

神狐塩 佐肆簾

水筒の神様

あるところに、付喪神となった水色い水筒がいました。

そのこは、付喪神になる前も後も、使ってくれている持ち主さんのことが大好きで、買ってもらってからずっと、毎日のように一緒に出かけて外を冒険していました。

公園にコンビニ、友達の家や遠出先、そして持ち主さんが通う学校。毎日何かしら知れることがあり、水筒のこはとても幸せに毎日を過ごしていました。


ある日のこと。

いつものように持ち主さんのロッカーの中で、水筒のこは帰ったあとのことを頭で描いていました。[きょうはあそびにいくのかな][そういえば じゅくがあったかな][きょうのおゆうしょくはなにかな][あしたはなにをいれてもらえるのかな]

体にまだたくさん入っている麦茶を感じながら、ずっと考え事を続けていました。

ずっと。


水筒のこは、疑問が沸いてきました。

持ち主さんが、いつまで経っても取りに来てくれません。外の光は暗くなっているのに、人の声は聞こえないのに、ずっとこのこは置きっぱなしです。

呑気にずっと変わらないことを妄想していた水筒のこも、ちょっとずつ不安が入り混じってきていますね。

[きょうはもう来ないのかな]

一度考え始めたら、もう止まりません。

[もちぬしさん、何か或ったのかな]

少しずつ、内側に黒いものがくっついてきます。

[麦茶が重たいな][何時になったら取りに来てくれるのかな]

黒い欠片が体の中で、どんどん、どんどん増えていきます。

思わず、麦茶が漏れ出してしまうくらいに。


翌朝…

水筒のこは、未だに泣いています。寂しくて、なんだか辛くて、四六時中一緒の方がいなくて…

と、そのとき。

待ち望んでいた持ち主さんが帰ってきました。目的は、当然水筒のこ。

持ち主はそのこを見つけてすぐに、重かった麦茶を捨て、黒い欠片が綺麗になくなるよう体を洗ってあげました。

水筒のこはつい嬉しくて、持ち主さんの腕の中でしばらく泣いていたのでした。

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ちょっと寄り道して 神狐塩 佐肆簾 @sashisu_mikoshi

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