第14話 兆候

 俺は日課となっている冒険者ギルドに来ていた。

 今日は、ルミエルもワンダもママもいない。完全なるフリーだ。


 俺はルミエルたちとの冒険者活動が休みのときは、一人で来るようにしている。

 その方が自分で依頼を選び、自分で完遂するという達成感を味わえるからだ。


 一人っていいよな。

 誰にも気を遣わずに済む。

 別にこんなとき、一緒にいく友達が欲しいとか、全く思わない。


 ルミエルたちといると、俺が依頼表を選ぶことはない。

 だって、あいつ、既に持ってるもん。いつ、選んでいるのか、全く分からん。


 依頼表を見てみると、変わった素材の採取依頼があった。

 気になったが、ランクが高いのでスルー。

 さらに見ていくと、いつもと違う表記が目に入った。赤いスタンプが押してある。


「カエラさん、この表記は何?」


 因みに俺は、冒険者タケルとして行動する時は、受付嬢に敬称を付けるようにしている。

 本当はこっちで統一したいが、王族は無暗に敬語とか敬称とか使っちゃ駄目みたい。


「ああ、それですか。その表記はグレードプラスと言って、本来の冒険者ランクよりも一つ上の扱いになるというわけです。今はほとんどの採取依頼がグレードプラス扱いになっています」

「ん?てことはこのCランクはBランクじゃなきゃ受けられないってこと?」


 カエラは頷いた。

 なんで?先週まで普通だったのに。


 疑問が顔に出ていたようでカエラが補足してくれた。


「どうやら、ランクの高い魔物が森の浅い部分まで出てきているようなんです」


 カエラの説明では、Bランクの魔物の出現箇所にAランクが現れ、追いやられたBランクがCランクの場所に現れるようになる。

 そうしてドミノ式に魔物が移動し、ほとんど魔物がいない浅い部分にも魔物が現れるようになるらしい。


「因みにオーガの角って何に使うか分かる?」

「ああ、あの依頼ですか?オーガの角は武具に使われることが多いですが、薬の材料にも使われるんです。でも、オーガは滅多に出現しない上に高ランクなので、望みは薄いですね」


 「へー」と言って、俺は受注表を持ってギルドを後にした。


 素材の採取を終えた俺は森の様子を見て回ることにした。

 ここに来るまでも、いつもより遭遇する魔物が高ランクだった。


 索敵魔法を行使する。

 

 初めての依頼の際、ワンダに教えてもらった索敵魔法は、魔力を薄く延ばして、魔物の生命エネルギーとの干渉をキャッチする魔法だ。

 

 あのときは、索敵魔法により、魔物にこちらの存在を気付かせてしまった。

 だが、本来はもっと薄く魔力を伸ばすことでほとんど気付かれずに索敵を行うことができる。


 この数か月、俺はこの魔法の精度を上げる努力をしてきた。

 

 因みにママは滅茶苦茶薄く魔力を伸ばせる。

 索敵範囲も俺より広い。

 何なら、飛んでいる鳥の魔物にも気付ける。

 どういうしくみなのか。


 やっぱ、チートってずるい。


 今度、奢らせよう。

 あいつ、かなり金持ってるからな。


 いや、むしろ前世の借金返せるよね。もう返せるよね。


 余計なことを考えて、集中力が切れていた。


 俺は魔力を圧縮することは意識してやってきたが、薄くすることことは経験がなく慣れなかった。

 だが、特訓の成果で最近では高ランクの魔物にも気付かれることはなくなった。


 高ランクと言ってもAランクに見せかけたCランクだけどね。

 

 今日は一人であるため、無理は出来ないが、出現する魔物を見るに、もう少し奥に行っても問題ないだろう。

 

 俺は様子を見ながら、森の奥へと歩を進めた。しばらく歩いて俺は再度探知魔法を行った。


 この反応は、、、オーガだ。

 オーガは身体能力が高く、武器や打撃で攻撃してくる鬼だ。


「確か、オーガはBランクだったか。一人だと厳しいな」


 実は、冒険者になってからオーガと戦ったことがある。

 そのときは、Bランクに見せかけたDランクのウィードオーガだった。


 オーガと瓜二つで見分け方が闘ってみるしかないらしい。

 案の定、俺でも勝てた。


 ゲームでは出てこない魔物がいるものだなと思ったものだ。

 てことで近くに寄って、今回のオーガを観察する。


 ん?あれはオーガでもウィードオーガでもない。

 俺の記憶が確かならAランクのシルバーオーガだ。


 シルバーオーガがこの森にいるなんて聞いたことがないぞ。

 魔物は進化することがあるから、絶対にいないとは言い切れない。

 だけど、グレードプラスのタイミングなのは偶然か?


 さらに俺はシルバーオーガを遠目から観察した。

 

 なるべく近づきたくないから、眼に身体強化を掛けて、視力強化をする。

 そのとき、俺の頭上で鳥が鳴いた。


 上を見ると、鳥型の魔物ダーククロウだった。

 そして、俺の見間違え出なければ、黒い靄が見えた。


 すぐさま、俺は魔デッポウで撃ち落とす。

 

 シルバーオーガに目線を戻すとの既にその姿はない。

 

 一気に汗が噴き出る。

 俺は身体強化全開にし、その場から走った。


 すぐに俺のいた場所に衝撃波が撃ち込まれた。


 ダーククロウは、明らかに俺の存在はシルバーオーガに教えたんだ。


 そして立ち止まったシルバーオーガにも黒い靄が見えた。


 シルバーオーガは全体のステータスがオーガよりも上だが、特にスピードが跳ね上がっている。


 シルバーオーガは俺を睨んできた。

 

 シルバーオーガは近距離型の魔物。

 右手に短剣を持って、左手は衝撃波を放てる。

 距離を取りたいが、目を離すわけにもいかない。


 シルバーオーガが俺に跳びこんできた。

 短剣を剣で受け止める。

 鍔迫り合いを何度も交す。


 シルバーオーガは俺の動きを止めたら、衝撃波を放つつもりだ。

 思った通り、短剣を押し込み俺の動きを止め、左手を出して来た。


 俺は魔デッポウを放った。

 シルバーオーガ後ろに飛ばされる。


 すぐさまトリモチを放つが、寸で避けられる。

 直接剣で切りたいが、あのスピードの奴に接近戦で致命傷を与えられるイメージが湧かない。

 魔法を打っても避けられてしまうだろう。


 俺は剣での接近戦を挑むことにした。

 鍔迫り合いで不利になったら魔デッポウで距離を取り、仕切り直し。


 それを何度か繰り返すことでシルバーオーガは苛ついて動きが大きくなってきた。

 そして、短剣を持つ右手首に左手を添える。


 知ってるよ、その技。


 シルバーオーガの短剣から衝撃波が飛ぶ。短剣を媒体にした飛ぶ衝撃。

 俺は視力強化により、ギリギリで避ける。

 この技のあと、シルバーオーガは2秒動けなくなるんだよ。


 俺は火力不足を解消するため、新たな魔法の開発を急いだ。

 辿り着いた一つの答え、単純に魔デッポウの出力を大きくする。

 俺は左手で拳を握りに圧縮していた硬質化魔力を放った。


魔拳砲まけんほう!」


 シルバーオーガは吹き飛んだ。

 だが、微かに動いている。

 魔デッポウは貫通力が足りない。

 それは出力を上げても解消されず、完全なトドメは刺せなかったようだ。

 

 最後は直接、剣で首を刈った。



 冒険者ギルドに帰ると俺は、カエラのデスクに受注表の素材と、別にとってきたシルバーオーガの首を出した。


「ヒィ、こ、こんなものカウンターに置かないでください」


 カエラが悲鳴を上げたので、俺はそそくさと首をしまった。


「今のはオーガですか?」

「あ、ああ、その事なんだが、ギルドマスターはいるか?」


 カエラが急に俺の目を覗き込んできた。


「何かあったんですね」


 俺が頷くと、カエラはギルドマスターを呼びに行った。



ギルドマスターに室に入った俺は、挨拶をそこそこに本題に入った。


「ギルドマスター、恐らくそう遠くないうちにスタンピードが起こる」

「そう思う根拠は?」


 マイッツアーは真剣な表情で聞き返してきた。


「シルバーオーガやダーククロウは黒い靄、瘴気から生まれたと思う。そして、瘴気から次々と上位ランクの魔物が生まれると、元々森に棲んでいた魔物の移動が始まる。それがグレードプラス状態になった原因だ」

「なるほどな。しかし、それだけでスタンピードが起こるとも言い切れんが」


 俺はマイッツアーの話に頷いた。


「確かにそうなんだけど、瘴気を浄化されずに魔物が生み出され続けると、、、」


 俺の言葉にマイッツアーは合点がいった顔をした。


「そういうことか。それじゃあ、瘴気の浄化と、スタンピードへの備えをしなきゃならねえってことか」


 マイッツアーは疑問を上げてくるが、最初から危険性は分かっていたのだろう。

 情報を整理するために質問しているのが分かる。


「それと魔物が組織立った動きをしてくる可能性がある」

「それはつまり、人為的に引き起こされている、そういうことか。今の段階では何とも言えんが、頭に入れておこう」


 マイッツアーは俺が疑う可能性を理解してくれた。


 そして、冒険者への通達、王城への騎士団要請、教会への浄化依頼が即日された。



 このときの俺は油断していた。

 

 今は王立学園入学前。

 本編が始まっていないから、俺の破滅とは無関係だ。

 

 スタンピード?

 王都は強い冒険者がたくさんいるから、何とかなるっしょ!

 

 気楽に頑張ろう。

 エイエイオー。


 でも破滅はそんなときに限ってやってくる。

 研ぎ澄まされた刃を携えて。


 そうじゃなきゃ、あんな死にそうな思いしないよ!






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