第13話 苦悩

サイド :フラン


 僕はフェルナンド王国第四皇子のフラン・エリスタ・フェルナンド。

 僕には最近、気になって仕方ない存在がいる。

 弟のデュストスだ。


 デュストスは、お世辞にも王族として相応しい振る舞いが出来る王子ではなかった。


 剣術、魔法の訓練は早々逃げ出し、座学もおざなり。


 やっていることは、息子を王にして権力を握ろうとする母ベラの傀儡となり、兄弟たちの足を引っ張ること。

 そして、何が気に入らないのか、使用人たちに当たり散らすこと。

 

 しかし、デュストスはある日を境に変わった。

 使用人たちに土下座で謝罪したかと思えば、父上や僕たちの前で王位継承権破棄まで訴えてきた。

 その上で、王立学園には行かず、辺境の地で暮らしたいとさえ。

 

 信じられなかった。

 今まで、自分の行いを顧みず、常に母に言われた通り、兄弟たちを陥れようとしていた弟が。


 それだけではなかった。デュストスは庭一角に畑を作り、それをきっかけに庭師やメイドたちともコミュニケーションを取り始めた。


 デュストスが変わったと言っても、人と話すのは以前と変わらず、苦手のようだ。

 しかし、同じく人格が変わったと言われるデュストスの母、ベラの取り持ちにより、デュストスも王宮で働いている人間と話すようになっていた。


 さらにデュストスは、ベラと一緒に剣術と魔法を鍛え始めた。

 デュストスは、剣術も魔法も僕や兄たちに比べれば才能がないと揶揄されていた。

 そのため、今までは禄に訓練をしていなかったが、今では別人のようだ。

 

 王国騎士団史上最強の二人と言われた元騎士団長のルミエルと、元魔法師団長のワンダの訓練に根を上げずについて行っている。


 実際に実力がついてきたようで、冒険者としても結果を残している。

 史上最速でのCランク冒険者になったのだ。

 

 そうなると周囲の目が変わり出した。


 さすがに、これまでデュストスとベラの酷い態度を目の当たりにしてきた者たちは慎重に2人の様子を見ている。


 だが、そうでない者たちは、デュストスやベラが思った程悪い人ではなく、寧ろ、己の研鑽に励む尊敬すべき対象ではないかと考え始めているんだ。


 兄上たちもデュストスの行動に注目している。行動の目的は、単に王位継承争いが嫌になり、逃げ出したいと思っただけなのか。

 しかし、それならここまでの研鑽をする理由が思いつかない。

 

 第一王子のジーク兄さんは、デュストスの話になっても表情を変えずに、

「デュストスが変わったのはいいことだね」

 と笑っている。


 第二王子のアレン兄さんは、普段から口数が多い方ではない。

 だから、あまりデュストスのことも話してるのを見ないが、内心はかなり影響を受けているはずだ。


 そして、第三王子のニコル兄さん。

 

 兄弟一の才能と言われ、優秀すぎて、三男でありながら、王に指名されるのではないかと言われている。

 そんなニコル兄さんは、最もデュストスの動向を気にしている。


 ニコル兄さんはデュストスを嫌っていた筈だ。

 それなのに、継承権破棄と辺境への移動を反対した。

 何を考えているか分からない。


 僕は怖い、デュストスが変わっていくのが。

 デュストスは良い方に変わるのはいいことだ。

 なのに、それで結果を出せば出すほど、僕は怖くなってくる。


 僕は平凡だ。優秀な三人の兄と比べられ、自分だけ突出した才能がない。


 きっと同年代の子供と比べると、僕はそれなりに優秀な方だと思うし、それなりに努力をしているつもりだ。

 でも、それは努力できる環境に生まれたから、努力してきただけだ。


 三人の兄は完璧だ。

 基本学力、帝王学、騎士実技、人脈、どれをとっても非の打ちどころがない。

 

 僕はもうすぐ王立学園に入学するが、きっと兄たちと今よりも比べられるのだろう。

 特に比べられたくないのは魔法だ。


 僕の魔法は風属性、大きな風をおこすことは出来る。

 でも、僕の風では魔物を倒せない。せいぜい、吹き飛ばすくらだ。


 元魔法師団長のワンダのように、風でも魔物を倒せる騎士や冒険者は少ないがいるにはいる。

 僕にはその才能がないんだ。

 

 起こせる風の大きさなら自信はあるのに、魔物討伐はできない。


 何故なんだ!?

 

 話が反れた。

 そんな僕が唯一安堵を覚えるのがデュストスの存在だ。


 デュストスは幼い頃は、それなりに自分の能力向上に取り組んでいたと思う。

 座学も剣術も苦手だったけど、頑張っていた。


 だが、神託の儀でデュストスの魔法属性は無属性と判明した。

 無属性は一般的には生活魔法と呼ばれていて、ほぼ身体強化しか使うことが出来ない魔法だ。


 デュストスは自分の属性を知ると、ショックを受け、魔法の訓練をやめてしまった。


 さらにデュストスは、座学も、剣術のやる気もなくし、自己研鑽を全くしなくなってしまった。


 僕にはそれが安心材料だった。


 上を見ると途方に暮れ、下を見て安心する。

 情けないけど、そんな感情だ。


 僕は訓練をさぼることはしなかったが、優秀な兄と一緒なのはいつも居たたまれなかった。

 逃げなかったのは、逃げると言う選択肢を知らなかったから。

 

 地面から棘のような岩を生やし、いとも簡単に魔物を駆逐するジーク兄さん。

 曲芸のような水魔法で見る者を魅了するアレン兄さん。

 豪炎で派手に魔物を焼き切るニコル兄さん。


 そんな三人と比べると嫌になる。

 自分には何故、才能がないんだ?

 なぜ、こんな兄弟のもとに生まれたんだ?


 でも、デュストスを見ると、“君も一緒だよね?”と思えるんだ。

 一緒?いや、むしろ、僕の方が勝っている。

 ずっと、僕たちはこのままの関係でいよう。

 


 デュストスは僕たち兄弟にちょっかいを出し始めた。

 百パーセント、母ベラの指示だ。


 特にジーク兄さんとニコル兄さんには強く出ていた。

 しかし、ジーク兄さんは全く意に介せず、ニコル兄さんは最初こそ驚いていたが、次第に大した抗議もしないなっていた。


 デュストスのそんな行動が失敗する度に、王宮での立場は悪くなっていった。


 僕はそんなデュストスを見るのが好きだった。デュストスを見ると、僕は大丈夫だって思える。


 こんな自分が最低なのは分かってる。

 でも、デュストス、君がいないとどうにかなりそうだ。


 お願い、元のデュストスに戻って。



 こんな感情を持って過ごしていると、彼が現れたんだ。


 彼の言葉は、とても甘い蜜の用だった。


 これで、また心の平穏を取り戻せる。


 デュストス、また一緒に落ちよう。





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