第12話 冒険者の日々

 冒険者となり、最初の依頼を達成して以降も、俺たちの冒険者活動は続いていった。


 冒険者と言えば、凶暴な魔物を討伐なんてことを想像すると思うが、なりたてのFランクがそんな依頼を受けることは出来ない。


 俺は、森の浅い部分での素材採取の依頼表を掲示板から取った。

 しかし、ここで毎回のように、ルミエルかワンダにノーを突き付けられた。


「坊っちゃまは依頼表を選ぶコツがまだ分かっておりません。しばらく私が依頼を選別します」

「コツ?適正ランクだけじゃないのか?教えてくれ」


 するとルミエルは目を逸らした。


「坊っちゃま、私が持ってくる依頼を見ていれば分かります」


 稽古では、割と言葉で教えてくれるタイプなのに、何故か依頼の選び方は見て覚えろって感じなんだよな。


 俺たちが依頼のために森へ入ると、百パーセント魔物と遭遇した。確かに受付嬢のカエラは最初の説明で言っていた。


「森の浅い部分と言っても、魔物に遭遇することはありますので、気を付けてください」


 とは言うものの、毎回遭遇するのはいかがなものだろう。


 しかも、依頼を受ける度に魔物が強くなっている気がする。最初はBランクに見せかけたDランクだったが、冒険者になりひと月も経つと、魔物はAランクに見せかけたCランクになっていた。


 色々とおかしい。そもそも、ここは浅い部分なのか?いつも、ワンダが

「もっといい採取場所がありますよ」とか、


 ルミエルが

「坊っちゃま、こちらが近道でございます」って言うからついて行ってるけど、そんなときに限って魔物に遭遇する。


 俺は思った。


「なあルミエル、ワンダ、お前たち、呪われてない?魔物によく遭遇する呪いがあるんだ。お前たちはきっとそれに、、」

「そんなワンダフルな呪いかかってみたいですわ。そうしたら魔物が倒し放題でしょ」

「ほほほ、坊っちゃま、私もワンダと同じ意見です。つまり、何事も深く考え過ぎない方がいいと言うことです」


 ママも

「そやそや、深く考えても意味無い」


 こいつはノー天気だから仕方ないか。


 今のところ、出会う魔物はBランクに見せかけたDランクや、Aランクに見せかけたCランクなのでどうにかなっている。


 俺のゲーム知識では明らかにAランクでも、戦ってみるとどうにかなってしまう。ということは、ランクはDやCで正解だ。

 これがゲームとは違うリアル世界ということなのか。

 考えても分からないから、ルミエルとワンダの言うことを信じるしかないのである。

 

 考えてみたら、王都に近い森に強い魔物がいたら、安心して生活出来ないものな。


 そんな風に過ごして、更に二ヶ月、俺とママは気が付けば、冒険者ランクがCランクに上がっていた。かなりのハイスピード出世らしい。


 いや、でもさあ。

Fランクの依頼を受けてたら、たまたま魔物と遭遇して、ランクが上がるって変じゃね?

 そりゃあ、毎回、自分のランク以上の魔物を倒してたらランク上がるよ。

 でも、そんなの何度も続く?


 ママは、かなり喜んでいる。


「人間、三十路を過ぎても成長できるもんや」

「奥様、こうなれば目指せSランクです」

「Cランクなら結構な依頼がありそうやしな」


 ママとワンダは楽しそう。

 なんでママは、こんなに単純に喜べるんだ?


「なあ、ルミエル、本当に俺なんかがCランクでいいのか?」

「ほほほ、坊っちゃまがCランクになれないなら、今頃、冒険者の9割9部がDランク以下でしょうね」


 元銀級騎士の言葉を真面に受けてもいいのか悩む。

 せめて、白銀級なら、信憑性が増すんだけど。


 そんな話をしていると、ギルトマスターのマイッツアーが現れた。俺の所へ来て、ガシッと両肩に手を置いた。


「タケル、これからも頼んだぞ」

「あ、あぁ」


 何か重い。特に深い意味はないと信じたいが。


「あれは企んでおりますな」


 そう言うルミエルに、「何を!?」と尋ねてみたが、


「私の口から言えることではありません」

と惚けるのであった。

 

こいつ何か知っているな。


「ところで坊っちゃまは最近、冒険者のお友達が出来たようですね」


 ルミエルの質問に、俺は「知っていたか」と返す。俺とそいつとの出会いをルミエルに話した。


**********


 俺は一人で依頼表を選んでいた。


「坊主見ない顔だな、初めてか」


 振り向くと、ガタイのいい厳つい顔があった。

 髪は短髪で、目つきが悪い。


 これ、テンプレのやつか?新人冒険者を試すっていう。ギルドの職員も動こうとしない。自ら乗り切れってパターンか。


「坊主だったら、これでも受けてろ」


 厳つい男は無造作に依頼表を剥ぎ取ると俺に渡してきた。

 俺が探してた薬草採取の依頼。

 Fランクでも受けられるものだ。

 たくさんある中なら探すのが大変なんだよね。

 お礼を言っておこう。


「ありがとう」


 俺が言うと、


「お、おう」


 厳つい男は少し引いていた。

 ん?普通ここで、子供は薬草でも取ってろ!と馬鹿にしてくるんじゃないのか?何故仕掛けてこない?


 まあ、いいか。俺は依頼票を持って、受付に行く。


「ちょっとまて坊主!」


 お!ここで来たか。来ないかと思ったら、ちゃんとテンプレやってくるのね。

 ギルド職員も見てるし、ここは舐められちゃいけない場面ってことだね。

 と言うわけで。俺は少しの魔力を出して、ぎろりと厳つい男を睨んだ。


「うっ、お、お、お前、薬草の取り方知ってるのか?」


 へ?取り方?何言ってるの?というかこの人汗かいてない?緊張してる?自分から喧嘩売ってきたくせに。


「いや、知らない」


 俺は混乱する頭で何とか答えた。


 厳つい男は何度も大きく頷きながら、「仕方ねえな」と俺に近付いてきた。


「俺が教えてやる」

「は?」


 ここから、厳つい男グレンジャーによる講義を受けることになった。

 グレンジャーはDランクで十年越えのベテランらしい。

 何故か話が魔法や戦闘にも及び、訓練場で魔法を見せると、グレンジャーはかなり驚いていた。


「無属性魔法ってことは俺にも出来るのか?」


 グレンジャーの属性は無属性であるらしく、戦闘では身体強化魔法しか使っていないらしい。

 俺の魔法を見て、覚えたいと思ったようだ。なので、「出来るんじゃね?」と適当に答えた。


 素材採取の仕方を教えてもらってるから、そのお礼に俺が魔法を教えることは全然かまわない。

 ということがあり、今では俺が無属性魔法を教えて、冒険者活動に役立つ情報をグレンジャーが教えてくれるようなった。


 カエラは、

「グレンジャーさんはいい人なんですが、見た目と言い方で、誤解されるんですよ」

 と、話していた。


 グランジャーはたぶん、絡み方が下手なんだな。

 でも、周りからはかなり慕われている。


 グレンジャーのおかげで、俺も冒険者の知り合いが数人できた。

 話すと面白い人が多く、王侯貴族連中より、俺にはこっちが合っているのかもしれない。


**********


 冒険者ランクが上がるにつれて、お金が貯まってきた。

 お金はギルドの口座で管理しているが、一部は慰謝料の支払いで使った。


 俺とママが前世の記憶を取り戻す前に首にした王宮の元従業員たちは、実は執事長の計らいで、本当に解雇になった人は一人もいなかった。


 俺とママの目に触れない別の場所で仕事をしている。てなわけで、慰謝料もそれ程、高額にはならず、払い終わってからは、金が溜まっていく一方だ。


「ぐふふ、このまま資金を貯めて、学校卒業後は、辺境でスローライフだぜ」


 未来を夢見て、俺は日々ひた走る。


「そんな都合よく、いかへんと思うけどな~」


 銭ゲバよ、前向きな気持ちに水を差すんじゃない!


 しかし、ママの言った通り、順風満帆に行かないことを、俺は身をもって知ることになる。






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