第11話 初の大物戦

 ルミエルとワンダが森の方へ歩き出し、ママも自然についていく。

 しかし、俺は納得していない。


 俺は前世から任された役割をそれなりに熟すことが正しいと思っていたんだ。


 確かに、遡って調査する役割は必要だろう。そういう人がいるから、世の中の平穏は保たれていることは分かる。


 だが、一番美味しいポジションは、それを人にやらせて、自分は情報だけを取得し、持ち前のコミュニケーションスキルで、頼れる雰囲気を出す奴だ。


 苦労しても正当な評価をしてくれる人がいなきゃやり損だ。


「ママ、本当に行くのか?」


 ママは俺の考えが分かるはずだ。

 それでいて何と答えるのか気になった。


「息子よ、悔しいけど、わてらは王族や。こんなときに一肌脱ぐのが、わてらの役目やろ」


 ママは歩きながら答えた。


 何だよ、ママの癖に。まるで俺だけ小物みたいじゃないか。


 ママの後姿はいつか見た、極道の妻みたいに格好良く感じた。


 いいよな、美女って、何やっても絵になるわ。中身がおばはんでも。


「分かったよ、俺も行くよ」




 俺たちは既に森に入って一時間ほど調査している。ここまでの道のりでモーグの穴は何個が見つかっていた。


「ここを見てください。坊ちゃま、奥さま」


 ルミエルが示す箇所は大木が引きずられたような跡がある。


「おそらくこれが、モーグが人里へ移った原因です」


 それはこれを見て、何となくではあるがピンと来たことがある。


「魔物だな」


 俺の言葉にルミエルが頷いた。


「坊ちゃま、魔力を薄く薄く地面に沿うように広げてみてください。ベリースィン(とても薄く)」


 俺はワンダに身われた通り、魔力を広げてみた。


「魔力は生物に干渉します。生命エネルギーを発している魔物に自分の魔力がぶつかったときの反応をキャッチしてください」


 そんなことが出来るのか?大体、遠くに伸ばした魔力の反応なんて分かるものなのか。俺は半信半疑でやってみた。


 ん?この反応?何となくだけど、ウサギやキツネの魔物ではない気がする。反応が大きい。

 ウサギやキツネは俺の魔力に反応して逃げていくが、これはだけは逆だ。俺の方に近付いてくる。

 って、やばくない?


「来るぞ。みんな準備しろ!」


 ルミエル、ワンダ、ママの表情に緊張感が加わる。


 一番緊張しているのは俺よ。


 だって俺の魔力に寄って来てるんだもん。絶対逃げられないじゃん。


「ルミエル、何の魔物が出てくるんだ?」

「ほほ、それは見てからのお楽しみです」

「奴が土に潜った、来るぞ」


 俺たちの目の前の土にヒビが入った。

 俺は後ろに下がり、地面から出て来た魔物を確認した。


「ジャンアントワームだ」


 俺の頭は真っ青になった。

 だってジャイアントワームは俺の記憶によればBランク、巨大なミミズの魔物だ。今の俺たちでは太刀打ちできない。


「みんな撤退だ」


 苦渋の選択だが、相手がBランクのジャイアントワームならば仕方ない。

 きちんとメンバーを選別し、準備をしてから討伐しなくてはならない。


「坊ちゃま」

「何だよ!!」

「坊ちゃまは勘違いをしております。

 あればスモールワームの変異体、ランクはDです。

 ですから、我々でも充分、討伐出来ます。

 その証拠に坊ちゃま、一つ自信がある魔法をスモールワームに打ち込んで下さい」

「ほ、本当か?」


 ルミエルの言葉を信じたいが、どう見てもゲームで見たジャイアントワームだ。真っ直ぐ俺に向かってくると思うと足が竦む。


「坊ちゃま、見た目に騙されてはなりません。早く魔法を!」


 と言いながら、ルミエルは俺から少し離れた場所にいる。

 ワンダもママもだ。ずるいよ、お前ら。

 こうなったらヤケクソダだ。


「魔デッポウ、五連打!」


 俺は魔デッポウを指五本に溜めて、瞬時に発射した。

 スモールワーム(改)が吹き飛ぶ。

 効いているのか?動かなくなったスモールワーム(改)を見て、近づこうとすると、


「坊ちゃま、まだです」


 スモールワーム(改)が再び動き出した。

 だが、俺の魔デッポウが当たった個所からは血が出ている。


「息子よ、わてが動きを止めるから、仕留めるんや。長くは持たんから早くするんや」


 ママが闇魔法でスモールワーム(改)をぐるぐる巻きに縛っていく。

 ダークバインドか。


 俺の魔法は間合いを取るために使うものが多く、魔物に止めを刺す魔法は習得していない。

 つまり火力不足だ。

 魔デッポウでごり押しする方法もあるが、そうなると相手も必死の抵抗をするだろう。だから、今回は直接切る。


 俺は身体強化魔法を使った。

 跳びこむための脚力、魔物の皮膚に剣が負けないための硬質化、そして魔物を切り切る腕力。

 身体強化は俺のイメージでは電気だ。体と剣の中に回路を構成し、ひたすら魔力の粒を循環させる。循環させるスピードが速ければ速いほど、力は強くなる。


「ウォーーーー!!」


 俺は思いっ切り剣を振り下ろした。スパン、


「え?」


 剣はいとも簡単にスモールワーム(改)の顔付近を切り落とした。


「思ってたのと違う」


 スモールワーム(改)は程なくして動きを止めた。


「だからDランクと言ったでしょう」


 ルミエルは澄ました顔で言った。

 俺の想像では血しぶきを浴びながらやっと切れるかどうかだったが、思いのほか、簡単に切れてしまった。

 Dランクというのは本当だったらしい。


「疑って悪かった」

「ほっほ、これも経験ですな」


 終わってみたら、熱くなりすぎたってことかな。


 ルミエルの言ったことは本当だったらしい。


 さすがに冒険者になりたてのFランクがBランクに勝てるわけがない。

 ちゃんとルミエルやワンダの言うことは聞かないとな。


「でも、ルミエル、ワンダ、お前ら少しは手伝ってくれても良くない?」

「あら、そうかしら、この戦いで坊っちゃまはベリー成長したと思いますよ。それに危ないときは助太刀するつもりでしたから」


 ワンダは呑気な声で言った。

 まあ、信頼してないわけではないけど。


 その後、冒険者ギルドに報告すると、スモールワーム(改)の死骸が森から運び出され、今回の件は終了となった。


 俺が驚いたのは、報酬のことだった。

 当然ながら、成功報酬は依頼者が村であるため、大したものではない。

 しかし、モーグとスモールワーム(改)の死骸の買取金額が凄かった。4人で山分けしても、しばらく暮らせる。


「坊っちゃま、冒険者の報酬は装備を揃えると、微々たるものですよ。無駄遣いはしないように」

「わ、分かってるよ」


 俺は一度現ナマを見たかったが、どうせ使わないからと反対され、ギルドの口座に振り込まれることになった。


 初依頼の報酬はパーっと使おうなんて考えてたけど、あかんよね?俺、王子だし、どこで誰が見てるか分からんし。


「いいか息子よ、大事なのは現金の塊やない。現金の塊を恵んでくれる肉親や。友人や遠い親戚から奢られると罪悪感が出るけど、肉親ならそんなことはないからな」


 馬鹿のいうことは放っておこう。清々しいほど他力本願なのは尊敬するが。

 こうして、俺の冒険者としての初依頼が終わった。




サイド:ルミエル


 坊っちゃまと奥様の初依頼は無事に終わった。

 当初は、終わりの見えないモーグ叩きに苦戦していたが、奥様の魔法によって状況が変わり、一気に殲滅へと繋がった。


 しかし、今回の依頼はここからが本番。

 モーグの人里大量発生の原因を探る。モーグは土に潜む魔物。つまり、原因は土。


 ここで坊っちゃまが渋った。

 体力的に1番頑張ったのは坊っちゃまだ。依頼外は断りたいことだろう。


「息子よ、悔しいけど、わてらは王族や。こんなときに一肌脱ぐのが、わてらの役目やろ」


 私は奥様の発言に驚いた。

 確かに奥様は明らかに以前とは違う雰囲気を纏っているが、王族の責務まで意識していらっしゃると思ってもみなかった。


「分かったよ、俺も行くよ」


 さすがに坊っちゃまもこれだけ言われては格好がつかず、素直についていくことにした。

 今の奥様であれば、坊っちゃまを王族として正しい姿に導けるかもせれない。


 森の中で調査を進めると、モーグ人里大量発生の原因がジャンボワームであることが分かった。

 ジャンボワームはBランクの魔物。しかし、坊っちゃまと奥様なら簡単に討伐してしまうだろう。

 私とワンダが助太刀する必要はない。


 坊ちゃまの魔力感知に反応してジャンボワームが姿を現した。


「みんな撤退だ」


 坊っちゃまは瞬時に判断した。確かに普通のFランク冒険者であれば、妥当な判断だ。

 しかし、マイッツアーの手前、討伐してもらわなくては困る。


「坊ちゃまは勘違いをしております。

 あればスモールワームの変異体、ランクはDです。

 ですから我々でも充分、討伐出来ます。

 その証拠に坊ちゃま、一つ自信がある魔法をスモールワームに打ち込んでください」


 つまり、とっとと魔法を打ち込めってことだ。


「魔デッポウ、五連打!」


 坊っちゃまは即座に魔法を打ち込んだ。

 また、魔法の速度が上がったようだ。末恐ろしい。後でワンダに意見を聞こう。


 ジャンボワームワームは吹き飛んだ。

 出血を見るにかなりダメージはあるだろう。

 動き出したジャンボワームを奥様が魔法で縛り、動きを封じた。

 ワンダの目を大きく開いている。奥様は闇魔法の天才だ。


 坊っちゃまが切り込む。凄まじい身体強化を行っているのが分かる。

 ジャンボワームはいとも簡単に切れてしまった。勢い余って、地面に剣がくい込んでいる。


「疑って悪かった」


 坊っちゃまはDランクであることを信じてくれたようだ。


「ほっほ、これも経験ですな」


 今後もこの手で行こう。マイッツアーには借りがあるからな。


 その後、冒険者ギルドにてマイッツアーに報告すると、予想以上の結果に奴は興奮していた。


「とうとうこのギルドにエースが現れた。いいか、絶対、あの二人をどこかの貴族持ちにさせるなよ」

「さすがにそれはないわよ、マイッツアー。だって彼らは王族だし」

「それもそうか。だが、偽名で活動してるから、アホな貴族が声を掛けてるくるかもしれん。絶対、誘いには乗るなよ」


 マイッツアーは、自分の手足となる実力者が現れ、テンションが駄々上がりだ。


「よし、ルミエル、ワンダ、次はこれだ」


 マイッツアーは依頼票を一枚渡して来た。それを見て私は思った。


 騎士団長を解任になり、ゆっくりできると思っていたのだがな。

 だが、坊ちゃまと奥様がこれからどうなっていくのかを間近で見れるのであれば、忙しくなるのも悪くはなさそうだ。






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