第8話 マイッツァー視点

サイド:マイッツアー


 ギルドマスター室の扉が慌てたようにノックされた。入ってきたのは受付嬢のカエラだった。


「ギ、ギルドマスター!」

「どうしたんだ、慌てて」


 急に部屋に入ってくる奴がいれば、大概は叱ってやるところだが、カエラの様子がおかしかったので、話すように促した。


「ベラ王妃とデュストス王子が冒険者登録にやってきました!」

「何?」


 ベラ第三王妃と言えば、息子を使って国の実権を握ろうと画策していると聞く。

 デュストス王子はそんな母親の傀儡となり、言われるがままに悪事を行っていると。


 王都中で評判が悪い二人が冒険者登録だと?嫌な予感しかしない。

 カエラに指示を出し、俺は王族二人と対面することにした。


 カエラが応接室にベラ王妃とデュストス王子を連れて来た。

 二人の後ろについてくる男女がいた。

 

 何でお前らがいるんだよ。

 俺は思わず、王妃と王子の後ろの二人を睨んだ。


「ベラ王妃殿下、デュストス王子殿下、ギルドマスターのマイッツアーです」


 カエラは俺を紹介すると、そそくさと部屋から出て行ってしまった。

 付き添いの二人のうちの一人、ワンダが王子に耳打ちした。


「ギルドマスターはSランク冒険者ですよ」


 ワンダめ、揶揄った目で俺を見てやがる。

 大体、こっちはお前たちのせいで、やりたくもないギルドマスターなんかやってるんだからな。


「堅苦しい挨拶はここまでにしよう。俺とママのことは、名前で呼んでもらって構わない。というか、それでも頼む」

「私も堅苦しいの好きやないんです」


 王子と王妃の言葉は俺にとっては意外だった。

 権力欲しさに悪事に染めていた二人が平民に向かって、敬語を止めろ?


 俺はルミエルとワンダを見た。二人は静かに頷く。

 俺は一つ息を吐いた。


「分かりました。では、ベラ様、デュストス様」


 当たり障りのない、冒険者の基本的な説明をする。

 本来は受付嬢の仕事だが、この二人が相手だと俺がやらざるを得まい。


 王族といえども、冒険者として新人に優遇処置は出来ない。

 一般と同じFランクからあることを伝えたが、王妃も王子もどちらも前向きな返答であった。


 本当に悪道親子か?


 冒険者の仕事は幅広いが、必要なことは知識と強さだ。

 知識については、ルミエルとワンダがいるなら問題ないだろう。問題は強さだ。


 依頼を受けたのはいいものの、魔物と戦って怪我をした、最悪殺されたとなれば、俺の首が飛ぶだけでは済まないだろう。

 俺は二人の強さを確認したいと思った。


「分かりました。では、こちらで手続きをします。因みにお二人は武術や魔法の経験はありますか?」


 すると、ルミエルが横やりを入れて来た。


「見てみればどうだ?」

「おい!」


 何言ってんだ?いつも丁寧は口調を装っているのに、人を挑発するときはこんな口調をするんだよ、こいつは。


 大体、なんで俺が王族の実力を見ないとならないんだ?怪我をさせたら、処刑だろ。

 こっちはただでさえ、毎日、膨大な問題と戦っているのに。大きな爆弾を持ち込みやがって。


「ギャラリーは無しでお願いね」


 俺は深いため息をついた。

 この二人、あとで絶対殴る。


「いいんだな、お前ら」


 俺はルミエルとワンダに向けて言った。

 王妃と王子も問題ないようなので、俺たちは訓練場に向かった。


 訓練場に入り、俺と王妃と王子はそれぞれ、武器を選ぶなどの準備をした。

 俺がガントレットを到着していると、ルミエルとワンダが近づいてきた。


「身体強化は最初から最大にした方がいいぞ」

「何?」

「ふふふ、楽しいものが見れるといいわね」


 こいつらは昔からそうだ。年下の俺をいつも揶揄ってきやがる。

 絶対、今日は許さねえ。


 ルミエルの忠告通り、俺は身体強化を最大にした。


「二人纏めて掛かって来てください」


 試しに殺気を放ってみた。しかし、王妃も王子も臆することはない。


 へえ、新人冒険者なら俺の殺気を食らえば、倒れてしまう奴もいるが、それなりにはやれるってことか。


 二人が同時に飛び掛かってきた。

 二人とも近接タイプか?

 俺は二人の攻撃を両腕のガントレットで受け止めた。


 王子は俺の脚を狙い、王妃を顔面に突きを入れようとしてくる。


 こいつら、慣れてやがる。剣術はルミエルが仕込んだのか?


「息子よ、わてが魔法で補助したる。あんたが攻めるんや」


 王妃が後ろに下がった。

 この王妃、魔法を使えるのか?だったら、厄介な魔法師から狙うのが鉄則。


 俺は王妃目掛けて走った。

 しかし、すぐに俺の上級に黒い魔力の雲が発生する。

 もう、魔法を発動したのか?魔法はワンダが教えているのか。


「ダークレイン」


 見たことのない魔法だ。だが、あの黒い雨に当たってはいけないと勘が告げる。

 俺は急いで飛び退いたが、数滴に当たってしまった。その瞬間、体から力が抜ける感覚があった。


 王子が正面から切り掛かってきた。

 腕をクロスさせて受け止めるが、先程より剣を重く感じる。王子は勝機と捉えたのか、さらに剣を振ってきた。

 

 “舐めるなよ!”

 

 俺は王子の剣を掴み、体を引き寄せた。

 このまま、一発殴ってやる。

 しかし、俺の拳が当たる瞬間、王子から放たれた魔法によって、俺は吹き飛ばされた。


 何だ?今の魔法は。


「息子よ、交代や。今度はわてが攻める」


 今度は王子が下がって、王妃が攻めに来た。

 この二人、武器による近距離と魔法による中距離を熟すオールラウンダーか?


 王妃は俺を休む間もなく攻めてくる。

 俺は避けるのが精一杯だ。王妃の攻撃は激しいが、避けらない程ではない。

 このままいけば隙を見つけることができる筈だ。


 王妃が飛び込んでくる。

 棒に奇妙な魔法を纏わせている。あんなのが当たったら徒では済まない。


 俺は避けるために、その場から跳ぼうとした。

 しかし、何かの魔法が当たった。

 王子か。


 痛みはない。だが、脚を地面から離すのが、急に出来なくなった。

 王妃の攻撃が当たる。

 

 俺は新人冒険者二人に負けるのか。

 その時、俺と王妃の間に突風が吹いた。


 ワンダ、止めるのが遅いぞ。あいつらめ、俺がこうなることを分かってたな。

 俺はルミエルとワンダを睨んだ。


「ベラ様、デュストス様、手合わせありがとうございます」


 俺は頭を下げた。王族二人に手合わせさせるなんて、普通に考えれば無礼極まりない。

 冷静に考えれば、罰が下るかもしれない。


 しかし、王子と王妃も俺に頭を下げた。

 この二人は、評判とは異なると思った。

 手を合わせた俺なら分かる。


 二人から悪道親子っぷりが全く感じられない。次世代の冒険者を担っていくのはこういう奴らなのかもしれない。


「冒険者ギルドはお二人を歓迎します。是非とも冒険者として、市民の平和に貢献してください」


 お決まりの台詞ではなるが、俺は心底、二人の新人冒険者に期待したいと思った。


 

 訓練場を後にして、俺はルミエルとワンダを呼んだ。

「お前ら、顔を貸せ」

「あらあら、宮廷勤めの私たちにそんな恐い言葉使わないで」


 ワンダがふざけるように言った。


「仕方ないな」ルミエルが言った。


 俺はカエラに王族二人の相手を任せ、別室でルミエル、ワンダを問い詰めることにした。


 ギルドマスター室に戻り、ルミエルとワンダにも椅子に座るように促した。


「あの二人は何なんだ?」

「何なのって、いつも人材不足ってあなたが言ってるから、優秀な人材を紹介しに来たんじゃない」


 ワンダも冗談とも本気とも取れる口調で言う。


「そうだ、二人が冒険者になりたいと言っていたし、優秀な人材がいないと困っていた奴もいたから渡りに船だと思ってな」


 ルミエルの言葉に、俺は、はあ、とため息をついた。


「まあいい、では、まずはマサミの方だ。あの魔法は何だ?見たことのない黒い魔力」


 俺はワンダを見た。ワンダはお茶を一口飲んだ。


「思い当たる節はない?黒くておぞましい魔力と言えば」

、、、

「闇魔法か」


 ワンダは人差し指を上げた。


「正解!奥様は闇魔法使い。これまでは魔法の鍛錬をして来なかったようだけど、息子と冒険者になるために、鍛えることにしたのよ」


 闇魔法は数十万人に一人の割合で発生するとも言われる。だから決して全くないというわけではない。


 しかし、魔王の魔力が黒い魔力だったという言い伝えから、人々からは忌み嫌われる属性とされている。

 王妃が闇魔法使いって、絶対秘匿にしなくてはならない情報ではないか。

 俺はワンダをさらに睨んだ。


「アフレイド・アフレイド(怖い怖い)、そんな風に見ないで、マイッツアー。私たちとあなたの仲でしょ。ねえ、ギルドマスター」


 くっ、俺はこいつらからギルドマスターと呼ばれること程、屈辱的なことはない。

 全部、こいつらのせいなのに。


「じゃあ、タケルの魔法は何だ?あれも見たことなかったぞ」


 ワンダは目を大きく開けて、俺を見た。

 興味持った?じゃねえぞ。


「最初のは、硬質化した魔力をぶつけたのよ。痛かったでしょ」

「ああ、かなりな」


 俺は魔法が当たったであろう個所を撫でた。

 身体強化を行っていたから、この程度で済んだが、そうでなかったら大怪我をしていただろう。


「もしかして剣にも同じ魔力を纏わせていたのか?」

「ピンポン!」とワンダは指を立てた。


「二回目は何だ?」

「あれは“トリモチ”。魔力に粘着性を持たせて、相手の動きを封じるための魔法よ。坊ちゃまは“魔ナットウ”って言ってたけど、さすがにダサいから却下したの」


 俺はこめかみを抑えた。そんな見たことがない魔法をあの少年が?


「お前が教えたのか?」

「私は魔法のコツや魔力の練り方を教えたけど、独特な魔法は全て、本人が考えたものよ」


 なるほど、と納得は出来ないが、無理矢理納得するしかないのか。タケルは魔法研究の才能があるのかもしれない。

 次に俺はルミエルを見た。


「二人は武器も使いこなしていたが、あれはお前が?」

「まあ、坊ちゃまの方は私が基礎から教えていますが、奥さまの棒術、いえ長剣術は元々お持ちだったものです」

「何?マサミは武器の心得があったのか!?」


 ルミエルが静かに首を振る。


「奥様が城へ来る前にどのような生活をされていたかは分かりませんが、少なくても私が知る限りではそのような様子はなかった」


 俺はマサミの戦いを思い返していたが、あれはもう既にBランクの上かAランク相当レベルだ。


「では、あなたから見て、奥さまと坊ちゃまはどうなの?」


 ワンダがジロっと俺を見て来た。


 こいつらはマサミとタケルの評価を気にするようで、俺に見る眼があるかを気にしているんだ。呆れるぜ。


「ああ、マサミは、Sランクは間違いない。タケルもAランクにはなれるだろう」


 俺の評価を聞いて、ルミエルとワンダは顔を合わせて笑った。


「普通はそう思うだろうな。だが、坊ちゃまの本気の魔力を見たら、その評価は覆るぞ」


 俺は笑っているルミエルとワンダを見ていると、無性に腹が立ってきた。

 今回のことだけではない。

 こいつらは俺に返しても返しきれない恩があるというのに。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(あとがき)

次回、あきらかになる、おじさん、おばさんの過去


(お願い)


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