第9話 三人の過去

サイド:マイッツアー


 当時、俺とルミエル、ワンダの三人は、王都を拠点としたAランクパーティーとして、日夜依頼を熟していた。


 ガントレットでひたすら殴る俺、疾風のごとく切り裂くルミエル、遠距離からの狙い撃ち魔法ワンダ、攻撃寄りのバランスではあるが、いいチームだった。


 大概、年下の俺が囮になってなって、ルミエルとワンダが止めを刺していたがな。


 オークの大群、オーガの群れ、ワイバーン、騎士団を100名単位で派遣して対応する案件も、俺たち三人が掛かれば、綺麗さっぱり解決。

 市民の中には俺たちを半ば英雄のような眼差しで見る者もいた。


 Aランクになると、貴族から声が掛かり、専属にならないかと誘われたが、自由を重んじる俺たちは断り続けた。


 ある日、指名依頼があると、ギルドマスターに呼ばれた。

 依頼内容はとある領のドラゴン討伐。

 作戦は俺たちが囮となり、領の騎士団で一斉に攻撃を仕掛けるといったものだ。

 ギルドマスターが俺たちを見ながら言った。


「お前たちはこの依頼でドラゴンを討伐し、Sランクになるだろう。そうしたら、わしは引退する。お前たちがギルドマスターになれ」

「はあ?」

「何言ってんのよ?」

「誰がなるか!」


 俺たち三人は揃って猛反対。

 本気かどうかも分からず、困惑する俺たちであったが、とうとうドラゴン討伐は始まった。


 俺たちは作戦通り囮となり、ドラゴンを騎士団まで誘導した。

 しかし、結果騎士団は壊滅状態に陥った。

 ドラゴンが思った以上強かった?違う。騎士団は弱すぎたのだ。

 

 急遽、俺たち三人でドラゴンを討伐。当初、想像していた通り、俺たちはSランクになることが確定した。


 後日、ギルドマスターに呼ばれたので、三人で冒険者ギルドを訪れることになった。


 当日になってもルミエルとワンダは現れない。

 受付嬢が俺一人でもいいからと、ギルドマスター室に入るように促して来た。

 部屋に入ると、ギルドマスターがにやりとした。


「マイッツアー、来てくれたか。お前なら、分かってくれると思っていた。今日で俺はこの職を辞める。もう辞表も出した。さあ、これからはお前がギルドマスターだ」

「何言ってんだ?断っただろ、その話は」


 すると、ギルドマスターは一通の手紙を出して来た。


「ルミエルとワンダからじゃ。 “マイッツアーは責任感がある。あいつをギルドマスターにしてくれ”」


 ルミエルとワンダからの手紙?俺がギルドマスター?話が見えねえ。


「わしも思っておったが、お前たち三人は冒険者としての実力は申し分ない。しかし、ルミエルとワンダは自由奔放、身勝手な奴らじゃ。その点、お前は違う。若手にも指導しているし、悩み相談にも乗ってやっている。職員たちの評判も上々じゃ。共同代表でも良かったが、誰か一人を選ぶならお前しかおらんと思っておった」


 ギルドマスターは、フォッフォフォと髭を撫でながら言った。


「というわけで、これが就業規定じゃ。読んでおくんじゃぞ。因みに王城から“Sランクへの昇格とドラゴン討伐を祝いたいから登城せよ”と来ておったが、理由を付けて断っておいたぞ。どうせお前たちなら嫌がると思ってな」


 くそ、話を勝手に進めるな。俺が混乱してるからって。


「そうだ、ルミエルとワンダはどこにいる?」


 ギルドマスターは怪訝な眼で俺を見た。


「わしが知るわけないじゃろ。しかし、、、、王国騎士団と、魔術師団に最近、新人が入ったそうだぞ。新兵を取る時期でもないのにな」


 はあ?王国騎士団、魔術師団?あいつら、今更どういうつもりだ?そういうのは自由が利かねえからと嫌がってたじゃねえか。


 俺が混乱しているうちにギルドマスターが消えた。

 俺も帰ろうとしたが、冒険者ギルドの職員たちが泣いて“行かないでくれ”と懇願してきた。

 仕方なく、俺は次が見つかるまでとの約束でギルドマスターの地位に納まることになった。

 

 数年経ち、飲み屋で酒を飲んでいるところに、見覚えのある二人組が現れた。


「元気にしてたか?マイッツアー」


 顔を上げると、声の主と思われるルミエルと、依然と変わらない悪戯顔のワンダがいた。


「てめえら、何のこのこ、やって来てるんだ!?俺の苦労も知らないで」


 俺がカッとなってコップの中の酒を投げると、ルミエルの顔に酒が掛かった。

 こいつ避けなかったな。


「ごめんなさい、マイッツアー」


 ワンダが頭を下げた。

 ルミエルも続く。

 俺は二人の話を聞くことにした。


 **********


 ルミエルとワンダが共に王国騎士団に入ったのはたまたま偶然だった。


 仮名で冒険者活動をしていたことを利用し、まんまと本名で新人騎士として、騎士団に入り込んだらしい。


 騎士団でお互いを見つけると、同じ考えであることが分かり、ギルドマスターに手紙を出した。

 それで俺に押し付けたってわけだ。


「で、何でお前らが王国騎士団に?」

「ああ、私たちはドラゴンを倒したことで、Sランク昇格が決まっていた。仮にギルドマスターを断れたとしても、俺はSランクになるのが嫌だった。お偉いさんからの指名依頼を断れなくなるし、国の重要戦力ということで、常に居場所を知らせなきゃならないからな。そんな堅苦しい立場になるよりは新人騎士として、責任の軽い立場で魔物討伐が出来ればと思った」


 ルミエルの言っている意味は分かる。王国はここ数十年戦争がない。

 そのため、騎士団の仕事は専ら魔物討伐だ。

 それであれば冒険者の経験が生きる。

 二人の実力で気楽にやりたいのであれば、分からない選択ではない。


「でも、そうもいかなくなったのよね」

「ん?どういうことだ?」


 ワンダの悲し気な物言いに俺が尋ねた。


 騎士団の訓練は二人にとっては朝飯前。どうせ、真面目にやってないだろうけどな。

 そんな二人が浮かない顔をしている理由とは。


「私たちは分かっていなかった。確かに今まで見て来た領地の騎士団は、魔物討伐においては全くと言って良い程、機能していなかった。だが、王国騎士団は違うと思っていた。というか、Cランク程度の魔物なら普通余裕で倒せるだろ」


 ルミエルの言葉にワンダも頷く。


 ルミエルとワンダは、魔物討伐任務になると、誰よりも進んで魔物を倒しまくっていたらしい。

 自分では冒険者時代のようにしていただけであったが、他の騎士達があまり魔物を倒さない為、ルミエルとワンダの討伐数だけが増えていった。


「私たちは新人だから、雑魚掃除をやらされるのねって思ってたんだけど、、、」


 しかし、任務がある度にルミエルとワンダ二人のみが前線に立たされるようになった。

 おかしいなとは思いながらも、あるときの任務で二人はワイバーンの巣に攻め入り、十数匹ほどの群を撃破してしまった。

 そして、王都に帰ってみると、


「私たちはオリハルコン級騎士に認定されてしまった」


 そう話すルミエルの顔は偉く沈んでいた。

 オリハルコン級といえば、ドラゴン一匹を倒せるレベル。

 ワイバーンだから群れってわけか。


「まあ、騎士達の実力を見極めないうちに、自分の力を出してしまったんだから、お前たちも悪い。それに、単なる強さの階級が上がっただけなら、大した問題でもないだろ」


 ギルドマスターになるよりはマシだから、それくらい我慢しろって。

 しかし、ルミエルとワンダは浮かない表情で目を合わせて、また俺を見た。


「それだけじゃないんだ。確かに私達も強さが認められただけならいいか、と思っていた。だが、騎士団があまりにも不甲斐なく、且つ新人が異様にまでに強いという事態に、御偉いさんが鶴の一声を上げた。結果、私たちは騎士団長と魔術師団長に任命されてしまったんだよ」


 好きなことしかやらない、そんなこいつらが騎士団長、魔術師団長?

 絶対無理だろ!


「ははははは、愉快愉快。人を貶めるからそうなるんだよ」


 俺は二人の目の前で心底笑ってやった。


 騎士団長、魔術師団長と言ったら、単に騎士団の面倒を見るだけではない。

 お偉いさんとの会合に出席したり、王族の護衛に駆り出されたりと、面倒な仕事を押し付けられる、かなり厄介な立場だ。


 ふと思う。

 こいつらは自由奔放な性格で、面倒なことは後回し。

 確かに俺にギルドマスターを押し付けた罪悪感はある。

 しかし、それだけでわざわざ謝罪に来るほど、こいつらは人間が出来ていない。とすれば、、、


「本題は何だ?」


 ルミエルとワンダが目を合わせてニヤリとした。

 すると、ワンダが、


「お願い、マイッツアー、騎士団に人材を紹介して。冒険者には良い有望な若手がいる筈よ」


 ワンダが俺の肩に縋るように言った。


「今の騎士団は魔物との戦い方がまるでなっていない。私たちは団長になったことで動けないことも多くなった。だから頼む、マイッツアー」


 こいつら、団長になって少しはマシになったかと思いきや、根は全く変わってないようだ。

 何が頼むだ。聞いてるだけでハラワタが煮えくり返ってくる。


「無理に決まってるだろ。大体、人手不足はこっちも同じだ。もし、お前らに回せる人材がいたら、俺が自ら書類仕事の合間に依頼を熟さなくてもいいんだからな」


 俺は怒鳴ってやった。ルミエルとワンダはまた目を合わせて、


「「ケチ」」


 眉間の欠陥がプチっと切れた俺は、ルミエルとワンダ相手に、殴り合いの喧嘩を仕掛けたのあった。


 **********


 昔を思い出すと、今でも目の前の二人を殴りたくなってくる。

 しかし、一方で冒険者ギルドの人手不足は深刻で、有能な冒険者が来てくれるのは助かる。


「タケルとマサミには、俺が預かっている依頼を受けてもらう」

「ふふふ、もしも坊っちゃまと奥様が冒険者として目覚しい実績を上げたら、お礼をお願いします」


 ルミエルの目がキランも光り、俺は思わずしかめ面をした。


「バット(しかし)、いくら坊っちゃまと奥様に実力があるからと言って、登録したてのFランク冒険者に危険な任務をさせると不審に思われるのでは?」


 ワンダの意見は御尤も。本人たちもおかしいと思うし、何より周りが変な目で見てくる。そういったことが原因でトラブルが起きることだってあるんだ。

 

 だが、正直言って俺には知ったこっちゃない。

 あのくらいの実力があるなら、周りに何を言われても跳ね返せるはずだ。


「マイッツアー、あなた、企んでるフェイスしてましたよ」


 おっと顔に出てたか。

 ポーカーフェイスは苦手でな。


「じゃあ、こういうのはどうだ?依頼はFランク向けの素材採取にする。ところが、たまたま道中危険な魔物に出くわしてしまい、退治する。これなら、運が悪かったと思われるだけだろ?」


 ルミエルの目がギロリと光る。


「誰が坊っちゃまたちを魔物の住処まで誘導するんですか?」

「俺に負い目があるなら、それくらいしてもバチは当たらないだろ」


 ルミエルとワンダが仕方ないなと納得した。


 実は俺には更なる計画が思い立っていた。

 タケルが実績を上げ、Aランク、できたらSランクがいいが、そこまでになったら、、、ふふふふふ。


 タケルをにしてやる!


 ルミエルとワンダが引き攣っていることに気付かず、俺は口角を上げるのであった。







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