第6話 日々の鍛錬

 俺とママは日々、魔法と剣術の訓練を行った。


 無属性魔法は少しだけだが、いろいろな性質変化を起こせる。


 前回の硬質化の反対に軟化をやってみる。

 魔力圧縮を行うと、小さなスライムのような感触になった。

 触り心地が何とも言えない。癖になりそう。


「坊ちゃまの魔法は発想がまるで玩具のようですね。真面目に魔法をスタディしてきた者には考え付きません」

「そうかな?割と簡単だぞ」


「だから、その簡単なことを魔法でリアライズ(実現)しようとは思わないのですよ」


 まあ褒められているって思っておこうか。

 何だかんだ言いつつもワンダも楽しんでいるし。


 さらに熱を持つ熱化、反対に冷たくする冷化、光を放つ発光、湿り気を生む湿化、風を生み出す風化が完成した。


 どれも普通に使うと、大した現象ではないが、魔力を圧縮させることで、大きな力を生み出すことが分かった。


「オーマイガー、無属性にこれ程の可能性があったとは。しかし、これは他の属性にも応用できるのでは」


 ワンダがブツブツ言っているが、無視して進めよう。


 さらに魔法を組み合わせたらどうなるか。俺は軟化と冷化を合わせてみた。


 結果は想像の通り、ひんやりしたスライムが出来た。


 首筋に当ててみる。


 “おっ”


 動脈から熱を奪われる感じが堪らない。夏にはぴったりのアイテムだ。


 あとでこの魔法でママにイタズラしてみよう。

 いつも遊ばれているから、たまには仕返ししてやる。


「坊ちゃま、新しい魔法が出来たら名前を付けてください」


 名前か、ひんやりするからアイスノンは安直だ。

 前世のアイスノンにはパッケージに何故かペンギンの絵が描かれていた。

 ペンギン=寒い場所に住んでるってイメージからだろう。


で。冷えてるペンギンを略してだ」


 ワンダは大きなため息をついていた。


 他には、熱化と風化を合わせた、ザ・異世界魔法ドライヤーをこっそりやってみた。

 こんな如何にもって魔法は恥ずかしいけど、やってみたくなる。湿化も混ぜてマイナスイオン付だ。


 別にこれで、可愛いメイドから、「こんな素晴らしい魔法を・・・」なんて言われたいわけではない。


 決してない。


 ただの好奇心だ。


 ワンダがギロっとした目でこちらを見ている。

 名前を付けよう。


「魔ドライ」


 案の定、ワンダは嫌そうな顔をした。


 魔力を圧縮するために、魔法の出力が小さくなるが、この辺りは鍛錬していくことで、大きな出力でも効果を生み出せるようにしていきたい。


 無属性魔法はアイディア次第で無限の可能性がある。


 威力は属性魔法に比べる小さいが、使い方次第で俺の人生に大いに役に立つ筈だ。



 ママの闇魔法に関しては、情報が少ないため、ママはワンダと手探りで研究しているようだ。


 俺はゲーム内の闇魔法の知識を整理してみた。

 ゲームで闇魔法って言ったら、やはり魔王。

 魔王は魔法の天才。いろいろな魔法を使っていた。


 攻撃魔法の種類は多岐に渡り、最強クラス。


 まあ、魔王だからな。


 その他にも、相手の能力値を下げるデバフ、精神攻撃もある。


 俺は、思い出した限りの闇魔法をリストにしてママに伝えた。

 ワンダによると、ママはかなり魔法の筋が良いらしいから、すぐに覚えてしまうかもしれない。


「ワンダ、見てーー!出来たでー!」


 ママは暗黒の掃除機のような魔法を放っていた。

 ブラックホールだな、あれは。高レベルの魔法だけど、もう出来てるのね。


 ずるい。


 ママは魔法が出来てテンションが上がっている。それを見たワンダを俺の方を見た。


「坊ちゃまは何故、闇魔法を知っているのですか?」

「え?いや、王立図書館で見たような。でも、ほとんどは憶測だな。こんな魔法ありそうだなっていう」


 ワンダは目を細めて見て来た。

 この睨み、ちびりそう。


「へぇ~、王立図書館でね。私も行ってみようかしら。それに憶測って言う割には、具体的だし、奥さまはどんどんこれらの魔法を使えるようになっていきますよ。じぃ~」

「ま、まあ、それはママの才能が凄いからだよ。ははは」


 ワンダって、妙に迫力を出すときがあるんだよな。

 ルミエルもだけど。こいつらに尋問されたら、前世の事、ゲロっちゃいそうだ。



 剣術についても進歩している。

 俺は、ルミエルが手ほどきしてくれるようになってから、実力がメキメキと上がった。

 ワンダのおかげで身体強化魔法が上達しているのも関係しているだろう。


 手加減ありきだけど、ルミエルの剣を受け止めることも出来るようになってきた。

 努力の結果が目に見えるって嬉しいなーーって調子に乗ると、


「ほほほ、坊ちゃまは調子に乗ると剣が単調になりますな」


 衝撃と共に、俺は地面に大の字になっていた。

 このおっさん、強すぎる。掃除係のくせに。


 ママの方は、武器が完全に棒になっていた。

 剣道のスキルがあるから、あれくらいの長物を使えば何でもいいのだろう。

 実力は俺よりはるかに上で、上達も早い。


「やったでー。今のは、いい連撃やったやろ」

「ええ、奥さま、さすがです」


 ルミエルも俺の時と違ってそれ程手加減をしていない。

 それでも、時折、ママはルミエルから一本取るときもある。と思えば早速、


「やったでー」とダブルピースをしている。


 ダブルピースって年代を感じるね。

 平成生まれはやらんよ。


「やられましたな。次はもっと速く行きますよ」


 ママは喜んでるけど、ルミエルも楽しそう。


 ルミエルって結構な歳に見えるけど、体力あるよな。

 俺とママの訓練に付き合ってもピンピンしてる。掃除で鍛えたってやつかね。


 騎士団、魔術師団には単体の強さによる階級が存在する。

 騎士団長や部隊長などの職務上の階級は統率力が問われるため、必ずしも単体の階級とは関係はない。だが一方で、職務上の階級が上の者ほど、単体の階級も上になる傾向がある。


 階級名は下から、鉄級、銅級、銀級、金級、白銀級。鉄球は入団したての新入り、銅級はゴブリンを倒せるレベル、銀級はオーク、金級はオーガ、白銀級はワイバーンだったか。


 前世の会社で言うところの、鉄級が一般平社員、銅級が主任、銀級が係長ってとこか。


 俺とママは最近までろくに体を動かすこともしない怠け者であったが、一般人に比べれば、身体強化を使えるなど、最低限の素養はある。

 ゲームに登場するネームドキャラということで、優遇されているのかもしれない。


 そんな俺たちの攻撃を、ルミエルとワンダは涼しい顔をして受け止めている。

 これまでの訓練で俺の実力もそれなりに上がってきたが、それでも二人には全く勝てない。


「OH、どうしたんですか?坊ちゃま。じーっとこちらを見て」


 ワンダが俺の視線に気付いたようだ。視線や覇気にも敏感だ。


「いや、何でもない、考え事だ」

「新しい魔法ですか?」


 ワンダと俺の会話に鋭い目線を移して来たルミエル。

 この二人、さすがに違和感がある。こいつら本当にただの掃除係か?実力が高すぎる。


 もしかして、二人は、、、

 分かった!!!


 元銀級騎士か?

 きっとそうだ。


 歳をとって騎士を引退し、清掃員として再就職したってわけか。

 だって、本当に宿舎や訓練場の掃除をしてるしね。

 この前なんて、若い騎士が、親子ほど歳が離れているルミエルに向かって、


「おじさん、いつも掃除ありがとな。次はこの辺の埃も取っておいて」

って軽々しく言って、ルミエルも

「はいよー」

って答えてたしな。


 てことは強さ的には、俺が鉄級でママが銅級あたりか?辺境で暮らすには最低でも銀級にはなっておきたいからね。

 少なくても、俺は辺境に行くまでに、ルミエルとワンダに勝てるようになっていればいいってわけか。目標が近くにいて助かる。


**********


 俺とママは、訓練がない時間は畑の勉強をすることにした。

 中庭の一角を借りて、小さな畑から始める。畑と言ったら土だ。


「本で予習はしてきたけど、土を耕した後は、何を植えればいいんだ?」


 俺は土に肥料を混ぜて耕したところで手が止まっていた。


「そんなことやろうと思って、助っ人を連れて来たわ」


 ママが連れて来たのは、庭師のベッツだった。王宮に長年勤めている庭師だ。


 ママって、嫌われ者の悪役王妃のくせに、俺より周りの人たちに打ち解けてない?

 と思ったら、ベッツの顔には怯えが見える。


「ベ、ベラ様、デュストス様、今の時期から植えるのであれば、適当な苗を見繕います」


 ベッツは緊張した面持ちで言った。


「そうか、頼むで」


 ママの軽い返事のあと、ベッツが少し放心状態になっていた。

 かなり緊張していたらしい。


 その後、いくつかの種類の苗を植えて、毎日様子を見ることにした。


 メインの畑とは区切って、俺は小さな畑を作った。

 これは単純に俺の趣味のためだ。


「ベッツ、魔法で野菜の成長を促進させることは出来ないか?」


 ベッツは少し考えたが首を振った。


「そのようなことは聞いたことがありません。ただ、試す者がいなかっただけで、野菜に適した魔力を土に埋め込むことが出来れば、成功するかもしれません」

「野菜に適した魔力?」


「ええ、火属性魔法や風属性では無理かと思いますが、水属性や土属性なら可能性があるかと」


 なるほど、ここで無属性が出てこないのは悲しいけど、可能性はあるだろう。これは時間をかけてやっていくことにする。


 そんな日々を過ごし、俺とママは次なるステップに進むことにした。

 

 そう、異世界といったら、あれだ!






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