第5話 おじさんおばさん視点
サイド:とある掃除おじさん
あの日は、ワンダとチェスに
奴とは毎日、夜飯を掛けて勝負をしている。
若干私の方が、負けが込んでいるが、誤差の範囲内だ。
私が優勢で進む盤内。
今日はただ飯が食えそうだ。
騎士たちの声が小さくなった。
顔を向けると、第三王妃ベラと息子のデュストス王子だった。
平民出身野心家の妃と、その傀儡と言われている息子。
城内、いや国内中で評判が悪い二人が何の用だ?
騎士団長が呼ばれて応対している。
騎士団長は、騎士団の中では一番の実力者だ。
しかし、仮に冒険者として見た場合の強さはCランク程度。
正直言って弱い。
奴を見ていると、この騎士団、大丈夫か?と不安になる。
真面目な性格は騎士団長に向いているがな。
どうやら稽古を付けてほしい様だ。あの堅物団長のことだ。それらしい理由をつけて断ることだろう。
案の定そうだ。愚息がとぼとぼ戻っていく。
それよりも先ほどから妃から視線を感じる。
念のため、目線を合わせないでおこう。
触らぬ神には祟りなしだからな。
私はチェスに目線を戻すと、恐ろしい程の魔力を感じた。
ふと目を向けると、その先にはあの愚息がいた。
まさか、才能が無い落ちぶれと言われているあの王子が放ったのか?
騎士団長ですらたじろいでいる。
愚王子と呼ばれるデュストス王子に興味が出て顔を上げたら、第三王妃と目が合ってしまった。
しまった、こっちに来る。
「ルミエル、ワンダ、わてと息子に剣と魔法を教えてくれへん?」
ほう、私の名を覚えていたか。
しかし、本当にあの野心家王妃かと思うほどの変貌ぶりだ。
彼女に何があった?
言葉遣いは妙な違和感はあるが、纏っている雰囲気がこれまでとまるで違う。
刺々しいハリネズミから全ての針が抜けたら、可愛らしいリスだったとでも言うのか。
ワンダに目線を移せば、彼女も違和感を覚えているようだ。
「たまにはいいか」
私は面倒ごとだと分かりつつも申出を受けることにした。
「先にあなたが坊ちゃまの剣筋を見てみたらどう?」
ワンダに言われるまでもなく坊っちゃまの剣を受けてみることにする。
坊ちゃまはこれまで他の王子と一緒に訓練を受けることはなく、自己研鑽を怠っていた。
それが何故急に訓練をしようと思ったかは不明だが、何かしらの片鱗を見せてもらわなくてはならない。
そうでなくてはこれっきりだ。
「坊ちゃま、思いっきり来てください」
試しに私は殺気を放ってみた。
坊ちゃまは殺気を感じ取り、身をたじろがせた。
実力差があることを肌で感じることは出来るらしい。
少々強く出しすぎたか。
だが、これで向かって来れなくなるようではここまでだ。
「どうしたんですか?来ないなら終わりにしますよ」
「いや、頼む。俺の剣を受けてくれ」
向かってくる気概はあるようだ。
それに、これまでのイメージと全く異なり、礼儀を弁えている。
さらに驚いたのは、ここからだった。
身体強化を使ったスピード、そして剣の重さ。
武器はただの木剣だが、重さが全く異なる。
いくら身体強化を使っても説明できない。
私は思わず、先程よりも強い殺気を放ってしまった。
坊ちゃまはすぐに後ろに飛び退いた。
ここまでの動きだけでも、とてもこれまで研鑽を怠ってきた愚息とは思えない。坊ちゃまはいったい何者だ?
「ほう、危機察知能力は中々のものですな。しかし、前に出なくては勝てませんよ」
「わ、分かってる」
坊ちゃまのスピードが上がった。身体強化を脚に集中している。
これは、騎士団でも上位に入る俊足。
そして、剣を振り下ろす際は腕に身体強化を集中させた。
愚息と呼ばれていた坊ちゃまが身体強化を使いこなしている。
見事だ。
しかも、通常とは異なる身体強化の使い方。剣の重さの秘密はこれか。
身体強化は通常、体の内部に魔力を張り巡らせることで、脚力や腕力を強化する魔法である。
坊ちゃまは、体の内部だけではなく、外部にも魔力を及ばせている。それが剣の硬さだ。
誰にも師事せずに、これを身に着けたのであれば、末恐ろしい存在だ。
「これからは、毎日城壁の周りを10周してください。それが終わってから稽古です」
気付けば私は坊ちゃまと稽古の約束をしていた。
明日からの稽古が楽しみで仕方ない。ワンダよ、夜飯は私が奢ってやる。
サイド:掃除おばさん
ルミエルと坊ちゃまの立ち合いは見応えがあったわ。
あのルミエルにあそこまでの殺気を放たせたのは大したもの。
才能が無ければ努力もしない。
愚息として知られていた坊ちゃまが身体強化を使いこなしていることには驚いたけど、武器の強度まで上げている。
坊ちゃまの属性だからできることだと思うけど、普通は思いついてもできない。
あの魔法の秘密を知りたいわ。
「わての息子はどうや?」
「ベリーインタレスティング」
坊ちゃまの魔法に集中するあまり、話しかけて来た奥様に向かって、思わず本音を吐いていたわ。
「そやろそやろ」
奥様は嬉しそうにしている。
その様子は、子供の成長を喜ぶ普通の母親ね。
立ち合いが終わったわ。
ルミエルは坊ちゃまを認めたようね。あの顔を見れば分かるわ。
王国騎士団に長年いても、中々お目に掛れない逸材。鍛え替えがありそうね。
私は奥様の魔法を見ることになったわ。実は先ほどから、奥様から大きく異質な魔力を感じるの。
楽しみ。
「奥様、杖はお使いになりますか?」
奥様に魔法の経験があれば、杖を使った経験があるかもしれないから、確認してみたの。
「杖はとりあえずはいらんわ。昔、手でやったことがあんねん」
なるほど、手で魔法を放てるなら、センスはあるわね。
「奥様は魔法を使ったことがあるんですか?」
「うん、小さいころな。でも、皆に気味悪がられて、すぐに止めてしまったけどな」
へえ、子供ころに。
気味が悪がられたのは、異質な魔力が原因ね。でも、魔法を使った経験があるなら話が早いわ。
「では、あちらの的に魔法を打ってみてください」
私はいきなり魔法を放ってもらうように言ったの。
魔法としての形が整っていなくても、魔力を放つことが出来ればいいと思ったから。
すると、奥様は両手に黒い魔力を集め、玉を作って的へ放ったの。
とても自然に。
その一連の姿はとても優雅だった。
あまりに美しかったから、一瞬見とれてしまっていたけど、奥様の属性ってもしかして闇!?
数十万人に一人と言われる属性。
一説によると、魔王の系譜とも。
魔族である魔王の血が人間に流れているわけはないから、これは魔法のイメージから来たデマ。
そもそも、魔王が滅ぼされて千年は経つわけだし。
単に珍しい属性ってだけ。
でも、奥様の魔力は濃い。魔力量が桁違いなんだわ。
「なあ、気持ち悪いやろ?」
確かにこの属性を気味が悪いというものはいるでしょう。
しかし、それは漆黒の魔力という見た目だけ。むしろ私には美しくすら思える。
「奥様、闇属性ですか???、、、、、、、ビューティフォー、ワンダフォー、エクセレント!!もっと、もっと見せてください。闇魔法★★★」
それから二時間ほど基礎的な魔法を教えたら、奥様はすぐに魔法を使えるようになったわ。
奥様って天才。
私なんて霞んでしまうほど。
でも、そんなことは関係ない。
私は奥様の魔法を探求したいと思ったの。
好奇心を抑えられない。ああ、もっと見てみたい。
これからは一緒に魔法の探求をしましょうね。ふふふふふ。
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