06.聖女様は(逃げ)足が早い

「えー、六月頭に体育祭があるから、各自、参加したい種目に名前書いて。あとは体育委員よろしく」


 ゴールデンウィーク明けのロングホームルームで担任がそう言って黒板に種目を並べた。


「あ、宇佐と聖は学年対抗リレーのクラス代表選手だから、種目は二つまででいいよ」


「は?」


「まっかせといてくださいよ!!」


 ルイは嬉しそうにしているけど、聞いてないよ???


「四月の体育で短距離走の測定しただろ? 女子の中で一番早いのが聖で、宇佐ともいい勝負だったから期待してるよ」


「えー辞退できますか?」


「体育の評価が二になるけど。五段階評価で」


「ぐ、わ、わかりました」


 ユウキとアコ、リオンが目を丸くして私を覗き込んだ。


「エミリちゃん、足早いんだね」

「全然見えなかったわ」


「僕も知らなかったな」


「んー、足っていうか、逃げ足がね……」


「あー」


 三人に納得されてしまった。

 そう、私の逃げ足は早い。

 聖女っていうか白魔法は防御、回復のための魔法だ。自分から戦うものじゃない。

 だから、ルイが前線で戦えるときはいいけど、突っ走って行っちゃったり、力尽きたときは全力で走って逃げるしかない。

 アイリに敵を撒いてもらって、ケントにルイを担いでもらって、私は回復をかけたりルイの体を軽くする補助魔法を使って、全速力で走って生き延びてきた。

 ということを説明できないので、曖昧に笑う。


「エミリ、ルイとリオンから逃げるとき素早いもんね」

「ああ、僕は鈍くさいからすぐ見失ってしまうんだ。スマホに位置を確認するアプリを仕込んでいいかな」

「ダメですけど!? このストーカーめ」

「伴侶と呼んでほしい」

「ノー! 断じてノー!!」

「逃げ足だけじゃなくて、断りも早い。もう少し考えて判断してほしい」


 考えたら、迷いそうになるから即断してるのよ。

 なにしろ、顔がいいから。

 この顔を延々と眺めていられるなら、有りでは?って思っちゃいそうだから、素早くお断りしている。

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