04.早くも前途多難だが!?

 高校に入って、最初の一週間くらいはオリエンテーションや身体測定、学力テストなんかで忙しい。

 でも二週目に入ったら、本格的に授業が始まる。

 ……楽しい!

 前世ではエレメンタリースクールまでしか行ってなかったから、新しい勉強するの、超楽しい!!

 最初だからそんなに難しくないしね。


 楽しくないのは休み時間で、ルイとリオンが私にべったりくっついている。


「エミリ、俺と付き合う気になった?」

「ならない」

「エミリは僕と添い遂げる予定だからな」

「そんな予定はない!!」


 そんなやり取りを入学してから延々と繰り返している。

 ちなみにクラス替えを担任の先生に頼んだら、普通に却下された。


 それはさておき、今日は初めての体育!

 体育館に移動して、二組の女子と合同で受ける。


「じゃあ二人組作ってストレッチから、始めー」


 さっそく困った。

 教室では席が近いから乃々木ユウキと名方アコと三人で過ごす事が多い。

 でも二人組か。

 三人で顔を見合わせていると、


「ねー、混ぜてくれない?」

「いいよー、えっ?」


 二組の子が声をかけてくれて振り返ったら……そこにいたのはアイリだった。

 前世で一緒に冒険していた格闘家の女の子。

 サバサバしてて強気でかっこ良くて、スタイルよくてかわいかったアイリが、そのまま元気なスポーツ美少女!という出で立ちで立っている。


「えっ、エミリア……?」

「あっ、えっと、今はエミリです。聖エミリ」

「わかった、エミリ。私は門池アイリ。よろしく」



 ユウキとアコと少し離れて、アイリとストレッチをする。


「びっくりした。エミリア……エミリも転生してたんだ?」

「うん。ルイとリオンもいるよ」

「勇者はともかく、魔王まで?」

「うん。あ、お昼一緒に食べない? なんで転生したのかとか、シスターと魔王に聞いたから話すよ」

「シスターもいるんだ。よかったね、エミリ、ずっと一緒にいたいって言ってたもんね。……あのね、もう一人いるから連れて行っていいかな?」

「いいよ! 誰?」


 アイリはなぜか照れた顔になった。

 なに?


「あとで、紹介する」

「う、うん」


 そのあとは跳び箱とマット運動をそれぞれどれくらいできるか測定して終わり。

 アイリは手を振って二組に戻って行った。

 私も着替えて教室に戻る。


「エミリ! ちょ、聞いてくれよー!」


 教室に着くなりルイが走ってきた。


「三組にケントいたんだよ」

「ケントって黒魔術師の?」

「ああ。先ほど会った」


 隣の席のリオンも頷く。

 ケントも一緒に冒険していた男の子だ。

 うーん、勇者パーティ揃っちゃったなあ。

 まあ、転生の魔法が発動したときに一緒に魔王城にいたし、全員巻き込まれたのは仕方ないのかな。


「私もアイリに会ったよ。二組だって。お昼に誘ったら、もう一人連れてくるって言ってたけどケントのことかなあ」

「あ、俺もケントを昼飯に誘ったからみんなで食おうぜ! 勇者パーティ+魔王で昼飯とかウケるな!」

「ふふ、そうだね」

「僕はエミリと二人がいいんだが」

「はいはい」


 リオンはつまらなさそうに唇を尖らせた。



 その、リオンの目と口がまん丸になったのは昼休み、アイリがお弁当を持ってやってきたときだった。


「……おま……お前まで……?」

「まっ、魔王様!!!」


 アイリと一緒に来たのは、魔王の配下だった炎の魔族だった。この世界で言うイフリートに近い魔族だ。

 それが、背の高い短髪、色黒イケメンになってアイリの隣に立っている。


「俺、火渡円です。……うわ、勇者パーティ全員揃ってやがる」

「よーお、久しぶり」


 ひらひらと手を振ったのは黒野ケント。

 一緒に冒険をした黒魔術師の男の子だ。

 今はひょろっとした短髪メガネの男の子になっているけど、ニヤッとした顔が前世のままだ。

 三人に転生の経緯を説明すると火渡くんが頷いた。


「魔王様……今はリオン……? この規模で転生させるとは、さすがです」

「ねー、びっくりしちゃった」


 感心する円くんに、アイリは寄り添うように並んで座っている。

 ……近いな……?


「あの、アイリ? ……近くない? 火渡くんもだけど、二人とも、食べづらくないの、それ?」


 そう聞くと火渡くんは真顔で首を横に振った。


「問題ない」


 アイリは照れた顔で頷いた。


「……あのね、付き合ってるの」

「えっ? 火渡くんと? アイリが?」

「うん」

「ちょっ、展開早いね?」

「えへへ」


 キリッとした女格闘家だったアイリが完全に恋する女子高生の顔になってる。

 聞くと、転生直前にいい感じになったらしい。


「勇者と魔王の戦いで、城が崩れたでしょ? 壁が倒れてきたときに彼がかばってくれてね」

「あのときの俺の体は炎だから、多少傷ついても戻せる。でも、アイリはそうじゃないだろ。女の子の体に傷をつけるわけにはいかない」

「かっこいいねえ……」


 それは、惚れちゃう。

 ときめいていたら、ブレザーの裾を引かれた。


「エミリ、僕も危険からお前を守りたい」

「……危険そのものの魔王が何言ってんの?」

「それは聖女様の護衛役の俺の役目だぞ!」

「一人で突っ走って、毎回死にかけてた勇者が何言ってんの??」


 アイリとケントが吹き出した。


「でもさー、つまりリオン、お前も俺と同じ黒魔術師ってことだよな。じゃあ俺が魔王になる可能性もあったんだ?」

「あった……が、ない」

「どっちだよ」

「僕が魔王に着任したばかりだったから」

「あ、たしかに」


 ケントはリオンにあれこれ聞いている。

 ……最終的にニャインの連絡先を交換して、ケントは三組に戻って行った。


「仲良くなったね」

「元は同じ黒魔術師だからな。話は合う。……嫉妬してくれたのか?」


 リオンがちょっと嬉しそうに私を覗き込む。

 そんなんじゃないけど。


「リオンはケントと仲良くやるらしいし、エミリは俺とデートしよう」

「しない」


 寄ってきたルイを追い払って私も立ち上がる。

 アイリは火渡くんといちゃいちゃしながら二組に戻って行く。


 なんていうか……ある意味平和とも言える、かもしれない気がしてきた。

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