第22話 死にゲー世界のプロローグ②

 ◎


 そろそろ各地で収穫祭という時期。

 日が昇り始め、冷たい空気が流れる中、1台の馬車が街道を進んでいた。

 最低限の荷物しか積んでいない馬車には幌が付けられていない。

 荷物と一緒に座る2人と御者席の1人。


 言葉もなく進んでいると前方には、停まっている箱馬車。

 予定通りに3人の馬車はその後ろに停車する。


 御者席から降りたオラシオは、慎重な足取りで止まっていた馬車まで近づき、扉を叩いた。

 離れると、しばらくして箱馬車の扉が開く。


 降りてきたのは茶髪で着慣れていないと分かる平民服を着た貴族だった。

 服の肌触りに顔をしかめ、汚れたローブと袋を持っている。

 腰の剣だけが、不釣り合いに高価だが傭兵でも買える程度だ。


「護衛だな」

「はい、オラシオです。何とお呼びしますか?」


 顎に手を当てて思案を始めた茶髪だったが、それは馬車から出てきた黒い人影に遮られる。

 オラシオはその人影を依頼の仲介者だと正確に理解した。


「お久しぶりです。オラシオさん」

「ああ、久しぶりだな。で、この人を何と呼べばいい? 後、不便だけど問題ないんだよな?」


 遠慮のない物言いだが、素性を隠している仲介者相手だからこそオラシオはそれができる。

 不便という言葉に反応した茶髪の視線は黒ローブに向いた。


「彼には不便も試練の内と受け入れてもらいます。名前に関しては私が付けましょう」


 垂れた袖をすり合わせる動作をしながら「さて、どうしましょうか?」と楽し気に低い声を溢す。

 オラシオは黙って待っていたが、茶髪の男は待たされることに慣れていないようで声を上げる。


「おい、さっさと決めてくれよ」

「うん? そうですね。今、あなたの名前が決まりましたよ」

「なんだよ?」

「そうですね。君はミエルだ」

「ミエルダ?」

「ハハハハッ! ミエルですよ。そういうわけで、オラシオさん。不便は受け入れさせますから、護衛と依頼の遂行を頼みました。では」


 箱馬車は扉が閉まると、王都側に方向を変えて移動して行く。

 道に残されたオラシオ、ミエルは静かに箱馬車を見送った。


「ミエルさん、乗ってください」

「わかった」


 オラシオは特にそれ以上言うことなく、御者席に座り込んだ。

 ミエルが乗り込んだのを確認すると、馬車を進める。

 向かう先はアルタミラーノ公爵領の街、エイクラムだ。


「ミエルさん、依頼についての話をしますけど、いいですか?」

「不便なのは分かったから問題ない。詳しい話を教えろ」

「はい。依頼の決行は2日後、夕方から夜にかけて内部の合図を待ちます」


 静かに進む馬車の向かう先、公爵領の街が姿を現した。

 石の壁で囲まれた街。

 ザラグア王国で内戦が頻発していた頃よりも亜人の防衛で今の方が使われている石壁。

 それほどまでに戦いとは無縁だった街だ。


「目標はムリーヨ家の長子であるベックス、公爵屋敷でお披露目があり、そこで孤立したところを襲撃します」

「ガキだろ?」


 ミエルの言葉で3人の視線が威圧感をもって向けられる。

 予想外の反応にたじろぎながらも、睨み返すミエル。


「なんだ?」

「依頼を成功させたいなら、本気で殺しに行ってください」

「5歳と聞いたぞ?」

「あの、レイシャール・ムリーヨの子ですよ。普通であるはずがないです」


 オラシオは視線を外して、手綱に集中し、2人もミエルから視線を外した。

 その様子にミエルはため息を吐いて、面倒くさそうに促す。


「殺した後は?」

「街から脱出します。壁を抜け、壁外にイグナスを馬車と一緒に待機させる予定です」


 ミエルの近くにいたイグナスは手を挙げた。

 逃げ道の確保をイグナス。依頼はオラシオ、ミエル、ウーゴが行う。


「脱出してから西の森沿いに進むと、別の馬を用意しています。そこで二手に分かれて逃げます」

「公爵屋敷の警護は?」

「見られずに抜けられる侵入経路があるとのことです。到着してから下見に向かいます」

「問題ないな。護衛は頼んだぞ」

「はい」


 会話がなくなり、静かになった馬車は街に向けて進み続ける。

 話しを終えたオラシオは、懐に手を伸ばした。

 握った瓶に目を下ろすと、青い液体が目に映る。

 苦い表情で瓶を仕舞い込んだオラシオは、不快気に顔を歪めて石壁を睨んだ。

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