第23話 公爵領へ
□
春頃の誕生日から、酒と豆の祭りを経て、収穫祭の前になった。
誂えた服を準備して、腕輪と小さな杖の魔術具を持って、準備は万端だ。
毛皮のマントを羽織って部屋を出る。今から僕はお披露目会に向かう。
「ベックス様、他に持っていく物はありませんか?」
「大丈夫。さ、行こう」
「はい」
門の向こうには馬車が2台止まっている。引いているのは硬皮馬だ。
初めて街の外に出るのが、他の領になるとは。
そんな僕の初めての旅は少し問題がある。
「ダニエラ」
「はい、ベックス様」
「公爵様の領までどのくらいかかるの?」
「4日ほどです」
辺境伯領は大きいと聞いていた。
しかし、想像よりも短い旅程で済みそうだ。
その秘訣が硬皮馬と呼ばれる、トカゲ馬にあるような気はするが。
「ベックス。つまらない道のりだけど頑張ろう」
「はい、父様」
この旅には僕、父様がお披露目の参加者。
ダニエラ、アルバロ、ペドロと見たことのない騎士、御者の騎士含めて8人で向かう。
どう考えても護衛は少ないと思うんだが。
まあ、その疑問も恐らくは一番強くてゲームの最終ボスをしていた父様がいるからだと思うと、納得できない話ではない。
「母さんは領を守ってくれるから、生家だけど残ってくれることになった」
「生家って?」
「母さんは公爵様の家で産まれて、母さんの父さん母さんがいるってことだよ」
「父様より母様の方が爵位上だったんだ!」
「そうだよ。それより準備が出来たなら乗り込むよ」
「はい」
笑って乗り込んだ僕だったが、その日から始まった馬車の旅は最悪と言っていいものだった。
2台とも作りがしっかりした馬車だったのは、止まることを考えていないような速度で走るためだったらしい。
想像していた馬車の旅は馬が歩いて、振動が少し辛いとかそういうのだった。
現実は馬車が何度も跳ね上がり、馬は爆走して道を駆ける。
しかも少ない休憩で走り続ける脚力と持久力、トカゲ馬がすごい理由だろう。
たったの2日で辺境伯領を抜け、公爵領に入ったと父様から教えられた。
公爵領に入ってから速度を落としながら2日、途中にある村や町で休みながら予定通り4日で公爵屋敷に到着した。
4日目の移動では辺境伯領で最も栄えるラスモントより、人の往来が増えた場所に入り、辺境は辺境だと理解させられたものだ。
しかもラスモントは木の柵で囲うくらいなのに、公爵様の屋敷がある街は石の壁で囲まれている。
やっぱり王都に近い方が栄えているようだ。
到着した公爵家の屋敷は我が家より大きくて、新しかった。
うちの屋敷って古かったんだ。
暗くなる時間に到着したから翌日に出直すと思っていたが、父様は気にせず屋敷の門衛に話して屋敷へ入れてもらうことになった。
母様の両親には会えるんだろうか。
公爵家のメイドに案内され、僕たちは部屋に通された。
大きな部屋にベッドが3つある、母様が来ることも考えていたのかもな。
「ベックス、少ししたら挨拶に行くから、準備をしなさい」
「はい」
旅の疲労を感じさせない父様。というより僕以外はあまり疲れていないように見えた。
僕の次に幼いダニエラもいつもと変わらず準備をしてくれている。
「ダニエラは疲れなかったの?」
「疲れましたよ。でも、そういうものだと知っていましたから」
「そういうこと」
僕の服をチェックし終えたダニエラは、自分のチェックをして準備を終えた。
若くして働いているダニエラはすごいな。
将来、貴族としてやっていける自信がないよ、僕は。
扉がノックされ、アルバロが対応すると公爵様の執事で今から挨拶に向かうらしい。
できることなら軽く食事して休ませてほしいが、貴族ってのはそれを許してくれるものじゃないんだろうな。
僕という意識が生まれてから2年間襲撃に怯え、絶好の機会である街を挙げてのお祝い、馬車の移動でも襲撃を受けなかった。
もしかすると、10歳くらいにならないと受けないのかもしれない。
「ベックス、行くよ」
「はい」
ペドロが護衛に付き、アルバロとダニエラを傍に置いた父様と僕は移動していく。
案内のメイドに付いて行くと、分かりやすく豪奢な扉の前で止まる。
メイドがノックをして、案内してきたことを伝えると僕たちは部屋に通された。
「お久しぶりです、公爵様、レイシャール・ムリーヨ、子と共にお披露目に向けて参りました」
「初めまして、ベックス・ムリーヨと申します。公爵様」
「レイシャールは久しぶり。ベックスは初めまして。私は公爵をしているヘルバシオ・アルタミラーノだ」
「初めましてレイシャール様、ベックス。私はゴドフレド・アルタミラーノ公爵子息です」
部屋に入ると父様に倣って挨拶をする。
執務机と椅子、他にもソファがある部屋だ。
待っていた公爵様と隣に控えていたお披露目会の主役のゴドフレド様が挨拶を返してくれた。
公爵様は母様のような優しさが滲み出ているイケメンで、ゴドフレド様は間違いなくそれを継いでいるイケメンだ。上流階級はイケメンが多いんだな。
挨拶をした2人以外に執事と、壮年のふたりがこの部屋にいる。
「もういいかしら、ヘルバシオ」
「どうぞ母上」
「よく来たわね。ベックス」
「はい」
公爵様から母上と呼ばれた女性、その隣には男性もいるから前公爵様かな。
あまり年をとっているように見えないが、柔らかい笑顔は母様と似たところがある。
「まあ、ごめんなさい。私はね、ヘッセニア。で、こっちの爺さんがエルメネヒルド」
「爺さんとはお前。まあいいか、ベックス、お前の爺さんと婆さんだよ」
有無を言わさず僕はおじいさんに抱き上げられた。所作が上品でイケオジだ。
腕には想像以上に筋肉が付いていて、爺さんという自己紹介には納得できない。
「うわぁ」
「アハハハ、会えてうれしいよベックス」
「レイシャール、娘は来てないのね?」
「はい、義母上。そのうち帰ると言っていました」
「ならいいわ」
「母上、レイシャールとベックスに予定を話しても?」
「いいわよ」
公爵様より公爵様の母が強いように見える。
権力では違うだろうが、母は強いということだろうか。
「ムリーヨ辺境伯が来たから、お披露目会の参加者は全員揃った。明日は予備日としていたけど、予定通りに貴族子女の交流日とする」
「交流日ですか?」
「話は聞いていないのか、レイシャール」
「はい」
「でも、そう言うことだから、ベックスは明日お披露目会に出る他の貴族の子供たちと交流。明後日は昼頃からお披露目会だ」
「はい」
「ベックスにする話はこれくらいかな。母上、ベックスを離してやってください」
おじいさんの腕からおばあさんの腕に移動させられていた僕。
移動させられる時の名残惜しそうさなおじいさんの顔は、少しうれしくて、くすぐったい感覚を僕に与えた。
過去の僕にはなかったのかな。
「分かってるわよ。ベックス、今日はゆっくり休みなさい」
「はい」
「まあ、よく返事できました」
「レイシャールは残ってくれ」
「はい。ベックス、ダニエラと一緒に帰っていなさい」
「はい。明日からよろしくお願いします、ゴドフレド様」
「ああ、よろしくベックス」
「失礼します」
ダニエラと一緒に部屋へ戻った僕は、軽食を食べて寝ることにした。
とても疲れていたから仕方ない。明日は貴族子女交流会だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます