第24話 世界への拡散*

一ヶ月が過ぎた。


一月の寒い朝。


優衣は大学の図書館で、ノートパソコンに向かっていた。


画面には、世界地図が表示されている。


そして、無数の点。


日本だけじゃない。


アメリカ。ヨーロッパ。アジア。


世界中に、点が広がっている。


「まさか...」


優衣は震える手で、拓海に電話をかける。


「もしもし、拓海?」


「優衣。どうした」


「今、図書館にいる?」


「ああ」


「すぐ来て。見せたいものがある」


十分後。


拓海が図書館の個室に現れた。


「何?」


優衣は画面を見せる。


世界地図。


無数の点。


「これ...」拓海が息を呑む。


「覚醒者の分布図」優衣が説明する。


「世界中に広がってる」


拓海は画面に近づく。


「どうやって調べた?」


「SNS。Twitter、Instagram、TikTok」優衣が答える。


「『明晰夢』『覚醒』『選択の部屋』というキーワードで検索した」


「そして、位置情報を分析した」


拓海がスクロールする。


アメリカ:約2,000人


ヨーロッパ:約1,500人


アジア(日本以外):約1,000人


オセアニア:約500人


南アメリカ:約300人


アフリカ:約200人


合計──


約5,500人。


そして、日本は──


約3,000人。


「世界中に...」拓海が呟く。


「どうして?」


「翻訳」優衣が言う。


「えっ?」


「私の小説、誰かが翻訳してた」


優衣は別のウィンドウを開く。


英語版の『夢鬼ごっこ』


『Dream Tag Game』


「これ...」


「勝手に翻訳されてた」優衣が言う。


「著作権的には問題だけど...」


「でも、広まった」


拓海は英語版を読む。


「クオリティ高いな。機械翻訳じゃない」


「誰かが、ちゃんと翻訳してくれた」


「そして、海外のフォーラムに投稿された」


優衣は別のサイトを開く。


Reddit。


『Has anyone experienced the "Dream Tag Game"?』


スレッドには、数百のコメント。


『I experienced it. And I chose the golden path.』


『Me too. I'm awakened now.』


『This story saved my life.』


拓海は画面を見つめる。


「すごい...」


「世界中の人が、覚醒してる」


「うん」優衣が頷く。


「でも...」


「でも?」


「これって、いいこと?」


拓海は考える。


「分からない」


「正直に言うと、怖い」


「怖い...」


「ああ」拓海が続ける。


「覚醒した人が、世界中で増えてる」


「でも、何が起きるか分からない」


「全ての自分を認識する」


「過去も、未来も」


「それって、人間を変える」


「どう変わるか、予測できない」


優衣は沈黙する。


確かに。


自分たちは覚醒して、良い変化があった。


迷わなくなった。


自信がついた。


でも──


それが、何千人、何万人になったら?


社会は、どう変わる?


「みんなを呼ぼう」優衣が言う。


「今夜、集まろう」


---


その夜。


八人がオンラインで集まった。


ZOOM。


優衣が世界地図を共有する。


無数の点。


「これが...」美優が驚く。


「世界中に広がってる」


「何人?」大樹が聞く。


「確認できるだけで、約八千五百人」拓海が答える。


「でも、実際はもっと多いはず」


「報告してない人もいるから」


「おそらく、一万人以上」


香織が不安そうに言う。


「大丈夫なの?」


「何が?」


「こんなに広がって」


「問題は...」ユキが考える。


「今のところ、報告されてない」


「みんな、普通に生活してる」


「でも」木下が言う。


「これから、何が起きるか分からない」


石川が聞く。


「具体的には?」


拓海が説明する。


「覚醒した人は、全ての自分を認識できる」


「過去も、未来も」


「つまり、予知能力に近いものがある」


「えっ?」美優が驚く。


「予知...?」


「正確には、予測」拓海が続ける。


「未来の自分が見えるから、何が起きるか予測できる」


「それって...」大樹が理解する。


「チート能力じゃん」


「そう」


沈黙。


「でも」優衣が言う。


「私たち、そんな能力使ってない」


「確かに」拓海が頷く。


「未来の自分が見えるけど、はっきりとは見えない」


「ぼんやりと、可能性として見える」


「だから、予知というより、直感に近い」


「でも」


「その直感が、異常に鋭い」


香織が言う。


「それが、何千人もいたら」


「社会が変わる」


「どう変わる?」


「分からない」拓海が正直に言う。


「でも、変わる」


優衣は考える。


「私たちに、できることは?」


「見守る」拓海が答える。


「そして、必要なら介入する」


「介入...」


「ああ。もし、覚醒した人が悪いことをしようとしたら」


「止める」


「どうやって?」


「夢の中で」


---


その夜。


八人は、それぞれの部屋で眠りについた。


午前三時。


WBTB法。


そして、夢の中の稲荷神社に集合する。


八人が揃う。


「夢織を呼ぼう」優衣が言う。


本殿から、少女が現れる。


『夢の夢織』だ。


「みんな」


「夢織」


八人が集まる。


「聞きたいことがある」優衣が言う。


「何?」


「世界中に広がってる。覚醒が」


「知ってる」夢織が頷く。


「大丈夫なの?」


「大丈夫」夢織が微笑む。


「なんで?」


「覚醒した人は、善良だから」


「えっ?」


「全ての自分と向き合った人は」夢織が説明する。


「過去の過ちも、未来の可能性も、全部見える」


「だから、悪いことをしようとは思わない」


「自分が傷つくのが分かるから」


「他人が傷つくのも分かるから」


拓海が聞く。


「全員が?」


「全員じゃない」夢織が認める。


「中には、悪用しようとする人もいる」


「でも、少数」


「そして」


夢織が八人を見る。


「あなたたちがいる」


「私たち...?」


「そう。最初の覚醒者たち」


「あなたたちは、案内人」


「道を示す存在」


「だから、もし誰かが道を外れたら」


「あなたたちが、導き戻す」


優衣は理解する。


「私たちの役割」


「そう」


「でも」美優が不安そうに言う。


「何千人もいるのに、私たち八人で足りる?」


「足りる」夢織が断言する。


「なんで?」


「覚醒した人同士は、夢の中で繋がってる」


「ネットワーク」


「あなたたちが中心」


「そして、他の覚醒者たちが、枝のように繋がってる」


「だから、何か問題があれば、すぐに分かる」


「すぐに対応できる」


香織が聞く。


「じゃあ、私たちはずっと見守り続けるの?」


「そう」夢織が優しく言う。


「一生」


「それが、最初の覚醒者の責任」


八人は顔を見合わせる。


重い。


でも──


「やろう」優衣が言う。


「私たちが始めたこと」


「最後まで、責任を持つ」


拓海も頷く。


「そうだな」


美優、大樹、香織、ユキ、木下、石川も、それぞれ頷く。


「じゃあ、決まり」


夢織が微笑む。


「ありがとう」


「これで、世界は守られる」


---


翌朝。


優衣は目覚めて、スマホを確認した。


LINEグループに、メッセージが並んでいる。


拓海:『覚悟を決めた』


美優:『頑張る』


大樹:『一生、見守る』


香織:『みんなとなら、できる』


ユキ:『案内人として』


木下:『責任を果たします』


石川:『最後まで』


優衣は微笑む。


優衣:『ありがとう。一緒に、やっていこう』


窓を開ける。


一月の冷たい空気。


でも、清々しい。


新しい役割。


案内人。


世界中の覚醒者たちを見守る。


「大変だけど」


優衣は呟く。


「やり甲斐がある」


---


その日の午後。


優衣はカクヨムを開いた。


『夢鬼ごっこ』


累計PV数:78,320


★の数:521


フォロワー:304


そして、新しいメッセージ。


送信者:海外読者A


『Hello. I read your story in English translation. Thank you for saving my life. I chose the golden path and awakened. Now I help others too. We are connected.』


優衣は涙が出る。


「繋がってる...」


世界中の人々と。


夢の中で。


現実で。


ずっと。


優衣は返信する。


『Thank you for reading. Welcome to the awakened world. Let's help each other.』


送信。


そして、優衣は新しい投稿を書く。


『読者の皆様へ


夢鬼ごっこの物語を読んでくださり、

ありがとうございます。


この物語は、まだ終わっていません。


あなたの夢の中で、

続いています。


もし、あなたが覚醒したなら──

もし、あなたが選択したなら──


どうか、他の人も助けてください。


迷っている人に、道を示してください。


私たちは、繋がっています。


夢の中で。

現実で。


ずっと。


共に、生きましょう。


全ての自分と。

全ての人と。


案内人より』


投稿。


すぐに、反応が来る。


コメント。


いいね。


シェア。


「広がってる」


優衣は窓の外を見る。


世界中の人々が、今、同じ空を見ている。


そして、夢を見る。


それぞれの夢を。


「これから、どうなるんだろう」


優衣は呟く。


でも、怖くない。


みんなと一緒だから。


八人の案内人。


そして、世界中の覚醒者たち。


繋がっている。


夢の中で。


現実で。


ずっと。


【第24話 終】


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