第25話 新しい人類

三ヶ月が過ぎた。


四月。


桜の季節。


優衣は大学のキャンパスを歩いていた。


新入生たちが、キャンパスを歩いている。


希望に満ちた顔。


でも──


優衣には分かる。


その中の何人かが、覚醒者だと。


目を見れば、分かる。


普通の人とは違う。


深い目。


全ての自分を認識している目。


「増えてる...」


優衣は呟く。


図書館に向かう。


個室に入ると、既に拓海がいた。


「おはよう」


「おはよう」


拓海はノートパソコンで作業している。


「また、データ?」優衣が覗き込む。


「ああ」


画面には、グラフが表示されている。


覚醒者数の推移。


一月:約10,000人


二月:約30,000人


三月:約80,000人


そして──


四月(現在):約150,000人。


「十五万人...」優衣が息を呑む。


「指数関数的に増えてる」拓海が説明する。


「最初は緩やかだった」


「でも、ある閾値を超えると、爆発的に増える」


「それが、今」


優衣は椅子に座る。


「どこまで増えるの?」


「分からない」拓海が画面を見つめる。


「でも、このペースだと」


「一年後には、百万人」


「五年後には、一千万人」


「十年後には...」


「一億人」


沈黙。


「世界人口の、約1%」優衣が計算する。


「そう」


「それって...」


「人類の進化」拓海が言う。


「進化...」


「そう。新しい人類の誕生」


拓海が別のデータを開く。


「覚醒者の特徴を分析した」


リストが表示される。


- 高い共感能力

- 優れた予測能力

- 強い自己認識

- 低い攻撃性

- 高い創造性

- 強い倫理観


「これ...」優衣が驚く。


「全員に共通してる」


「ああ」拓海が頷く。


「覚醒すると、人間性が変わる」


「良い方向に」


「なぜ?」


「全ての自分を認識するから」拓海が説明する。


「過去の過ちも見える」


「未来の結果も見える」


「だから、悪いことをしようと思わない」


「自分が傷つくのが分かるから」


「他人が傷つくのも分かるから」


「なるほど...」


拓海が続ける。


「そして、もう一つ」


「何?」


「覚醒者同士は、夢の中で繋がってる」


「うん」


「だから、孤独じゃない」


「常に、誰かと繋がってる」


「それが、人を優しくする」


優衣は理解する。


「だから、犯罪も減ってる?」


「そう」拓海が別のデータを開く。


「統計を取った」


「覚醒者の犯罪率:ほぼゼロ」


「離婚率:通常の半分以下」


「うつ病発症率:通常の三分の一」


「自殺率:ほぼゼロ」


「すごい...」


「そして」拓海が真剣な顔をする。


「これが、世界中で起きてる」


「覚醒者が増えるほど、社会が変わる」


「犯罪が減る」


「争いが減る」


「幸福度が上がる」


優衣は窓の外を見る。


桜が咲いている。


美しい。


「それって...」


「理想的な世界」


「そう」拓海が頷く。


「でも」


「でも?」


「本当に、これでいいのか?」


優衣は拓海を見る。


「どういうこと?」


「覚醒者が増えて、社会が良くなる」拓海が言う。


「それは素晴らしい」


「でも」


「人類が、均質化していく」


「みんな、同じような価値観」


「同じような行動」


「それって...」


「多様性の喪失」


優衣は考える。


確かに。


覚醒者は、みんな似ている。


優しい。


倫理的。


創造的。


でも──


それだけでいいのか?


「難しい問題だね」優衣が呟く。


「ああ」


その時、優衣のスマホが鳴る。


LINEグループ。


美優からのメッセージ。


美優:『みんな、今夜集まれる?大事な話がある』


優衣:『何?』


美優:『ニュースを見て。世界的な動きがある』


---


その夜。


八人がオンラインで集まった。


ZOOM。


美優が画面を共有する。


ニュース記事。


『国連、"覚醒者"に関する特別委員会を設立』


優衣が記事を読む。


『世界各国で増加する"覚醒者"と呼ばれる人々。明晰夢を通じて自己認識を深めた彼らは、高い倫理観と共感能力を持つとされる。国連は、この現象を人類の進化と位置づけ、特別委員会を設立。覚醒者の権利保護と、社会への統合を支援する方針』


香織が驚く。


「国連が動いた...」


「そう」美優が言う。


「もう、無視できない規模になってる」


拓海が別のニュースを開く。


『WHO、覚醒現象を"疾病"ではなく"進化"と定義』


『アメリカ政府、覚醒者の権利保護法案を提出』


『中国、覚醒者の登録制度を開始』


「世界中で、動いてる」大樹が言う。


ユキが不安そうに言う。


「これって...いいこと?」


「分からない」拓海が正直に言う。


「権利保護はいい」


「でも、登録制度は...」


「管理される」


「監視される」


「差別される可能性もある」


木下が言う。


「私たち、どうすべきですか?」


優衣は考える。


「まず、情報を集める」


「そして、覚醒者たちに伝える」


「何を?」


「自分たちの権利」


「そして、責任」


石川が聞く。


「責任...?」


「そう」優衣が説明する。


「覚醒者は、力を持ってる」


「予測能力、共感能力、創造性」


「その力を、正しく使う責任」


「悪用しない責任」


「そして」


優衣が八人を見る。


「普通の人々と、共存する責任」


「覚醒者だけが偉いわけじゃない」


「みんな、同じ人間」


拓海が頷く。


「そうだな」


「じゃあ、声明を出そう」


「声明?」


「ああ。覚醒者たちへのメッセージ」


「私たち八人の名前で」


「何を書く?」美優が聞く。


優衣が考える。


そして、言う。


「『私たちは、覚醒者です。でも、特別ではありません』」


「『ただ、全ての自分と向き合っただけです』」


「『この力を、善いことに使いましょう』」


「『そして、覚醒していない人々を、尊重しましょう』」


「『共に、生きましょう』」


全員が頷く。


「いいね」


「じゃあ、それを書こう」


---


声明文は、すぐに世界中に広がった。


カクヨム。


Twitter。


Reddit。


Facebook。


そして、ニュースメディア。


『覚醒者たちの声明:"私たちは特別ではない"』


反応は、様々だった。


賛同する人。


批判する人。


疑問を持つ人。


でも──


多くの覚醒者たちが、声明を支持した。


『その通りです』


『共に生きましょう』


『力を善いことに』


そして、世界が少しずつ、変わり始めた。


---


二週間後。


優衣は、ある場所にいた。


国連本部。


ニューヨーク。


特別委員会の招待で、八人が呼ばれた。


会議室。


各国の代表者が座っている。


そして、八人。


「ようこそ」委員長が言う。


「あなたたちは、最初の覚醒者」


「そして、案内人」


「私たちは、あなたたちの意見を聞きたい」


優衣が立ち上がる。


「ありがとうございます」


「私たちは、覚醒者です」


「でも、特別ではありません」


「ただ、夢の中で自分と向き合っただけです」


「この現象は、止められません」


「どんどん広がります」


「でも、恐れる必要はありません」


「覚醒者は、善良です」


「高い倫理観を持っています」


「ただ、一つお願いがあります」


「何ですか?」委員長が聞く。


「覚醒者を、管理しないでください」


「登録も、監視も、必要ありません」


「私たちは、普通の人間です」


「ただ、少し深く自分を知っているだけです」


「それを、尊重してください」


会議室が静かになる。


そして──


拍手。


委員長が微笑む。


「分かりました」


「私たちは、あなたたちを信じます」


「ただし、一つ条件があります」


「何ですか?」


「あなたたち八人が、案内人として」


「覚醒者たちを導いてください」


「正しい道を」


優衣は頷く。


「約束します」


---


会議の後。


八人は国連本部の外に出た。


ニューヨークの夜景。


高いビル。


光。


「終わった...」美優が安堵する。


「いや」拓海が言う。


「始まったんだ」


「えっ?」


「新しい時代が」


拓海が空を見上げる。


「覚醒者と、普通の人々が」


「共に生きる時代」


「それを、私たちが導く」


優衣も空を見上げる。


星が見える。


「大変だけど」


「やり甲斐がある」


八人は顔を見合わせる。


そして、微笑む。


「帰ろう」


「日本に」


「そして、続けよう」


「案内人として」


八人は歩き出す。


新しい時代へ。


新しい人類の時代へ。


でも、忘れない。


自分たちも、普通の人間だということを。


ただ、全ての自分と共に生きているだけ。


それが、覚醒。


それが、新しい人類。


【第25話 終】


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