第23話 広がる覚醒
物語が完結してから、二週間が過ぎた。
優衣は毎日、カクヨムの管理画面を確認していた。
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「すごい...」
二週間前の十倍以上。
コメントも、毎日のように増えている。
『完結お疲れ様でした』
『最高の物語でした』
『この物語のおかげで、救われました』
そして──
『覚醒しました』
というメッセージが、何十件も来ている。
優衣は一つ一つ、丁寧に返信する。
『おめでとうございます。新しい人生を楽しんでください』
『もし困ったことがあったら、いつでも相談してください』
『あなたの選択を、応援しています』
返信を書き終えて、優衣は窓の外を見る。
十二月の空。
冬の光が、街を照らしている。
「本当に、広がってる」
物語の力。
人々の覚醒。
スマホがバイブする。
LINEの通知。
拓海からだ。
拓海:『今日、集まれる?みんなで』
優衣:『どうしたの?』
拓海:『報告がある。大事なこと』
優衣:『分かった。どこで?』
拓海:『いつものファミレス。午後三時』
優衣:『了解』
---
午後三時。
八人がファミレスに集まった。
優衣、拓海、美優、大樹、香織、ユキ、木下、石川。
「みんな、久しぶり」美優が微笑む。
「先週以来だね」大樹が言う。
拓海が真剣な顔をしている。
「何?」優衣が聞く。
「これ」
拓海がノートパソコンを開く。
画面には、データが表示されている。
グラフ。数字。地図。
「何これ?」
「覚醒者の分布図」拓海が説明する。
「分布図...?」
「ああ。SNSとカクヨムのデータを分析した」
画面を見せる。
日本地図に、点が打たれている。
たくさんの点。
「これが...」優衣が息を呑む。
「覚醒した人たち」拓海が頷く。
「どれくらい?」香織が聞く。
「確認できるだけで、約五百人」
「五百人...」
「でも、実際はもっと多いと思う」拓海が続ける。
「報告してない人もいるから」
「おそらく、千人以上」
八人は沈黙する。
「すごい...」美優が呟く。
「私たちが直接導いたのは、百人くらいだったのに」
「物語が、広めてくれた」優衣が言う。
「そう」拓海が頷く。
「そして、覚醒した人たちが、また別の人を導いてる」
「連鎖が、続いてる」
ユキが画面を見る。
「でも、全員が金色の道を選んだわけじゃないよね」
「そう」拓海が別のデータを開く。
「分析によると」
「金色の道(共存):約60%」
「赤い道(統合):約20%」
「青い道(分離):約15%」
「白い道(放棄):約5%」
「選ばない:若干名」
木下が驚く。
「六割が共存を選んだんですか」
「そう。物語の影響だろう」拓海が言う。
「優衣の物語が、金色の道を強く推していたから」
「でも、他の道を選んだ人もいる」
「それはそれで、尊重すべき」
石川が言う。
「放棄を選んだ人は...」
「夢の中に留まってる」拓海が答える。
「現実には戻らない選択」
「でも、本人が選んだなら」
沈黙。
香織が不安そうに言う。
「問題は、ないの?」
「問題?」
「後遺症とか、副作用とか」
拓海が画面をスクロールする。
「今のところ、報告はない」
「覚醒した人たちは、みんな普通に生活してる」
「むしろ、前より調子がいいって声が多い」
優衣が聞く。
「なんで?」
「全ての自分を認識できるから」拓海が説明する。
「過去も、未来も、全部見える」
「だから、迷わない」
「後悔しない」
「自信を持って、生きられる」
「なるほど...」
大樹が言う。
「じゃあ、成功ってこと?」
「そうだな」拓海が微笑む。
「夢鬼ごっこは終わった」
「後遺症で苦しんでた人たちも、救われた」
「覚醒が広がってる」
「良いことづくめだ」
でも、優衣は少し不安を感じる。
「でも...」
「何?」
「本当に、これで終わり?」
拓海が真剣な顔をする。
「どういうこと?」
「分からない」優衣が言葉を探す。
「でも、何か...まだ残ってる気がする」
「残ってる...」
その時、優衣のスマホが鳴る。
カクヨムからの通知。
新しいメッセージ。
送信者:夢織
優衣は驚く。
「夢織...?」
「えっ?」美優が覗き込む。
「本物の夢織?それとも『夢の夢織』?」
優衣はメッセージを開く。
『優衣さんへ。
お久しぶりです。本物の夢織です。
港区総合病院から退院しました。
体調も回復しています。
あなたの物語、読みました。
ありがとうございます。
私がやろうとしたことを、
あなたが完成させてくれました。
会って、お礼を言いたいです。
今度、時間がありますか?』
優衣は画面を八人に見せる。
「本物の夢織から...」
「会いたいって」
拓海が言う。
「会おう」
「うん」優衣が頷く。
---
三日後。
八人は、港区の小さなカフェに集まった。
窓際の席。
そこに、一人の女性が座っている。
二十三歳くらい。
長い黒髪。
痩せているが、穏やかな表情。
本物の夢織だ。
「初めまして」夢織が立ち上がる。
「初めまして」優衣が手を差し出す。
握手する。
温かい手。
八人が席に座る。
夢織が頭を下げる。
「ごめんなさい」
「えっ?」
「私のせいで、みんなを巻き込んでしまって」
「いや」優衣が首を振る。
「謝らなくていい」
「でも」
「結果的に、良かったから」
夢織が顔を上げる。
「良かった...?」
「うん」優衣が微笑む。
「私たち、覚醒できた」
「全ての自分と、向き合えた」
「それは、あなたのおかげ」
拓海も頷く。
「俺も同じ」
「この経験がなかったら、今の自分はいない」
美優、大樹、香織、ユキ、木下、石川も、それぞれ頷く。
「みんな...」夢織が涙を拭く。
「ありがとう」
「こちらこそ」
夢織はコーヒーを一口飲む。
そして、話し始める。
「私、ずっと考えてたんです」
「何を?」
「夢鬼ごっこの意味」
「私が何をしようとしてたのか」
「そして、何を間違えたのか」
八人は黙って聞く。
「最初は、善意だったんです」夢織が続ける。
「明晰夢で、自分と向き合う」
「心理療法として」
「でも、コントロールを失った」
「予想以上に広がった」
「そして、苦しむ人が出た」
「私の責任です」
優衣が言う。
「でも、あなたは最初から眠ってた」
「目覚めたくなくて」
「そう」夢織が認める。
「逃げてた」
「現実から」
「でも、あなたたちが起こしてくれた」
「だから、今は現実を生きてる」
「辛いこともあるけど」
「でも、生きてる」
「それが、大事」
拓海が聞く。
「『夢の夢織』は?」
「今も、夢の中にいます」夢織が答える。
「でも、もう悪さはしません」
「約束しました」
「困ってる人を助けるだけ」
「そう」
香織が聞く。
「これから、どうするんですか?」
「大学に戻ります」夢織が微笑む。
「心理学の勉強を続ける」
「今度は、ちゃんと」
「倫理を守って」
「研究する」
「いいね」優衣が言う。
「応援してる」
「ありがとう」
---
カフェを出た後。
八人は港区の公園を歩いていた。
夕暮れ時。
空がオレンジ色に染まっている。
「これで、本当に終わりだね」美優が言う。
「そうだね」優衣が頷く。
「夢鬼ごっこは終わった」
「後遺症で苦しむ人も減った」
「覚醒が広がってる」
「本物の夢織も、回復した」
「全部、丸く収まった」
でも、拓海が言う。
「でも、まだ続く」
「えっ?」
「覚醒が」拓海が空を見上げる。
「私たちが始めたことは、もう止まらない」
「覚醒した人たちが、また誰かを導く」
「連鎖は、ずっと続く」
「それは...」優衣が考える。
「良いこと?悪いこと?」
「どっちでもない」拓海が言う。
「ただ、広がっていく」
「人々が、自分と向き合う」
「選択する」
「覚醒する」
「それだけ」
大樹が笑う。
「なんか、壮大だな」
「壮大だよ」ユキが言う。
「私たちが始めた、新しい時代」
木下が言う。
「でも、責任はあるよね」
「そう」優衣が頷く。
「だから、見守る」
「困ってる人がいたら、助ける」
「ずっと」
石川が微笑む。
「私たちは、夢の案内人」
「そうだね」
八人は公園のベンチに座る。
夕日が沈んでいく。
街に、灯りが点き始める。
「これから、どうなるんだろう」香織が呟く。
「分からない」優衣が答える。
「でも、楽しみ」
「うん」
八人は顔を見合わせる。
そして、微笑む。
新しい時代が、始まっている。
覚醒の時代。
人々が、全ての自分と共に生きる時代。
「行こう」
優衣が立ち上がる。
「どこに?」
「それぞれの道へ」
八人は公園を出る。
それぞれの方向へ。
でも、繋がっている。
夢の中でも。
現実でも。
ずっと。
---
その夜。
優衣は部屋で、カクヨムを開いた。
新しい通知がたくさん来ている。
『覚醒しました』
『ありがとうございます』
『新しい人生が始まりました』
優衣は一つ一つに返信する。
そして、ふと思う。
「私も、何か書こう」
物語の続き。
いや、違う。
新しい物語。
覚醒した人々の物語。
それぞれの選択。
それぞれの人生。
「いいかも」
優衣は新しいファイルを開く。
タイトルを考える。
『覚醒者たちの物語』
いや、違う。
『夢と現実の間で』
いや、これも違う。
そして──
『共に生きる』
「これだ」
優衣はキーボードに手を置く。
そして、書き始める。
新しい物語を。
---
夢を見た。
選択の部屋。
でも、今は誰もいない。
静かな部屋。
四つの道が、静かに光っている。
赤、青、白、金。
優衣は部屋の中央に立つ。
「ここから、全てが始まった」
そして、これからも続く。
遠くから、声が聞こえる。
『夢の夢織』の声。
「ありがとう、優衣」
「どういたしまして」
「あなたのおかげで、たくさんの人が救われた」
「私一人じゃない。みんなで」
「そうだね」
風が吹く。
選択の部屋が、ゆっくりと消えていく。
優衣の意識が、浮上していく。
「また、会おう」
「また」
---
優衣は目を開ける。
朝だ。
窓の外が明るい。
新しい一日。
スマホを見る。
カクヨムからの通知。
新しいコメント。
『この物語に出会えて、本当に良かった』
優衣は微笑む。
「私も」
そう呟く。
窓を開ける。
冬の空気。
冷たいけど、清々しい。
「さあ、始めよう」
新しい一日を。
新しい物語を。
そして──
新しい人生を。
全ての自分と共に。
【第23話 終】
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