第23話 続・狐と狸の化かし合い
23 続・狐と狸の化かし合い
「と、まあ――恐らく敵はそう考える筈だ」
「……はぁ」
地下鉄に乗りながらイスカダルの説明を聴き、私は生返事をする。
いや、ソレは私が疲れていたからで、実際の所は彼の読みを聴き、私は大いに感心した。
「……よくまあ、ソコまで考えつくものね。
マルグにしろアナタにしろ、絶対敵には回したくないタイプだわ」
今ゲーテが居る場所から、敵がどう動くかまで、イスカダルは読んでみせた。
ソレが事実だとすれば、私としては最早脱帽する他ない。
「だが、私達は当然、敵の思惑通りには動かない。
いや、正確には動けないと言うべきか。
そのお蔭で今回は私も、マルグを出し抜く事が出来そうだ。
何故なら敵は、重要な事を知らないから。
ソレは即ち――私達にはゲーテを倒す意思が無いという事」
「……ゲーテを倒す意思が無い?
それは本気で仰っているのでしょうか、イスカダル様?」
まだ何も知らないプラームちゃんとしては、当然の疑問だ。
私はその疑問を氷解させる為に、言葉を紡ぐしかない。
「そうね。
何せゲーテの宿主は、私の恋人である東国明比佐。
そのゲーテを殺すという事は、明比佐も共倒れになるという事。
私としては、そんな事は認められる訳がない。
なので、現時点でゲーテを倒す為に動くのは、私としては承服できないわ」
「は、い?
ゲーテの宿主って……クリスタ様の恋人なんですか?
それはまた、とんでもない確率ですね。
普通、敵側の皇太子と皇女殿下の転生先がカップルになるなんて、ありえませんよ。
正に――天文学的な確率です」
「そうね。
でも……事実なのよ。
訳が分からない事に、私と明比佐は今そういう関係になっている。
だから私の目的は、明比佐とゲーテの人格を分ける事が出来る能力者を見つける事なの」
私が溜息交じりに打ち明けると、プラームちゃんは目をパチクリさせる。
「はぁ。
それは分かりましたが、よくイスカダル様が同意しましたね?
アナタの事だから、もっと合理的に動くと思っていたのですが?」
「そうだな。
その見解に、誤りはない。
だが、合理的だからこそ私は現状を楽観視できない。
即ち――敵もまた新たに仲間を見つけているんじゃないかという危機感が私の中にはある」
「おや。
出ましたね。
イスカダル様お得意の〝最悪のケースを想定〟と言う奴が。
基本、臆病なイスカダル様は、ソレを覆すだけの策がなければ、動かない」
プラームちゃんが喜々とすると、イスカダルは鼻で笑う。
「戦略家としては、当然の考え方だ。
私達が仲間を見つけた以上、敵も仲間を一人以上は見つけていると考えるのが普通だろう。
その序列次第では、奇襲をかける方が藪蛇だ。
ならばこのまま仲間集めを続行して、狩南のレベルアップを図った方がいい。
狩南が使い物にならない限り、私達にはほぼ勝ち目と言う物はないのだから」
「確かに序列一位が雑魚のまま……いえ、一般人と変わらないというのは不味いですねー。
もし敵が仲間を見つけているとしたら、これで実質二対三。
やはりクリスタ様が使い物にならない限り、勝算は薄いと考えるべきですか」
「………」
というか、コレは絶対に口にしてはいけない事だけど、ソレはアナタも同じだから。
序列八位のプラームちゃんでは、マルグにさえ歯が立たない筈なのでやはり勝ち目は薄い。
ならば、ここはイスカダルが計画した通り、仲間集めに専念するべきなのだろう。
「そうよ。
さっきまで私達が居た街の探索は、もうしなくて良かったの?
プラームちゃんの他にもまだ仲間が居た可能性だって、あったんじゃない?」
「いえ、それはありませんねー。
私は一年程前に目覚めたのですが、あの近辺では仲間は見かけませんでしたから」
「……一年も前に覚醒していた?
驚いたな。
プラームはそんな前から、ヒルビス人として活動していたのか」
イスカダルの驚きは、私も同意する所だ。
まさか私や明比佐がこうなる一年も前から、ヒルビス人が暗躍していたとは。
「ソレで尚――キミは序列七位ないし九位の人間を見つけ出せなかった?」
「ええ。
見つけられませんでした。
まあ、私としては他にやる事があったので、仲間捜しは真面目にしていなかったのですが」
「………」
……仲間捜しを、真面目にしていなかった。
部外者が聞けばギャグだと思えるだろうが、当事者の私としては笑えない話だ。
「でも、何をしていたかは秘密です。
ここで話すと、有難みが無くなりますから」
「ほう?
要するに、黙秘権を行使するという事か?
ならソレは良いとして、プラームは私達とマルグの戦いの気配を感じたのだろ?
なぜ直ぐにかけつけてこなかった?」
「んん?
いえ、イスカダル様なら何とかなると思ったんですよね。
寧ろ私が参戦すると、かえって足手まといになると思った、みたいな?
何せ私の能力って、かなりショボイですから」
「……相変わらずの卑怯者ぶりだな、キミは。
自分の都合によっては、仲間さえ見捨てるか」
「いえ、ただの卑怯者ではありません。
〝計算された卑怯者〟と呼んで下さい。
イスカダル様もただのスケベより、むっつりスケベと呼ばれた方が、気分がいいでしょ?」
「――どちらも不愉快だ。
まあ、いい。
それも何時もの事なので、脇に置いておこう」
「………」
……え? それでいいの?
プラームちゃんの可愛さに心酔している私でも、彼女の行動は問題がある気がするのに?
けど、ここから先は――私が知り得ない会話が展開される事になる。
◇
《そうですね。
私もイスカダル様にお聞きしたい事があります。
私が察するに、イスカダル様はゲーテが覚醒する場面に立ち会ったのではないでしょうか?
で、話の流れからするとその時、敵はマルグとゲーテのみだった。
なら、或いはアナタならゲーテを仕留める事も可能だったのでは?
それでなおゲーテを討ちもらしたとすれば、それは意図してそうしたからではないですか?》
プラームがテレパシーで問うと、イスカダルは素知らぬ顔であらぬ答えを返す。
《それはつまり――私に二心があるという事かな?
私がダンティス側と内通していると――キミは考えている?》
プラームの答えは、決まっていた。
《まさか。
仮にそう思っているなら、こうして直接問い詰める事などいたしません。
もしイスカダル様が敵と通じているなら、そう疑った時点で、私はアナタに消されますから。
私が考えている事は、もっと別の事です。
……そうですね。
私もうまく言葉に出来ないのですが、アナタはもっと根本的なナニカを変え様としているのでは?
この戦争の在り方自体を一変させる様なナニカを、模索しているのではないですか?》
《その根拠は?》
プラームの返事は、凡そ論理的ではなかった。
《――女の勘です。
いえ、正確には、私には、アナタはこの戦争に嫌気がさしている様に見えた。
前々回あたりから、その思いが爆発しそうな感じだったんですよ。
イスカダル様は常に平静を装っていましたが、私の目は誤魔化せませんよー》
《成る程。
だが、外れだ。
私はダンティス家を滅ぼすつもりだし、その為にクリスタを後押しする事に変わりは無い。
キミは私を過大評価している様だが、私とて大きな目で見ればただの一兵卒にすぎない。
そんな私が、今更そんな大それた事を考える訳がないだろ?》
《………》
やはり感情が読めない表情で、イスカダルはテレパシーを返信する。
プラームはそんな彼を観察してから、嘆息した。
《ま、いいでしょう。
私もアナタがクリスタ様を裏切るとは思っていないので、この話は保留にします。
でもアナタの思惑が私を害する物なら、全力で潰しにかかるのでそのおつもりで》
それで、紫塚狩南が関知できなかった会話は終わった。
狩南に自分の名前を呼ばれたプラームは――素知らぬ顔で彼女に向き直る。
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