第22話 狐と狸の化かし合い

     22 狐と狸の化かし合い


 俺がマルグの報告を受けたのは、午後八時を過ぎた辺りだ。


 彼女はテレパシーを通じて、その変化を訴えてくる。


《ええ。

 狩南さんの気配が、全く掴めなくなりました。

 とすれば、可能性は二つ。

 彼女達が地下に潜伏したか、仲間を見つけて狩南さんがスキルアップしたかの何れか。

 前者だとすれば、彼女達は仲間集めを中断した事になります。

 先程実験した通り、地下からでは地上に居る仲間の気配を感じ取る事は出来ませんから》


 俺達と別れる前、マルグが試した地下実験を挙げて彼女は説明する。

 地下からでは、地上に居る仲間の気配は掴めない。


 確かにその通りだ。

 俺も地下に居るマルグの気配は、感じられなかった。


 マルグも同様で、地下からでは地上にいる俺やサンダルカの気配は掴めなかったらしい。

 だが――俺にはやつ等が仲間集めを諦めたとはどうしても思えない。


《そうだな。

 なら、やつ等が新たに仲間を見つけたと、考えるのが妥当だろう。

 狩南はそのお蔭でレベルアップして、気配を消している。

 計算が狂ったな。

 これで俺達も、やつ等の動向を探れなくなった》


 いや、問題はやつ等が誰を見つけたかという事。


 序列四位以上だとすれば、また厄介な事になる。


《というより、よく狩南さんが仲間の覚醒を行いましたよね。

 転生者の覚醒により明比佐さんを失った彼女は、私達と同じ真似は出来ないと思っていたのですが》


《それも道理だな。

 どうやら狩南も、腹を括ったらしい。

 全力で私を倒す事を決意したか、それとも他に理由があるのか。

 どちらにせよ、狩南はやはり厄介だ。

 オマエの進言通り、早々に死んでもらうべきだろうよ》


 マルグの読み通りなら、狩南を殺せば転生に不具合を起こしているクリスタも、死ぬ。

 つまりこれはクリスタを消す、絶好の機会だ。


 俺達は狩南が覚醒する前に、何としても彼女を殺す必要がある。

 その為には、どうしても狩南達の足取りを追う必要があった。


 だが、さすがにソレは至難の業か。

 如何なマルグ・トリアと言えど、一億二千五百万人の中からたった三人の人間を見つけられる筈がない。


 俺としてはそう思っていたのだが、マルグは一笑する。


《それは、どうでしょう? 

 もしかすれば、彼女達の足取りを掴めるかもしれません》


《……ほう? 

 それは、本当に?》


《はい。

 これは私の勝手な忖度なのですが――イスカダル達は恐らく北に向かう筈です》


 ソレを聴き、俺は思わず眉根を寄せた。

 その根拠が、俺には分からなかったから。


《ええ。

 多分ですが、イスカダルは方針を変更したのでしょう。

 私が殿下から離れて諜報活動を行うと読んだイスカダルは、一人きりになった殿下を倒す気です。

 今の仲間を見つけた自分達なら、ソレも可能だと判断した。

 いえ、逆を言えば〝ダンティス側が仲間を集める前に、勝負をつけた方が得策だ〟と思ったのかも。

 だとすれば――彼等の行き先は北で間違いない》


《それはつまり、向こうは私の居場所を正確に把握しているという事? 

 それが、敵が新たに見つけた仲間の能力と言う事か?》


《その可能性もありますが、私の見解はもっとシンプルです。

 畏れながら、殿下は割と単純ですからね。

 殿下が仲間捜しをするなら、より近かった最北の方から始めるとイスカダルは読んだのでしょう。

 で、初期状態の殿下の体力から計算して、今どのあたりに居るのかを割り出した。

 ま、さすがに方角までは分からない筈ですが、人は迷った時左の方角に行くと言いますからね。

 イスカダルがソレを知っていれば、殿下は西に向かったと当たりをつける筈。

 で、殿下は実際北西に居る訳なので、近い内に、敵に何らかの動きがあるかもしれません》


《……成る程》


 というか、絶対に俺を畏れてないだろ、オマエ? 


 だが、マルグが指摘した通り、俺はいま北端を背にした状態で見て、北西に居る。

 北海道を左回りで探索して、仲間を捜そうとしているのだ。


 そう言った心理まで見抜いている辺り、さすがはマルグ・トリアと言った所か。

 仮にイスカダルもそう読んでいるなら、最早脱帽する他ない。


《つまり、オマエの策はソレを逆手にとる事か。

 一旦、俺はサンダルカと別れ、一人きりだとやつ等に思わせる。

 やつ等が襲撃してきた所でお前達と合流して、やつ等を返り討ちにする。

 狩南はその襲撃には参加しない筈だから、やつ等の誰かから狩南の居場所を訊き出す必要があるな》


《さすがは、殿下。

 私の愚考など、既に見通しておられる。

 そういう訳なので、私もこのまま北上する事にしますが、ソレで宜しいでしょうか?》


 俺は暫く熟考してから、返答する。


《分かった。

 確かに早めに決着をつけたいと言う点においては、私達とやつ等の利害は一致している。

 ここは、オマエの口車にのってやろう。

 ただ、一つだけ注文をつけたい》


《はぁ。

 それは何でしょう?》


 疑問符を投げかけるマルグに、俺は肩をすくめた。


 俺がその注文を口にするとマルグは〝成る程〟と納得する。


《承知いたしました。

 では、その様に》


《ああ。

 よしなに頼む》


 それでマルグとの交信を終えた俺は、サンダルカに向き直った。


「話は聴いていたな、サンダルカ? 

 そう言う訳なので、残念ながら暫く別行動だ」


「ええ。

 本当に残念ですわ。

 これからタップリ、殿下と狩南とやらとの関係をお聴きし様と思っていた所でしたから。

 本当に、兄さんも罪な作戦を思いついたものです」


〝やはり乳首の一つでも、ねじ切ってやりましょうか?〟などと呟く、鬼妹。


 俺は引きつった笑みを浮かべながら、踵を返す。


「ソイツは、確かに残念だ。

 俺もひさしぶりに、嫉妬に狂ったお前の顔が見たいと思っていたから」


 いや、飽くまで俺は余裕のある男を演出して、サンダルカに手を振る。


 そんな俺に意味ありげな笑みを向けた後、彼女は闇の中に消えた。


「では、殿下――ご武運を」


 それだけ言い残し、サンダルカもまた俺の傍から離れる。


 彼女を見送った後、俺は予定通り仲間捜しを再開する為――その場を後にした。

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