第一章
第1話 終末の刻
その日、世界はゆっくりと
1986年11月11日。
米国空軍、極軌道有人ミサイルプラットフォーム、MNーCRF-T01。スターウォーズ計画の到達点。
地球上空1000kmを周回し、世界中あらゆる場所を即座に核攻撃可能な恐るべき宇宙ステーションである。
その日、フランスは南太平洋ムルロア環礁で核実験を予定していた。米国は万一の事態に備え、宇宙からも監視の目を光らせる。
「どうしてこんな美しいブルーを汚そうと思うんだろう」
眼下に広がる南太平洋を眺めながら、青ずくめのクルースーツに身を包んだ男がつぶやいた。
「スティーブ、どうしたの?感傷?」
明るいブラウンのポニーテールをゆらし女性が顔を近づける。
「アレックス、そういう訳じゃない。フランスが環境を汚染して、豆鉄砲を持ったところで何になる?NATOとソ連が開戦したら、結局は
宇宙ステーションの窓をアレックスと呼ばれた女性も覗き込む。
「スティーブ、任務を忘れたの?必要があればこの美しい星を焼き尽くす、それがわたし達の仕事」
「忘れてないさ。でも感傷屋な俺は地上や地下が似合ってるのかもしれないな。予告の時間まであと1時間はある、物思いにふけるぐらいは許してもらえるだろう」
その時、眼下の大気層、南太平洋上空で、真円形をした純白の幕が広がった。大きい。
数秒ののち、真円の中央部から幕はゆっくりと開かれ、宇宙からでも眩しいばかりの光球が姿を現した。
男は聞こえるはずもない爆発音を幻聴した。
「あれは核爆発か?地下核実験じゃなかったのか?アレックス、本部へ連絡を」
「シャイアンマウンテンでも事態を捕捉している。震度計が異常な値を示してるって」
光球はやがて誰も見たこともない大きな原子雲へ姿を変えた。南半球の空が茜色に染まる。
「ありえない……」
「何がだ?」
「推定核出力350メガトン……ソ連最大級100メガトンのざっと3倍、人類が作り出したどの核兵器よりも強力」
「豆鉄砲は俺たちの方だったか」
NORAD(北米航空宇宙防衛司令部)は98.2%の確率でこれが第三者による核攻撃だとした。わずかな可能性として、ツングースカ事件のような自然現象が残るが、レーダーは小天体の痕跡を一切とらえていない。
しかし米国がたとえ望んだとしてもこれだけの核兵器を作ることは不可能だ。
インテリジェンス(CIA)もソ連はこの規模の核兵器は保有していないという見解を表明した。
それでは一体誰が?
「
デフコンは米軍が定める戦争準備体制であり、1は戦争状態、2は最高度の戦争準備体制を示す。デフコン2はキューバ危機以来だ。
「全兵器システム、
アレックスの声が震える。
「秘匿軍事回線に入電あり。読み上げる、なんだこれは」
『オワリノ トキハ チカイ イマナラ マダ マニアウ』
米国もソ連も、世界中あらゆる国が事態の把握を急いだ。
そして思い出した、自分たちが世界を滅ぼし得る存在だと、そして世界は次の瞬間にも滅び得るものだと。
その日、世界はゆっくりと最終戦争へ刻を進めた。
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