第2話
スイーア星系にある惑星ジズ5。
惑星表面の八割が海であるこの惑星は年中惑星全体の気温が温暖で、常に多くの観光客が訪れるスイーア星系で最大のリゾート惑星である。
ジズ5に訪れてくる人間のほとんどは海水浴や観光を楽しむことを目的とした観光客なのだが、中にはリゾート惑星とは似つかわしくない明らかに危険な雰囲気を全身に纏わせた者達がいた。彼らは世間で冒険者と呼ばれる者達で、冒険者達の目的は当然ながらダンジョンに挑むことであった。
このジズ5はすでに二百以上発見されているダンジョンの一つの入り口が存在している惑星で、彼ら冒険者達を相手にした商売も観光業と同じくらいジズ5にとって重要な資金源となっているのである。
ジズ5の陸地はほとんどが小さな島で、ダンジョンの入り口が存在している島の周りには冒険者のみを対象にした施設が揃った島が複数点在しており、ダンジョンの入り口がある島から一番近い島には高層ビルが一棟建っていた。この高層ビルは六芒星銀河の各惑星にある冒険者達を取りまとめる組織、冒険者組合の支店ビルの一つであり、冒険者の登録の他にダンジョンで手に入った資源の買取もしていて、冒険者組合からダンジョンの資源を購入したいという企業の人間も毎日多数出入りしているため、命懸けの仕事をしている荒くれ者の冒険者が通う場所でありながら高級オフィスビルのような雰囲気であった。
傷だらけのパワードスーツを身に纏って手に銃火器やビームサーベルを持っている冒険者と、高級なビジネススーツを身に纏った企業の会社員が同じ空間にいる光景は、初めて見る者からすればとても奇妙なものに映るだろうが、ここにいる者達は皆慣れたもので特に騒ぎもせず仲間内で仕事の話などをしていた。
するとその時、ビルの入り口の自動ドアが開き、ビルの中にいた冒険者達と会社員達の視線が入り口に向けられる。
入り口からビルに入って来たのは一組の男女であった。
男の方は二十代前半くらいの見た目で、黒のシャツとズボンの上に獣の牙のマークが複数描かれた黒のトレンチコートを羽織っており、表面が動物の革のようなもので被われた無反動砲を右肩に担いでいた。
いきなり無反動砲を肩に担いだ男がやって来たら、普通ならば何処かのテロ組織の人間かと疑い恐怖するだろう。しかしここは冒険者とそれを相手にする者達が集まる冒険者組合の支店ビル、この程度のことで驚くような者など一人もいなかった。
十中八九、黒のトレンチコートを着た男が冒険者、あるいはこれから冒険者に登録しようとしている者だと考えたビルの中の冒険者達と会社員達は、冷静に黒のトレンチコートの男を観察する。
冒険者達は自分達のライバルとするか、あるいは自分達と共にダンジョンに挑む仲間にスカウトするか見極めるために。
会社員達はダンジョンの資源を自分達へ優先的に売ってくれる交渉する相手とするか考慮するために。
冒険者達と会社員達の視線を浴びながら黒のトレンチコートの男は、側にいる女性と共に受付へと歩いて行き、そこにいた受付嬢の一人に声をかける。
「すみません。冒険者登録をしたいのですが」
「はい。それではまずはお二人のお名前を教えてください」
黒のトレンチコートの男の言葉を完全に予測済みであった受付嬢は、いつも冒険者達や会社員達に向けている営業用の笑顔を浮かべて、黒のトレンチコートの男とその側にいる女性に名前を尋ねる。
「俺の名前はアグ・アレス。女神シェルルの御名を広めるために冒険者になりに来ました。そして彼女はコトリといいます」
「……コトリ、です」
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