異星界の殴りプリースト 〜神は言った、金持ちスローライフを実現せよと〜

兵庫人

第1話

 地球がある天の川銀河から遠く離れた場所にある銀河。その銀河は内部に六つの小銀河があり、六つの小銀河の中心を線で結ぶと六芒星となるため「六芒星銀河」と呼ばれていた。


 六芒星銀河の人類の科学技術は非常に発達しており、星と星を移動する星間航法や脳に干渉して超能力に目覚めさせるなどと言った様々な技術を開発しているのだが、そんな科学技術を発達させた六芒星銀河の人々の世界は現在、一部分がある意味大昔のものへとなっていた。


 きっかけは銀河の辺境にあるとある惑星で発見された古代の遺跡からであった。


 その遺跡から発見された資料によると遥か昔、六芒星銀河では「神」や「悪魔」と呼ばれる高位存在達が幾度となく大きな戦いを繰り広げていたらしい。そしてその神と悪魔が使用していたとされる武具、あるいは神と悪魔そのものは現在、「ダンジョン」と呼ばれる異次元に存在する迷宮にして監獄に封印されていると記されていた。


 遺跡から発見された資料を元に六芒星銀河の人類の一部は星々を渡りダンジョンの痕跡を探り、ついにはいくつもの異次元にあるダンジョンへと繋がる入り口を見つけだした。ダンジョンの内部には侵入者を排除することを目的とした未知の生物だけでなく、六芒星銀河の科学力でも解析不能な資源が多数確認され、この事を知った六芒星銀河の人類は未知の資源を認めて危険をかえりみずダンジョンに挑み、ダンジョンに挑む者達は「冒険者」と呼ばれるようになる。


 神や悪魔と呼ばれる上位存在。


 神と悪魔の存在を封印している異次元の迷宮。


 魔法のような超能力を駆使してダンジョンに挑む冒険者。


 これらの要素により科学技術を発達させた六芒星銀河の人類の世界の一部は、科学技術が発達する遥か昔に語り継がれていた「剣の魔法の世界」と化したのである。


 ダンジョンに挑む冒険者という職業は危険極まりないものだ。高い科学技術で作られた最新の武装を装備していても、強力な超能力が使えたとしても、それでも歯が立たない怪物や罠が牙を剥き、これまでに多くの冒険者がダンジョンの中で命を落としていった。


 それでもダンジョンで得られる資源は全て高値で取引される貴重な物ばかりで、ダンジョンから生還した冒険者の中には大金を手にした者も少なくなく、一攫千金を夢見て冒険者となろうとする者は今も大勢いる。


 そしてここにまた一人、冒険者となって剣と魔法の世界に飛び込もうとする者がいた。


 ☆


 水面が黒く濁った海に一隻の軍艦が浮かんでいた。


 その軍艦は船体が木で作られた今時辺境の星でもまず見かけないアンティークと言っても過言ではない船で、そんな木造の軍艦の甲板には両膝を床につけて両手を組む油で汚れた作業着を着た男の姿があった。


「我が女神シェルルよ。俺、アグ・アレスは心から貴女様に感謝し、そして謝罪します」


 アレスと名乗った男の前には車輪がついた大砲の上に腰をかけている女性の像があり、アレスは両手を組んだまま女性の像に祈りと謝罪の言葉を口にする。


「女神シェルル、俺の今までの貴女様への信仰は本当のものではありませんでした。今までの俺は、貴女様のことを信仰系外力スキルを修得してプリーストになるための、単なる信仰用アイコンだと考えていました。……しかし貴女様はそんな不心得者の俺のことを見捨てずに力を授けてくださり、更にはこんな船まで与えてくれました」


 大砲の上に腰をかけている女性、女神シェルルの像に語りかけるアレスの声からは深い後悔と感謝の気持ちが込められていた。


 今アレスがいる黒く濁った海は自然のものではなく、宇宙船の船内に作られたものであった。


 船内に人工の山や森を作り、更にその中に個人的な時間を過ごす建物を建てた宇宙船というのは確かに存在する。しかし当然ながらそれらの宇宙船は非常に高価で、所有しているのも趣味人な王侯貴族や大企業の社長と言った限られた者達だけであり、つい先日までとある惑星の小さな工場に勤務していたアレスにはとても手が出せる代物ではない。


 だがアレスはつい先日、奇跡のような偶然によってこの王侯貴族しか乗れない……いや、それ以上に価値がある宇宙船を手に入れた。そしてアレスは自分が宇宙船を手に入れることができたことを、今まで単なる偶像としてしか見てこなかった女神シェルルによる奇跡だと確信して信仰心に目覚めたのであった。


「俺は心を入れ替えました。女神シェルル、これからは貴女様のことを心から敬い、貴女様のご意志に従って自分の思うように生き、その途中で貴女様の御名が広まるように尽力することを誓います」


 これがアレスが冒険者を目指す理由。冒険者として成功すれば大金を得られるだけでなく多くの人々からも注目され、そうすれば結果的に自分が信仰している女神シェルルの名も世間に広まるだろうと考えたアレスは、宇宙船を目的地であるダンジョンの入り口がある惑星に向かわせるのであった。

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