ターバン無双 〜タ◯バンの秘密〜
黒冬如庵
ターバン無双 〜タ◯バンの秘密
いずれの御時にか。
千葉県某市──そこに、オリオン腕局所恒星間雲で最も香り高いカレーを出す店がある。
誉高きその名は──「タ◯バン」。
◆◆◆
なお、千葉県某所に実在する名店とは一切関係がない。いいね?
アッ、ハイ。
◆◆◆
僕はどれほど遠くの街に行こうとも、結局この店に帰ってしまう。
あの甘く香ばしいスパイスの香りが、時も次元もを超えて僕を引き寄せるのだ。
だが、今日の僕は無為にカレーとナンを貪る客ではない。
ちなみにナンのおかわりは自由だ。ダイエットの大敵。
ではなんでまたというと、目的はただ一つ。
秘密組織「我らのインダス川」が狙うという、伝説の魔法香辛料「マハールの涙」。その魅惑の粉の正体を探るため、僕はタ◯バンに職を求めた。
……違法な粉じゃないといいなあ。
カレー将軍にはなりたくない。
今日は、記念すべき初出社だった。
真新しい白衣に袖を通し、ふんむとエプロンの紐を締め、異様な音が響く厨房に向かう。
え? ここカレー屋だよね。なんでこんな風を斬るような音が?
厨房の奥、浅黒い顔の店主は白いターバンを頭に巻き、時折その先端を振るう。
いや、ターバンは帽子だよ? なんで振り回してるのさ!?
白の雷光が空気を薙ぐ。
プラズマをはらんで焦げるようなオゾン臭が漂った。
こ、こ、こ、こ、これはターバン無双鞭!?
普段はただのインドのアイデンティティに見えるが、閃光が走ると、空気が揺れ、世界が一瞬ひっくり返る。
その空気にスパイスが舞い上がり、砕かれ、混ぜられ、ガラムマサラの世界が描き出される。
客には見せない超絶の秘技こそ、タ◯バンの秘密の味の源だった。
「お前が新入社員だな? ──飛鳥五郎を殺したのは貴様か!?」
すいません、ネタが古くて営業禁止レベルです。
さすがの僕もとっさに返しが思いつかない。
「えーと、殺しは守備範囲外なんですが……新入社員の日賀志大和です」
黒い瞳が僕を睨めつける。
「貴様、スパイスを理解するつもりか?」
店主の声が、厨房の壁に反響する。
「はい。できれば。僕、ここのバターチキンカレー大好物なんです」
「ふむ、偉大なガネーシャの加護を得られるかは分からんが、あの味が分かるなら見込みはあるか──精進しろ」
白の閃光が彼のターバンから走った。
瞬間──僕は鮮烈なスパイスの香りに導かれるように……地獄の門扉をくぐった。
◆◆◆
僕は毎日、厨房の隅でスパイスを計り、炒め、香りを嗅ぎ分ける。
タ◯バンのカレーはただのカレーではない——それは時間と記憶を閉じ込めた魔法だと、少しずつ理解し始めていた。
ある日、店主が突然、白のターバンを大きく振った。
鞭のようにしなるその布が、空気に白い閃光を走らせる。
魂を込めて焙煎した香辛料のボウルが、僕の手元から消えた。
香辛料の入ったいくつもの壺が跳ね回り、キッチンでスパイス煙が舞い踊る。
「貴様……まだ、『カレー』を解していないな」
宙に躍動するターバンに見とれながら僕は答える。
「はい……でも、知りたいんです。この香りの秘密を!」
その瞬間、ターバン無双鞭が空中で一閃し、7色の光が僕の周囲を包む。
気がづけば僕は、タ◯バンの厨房ではなく、遠い記憶の中の某市の街角に立っていた。遠くで店の看板が光を反射し、香ばしいカレーの匂いが風に乗って流れてくる。
「……ここが、僕の帰るべき場所か」
目の前で、ターバンを巻いた店主が笑う。
「ふふ、これがタ◯バンの味の正体だ。郷愁と記憶、そしてわずかな魔法香辛料……それを理解した者だけが、本物のカレーを作れる」
僕はスパイスを手に取り、鞭の閃光のリズムに合わせて調合する。
辛さと甘み、酸味と苦み——すべてが僕の記憶と交わり、唯一無二の味を生み出す。
「これが……タ◯バンの味……」
店主のターバンが再び光る。その瞬間、僕は理解した。
ターバン無双鞭も、魔法香辛料も、結局は「帰るべき場所」を示すための道具に過ぎないのだと——。
◆◆◆
その夜ふけ、厨房に不穏な影が差し込んだ。
秘密組織「我らのインダス川」——タ◯バンの魔法香辛料「マハールの涙」を狙う連中だ。
黒いマントを翻し、彼らは厨房の扉を蹴破った。
「貴様ら……!」
店主の目が光る。
ターバン無双鞭がひらりと舞い、空気に鋭い白光を走らせる。
その瞬間、組織の幹部たちは、目の前に見えない壁に阻まれたかのように宙に浮かび、次々に後退する。
僕も身構える。手に握るスパイス——「マハールの涙」の欠片が指先で熱を帯びる。
香りが鼻腔を突き抜け、僕の記憶の深奥、幼い日のタ◯バンの風景が鮮やかに蘇る。
「人の想いこそ、力だ!」
僕は叫び、マハールの涙を鍋にぶち込んだ。
瞬間、ターバン無双鞭が高速回転し、鍋の中身を遠心分離にかける。
「食らえ! 記憶補正増幅(メモリー・ブースト)カレー!」
インダス川の幹部たちは一口食べた瞬間、全員が幼児退行し、「ママ~! バブー!」と泣きながら帰っていった。
……。
「店主、結局このスパイスは何なんですか?」
「うむ? ただのマサラだ」
僕は膝から崩れ落ちた。
「つまりな、カレーとは基本にして究極。技法など枝葉にすぎん」
「……あの、僕が見た走馬灯は?」
「空腹による幻覚だな」
「なんで、日本語そんなにうまいんですか?」
「──インドジン、ウソツカナイ」
店主はニヤリと笑い、再び白いターバンを振るった。
風を斬る音と共に、厨房にただよう香ばしい匂い。
魔法か、幻覚か、それともただの配合香辛料か。
悔しいけれど、僕の腹は正直に鳴った。
「へいへい、わかりましたよ。……おかわり、ナン一枚!」
タ◯バンの味と平和は、今日も嘘とスパイスとインド人によって守られているのだ。
(完)
-----------------------------
あとがき
作者はインドカレーが好きです。
インドカレーが大好きです。
コクのあるバターチキンカレーなど、もうたまらない。
辛すぎるマトンカレーには涙さえ出る。
そんな作者は日々、インドカレー武者修行に明け暮れているのですが、結局地元のカレー屋が一番というありきたりな結論。
それに狂気というスパイスを混ぜたらこうなりました。
※当たり前ですが、これはフィクションです※
実在のバターチキンカレーが大変美味しい店とはナンの関わりもございません。
インドだけに。
ナマステ。
ターバン無双 〜タ◯バンの秘密〜 黒冬如庵 @madprof_m
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます