なんで魔王の玉座がゲーミングチェアなんだよ!

@nechaoji

第1話 なんで魔王の玉座が、、、

「おいおい、冗談だろ……?」

俺(ヒコカツ)は、異世界から召喚された勇者として、

幾多の苦難を乗り越え、

ついに魔王城の最深部にたどり着いた。


目の前には、

禍々しいオーラを放つ広大な玉座の間。

中央には、

いかにもラスボス然とした威厳ある魔王が座っている…

…はずだった。


「……は?」


そこにいたのは、確かに巨大な角を持ち、紫色の肌に禍々しい模様が浮かぶ悪魔のような姿の魔王だった。

だが、問題はその『玉座』だ。


一般的に『玉座』聞いて想像するのは、頭蓋骨やら薔薇の棘やらゴテゴテな装飾が施された石造りの玉座。

世界の命運を左右する最終決戦の場にふさわしい、荘厳な、重厚な、威厳に満ちた玉座を思いつくだろう。


しかし目の前にあったのは、、、

真っ赤なゲーミングチェア!


「ちょ、ちょ待てよ! なんで魔王の玉座がゲーミングチェアなんだよ!」


俺は思わず叫んでいた。普段よりデカい声で腹からツッコんでいた!


目の前の魔王は何食わぬ顔で赤いバケットシートに深く身を沈め、肘掛けに腕を置いて俺を睨んでいる。


「貴様、何事だ?」


魔王の声は、重低音が響く恐ろしいものだったが、その発言内容と状況が全くかみ合わない。


「何事だじゃねぇよ! なんだよその椅子! 魔王だろお前! ラスボスだろ! 世界を滅ぼそうとしてる悪の権化だろが! それがゲーミングチェアってどういうことだよ!」


「ふん。勇者ごときが、この『至高の座』の価値を理解できぬか。これは『ゲーミングチェア』なるものだ。我が配下の賢者が『長時間のデスクワークに最適』と勧めてきたものでな。これが驚くほど快適で、一度座ったら最後、もう普通の玉座など座れたものではないわ!ぶはっ」


魔王はそう言って、どこか得意げな顔で鼻を鳴らした。

いや、お前、魔王だろ?

デスクワークって何だよ。

世界の滅亡計画でも立ててるのか? 何千年も生きてるあんたの「長時間」って何時間以上のことだよ!?時間の概念あんのかよ!

「ていうか、その……背もたれからなんか伸びてる金属の棒とか、サイドについてるアームとか何だよ! 光ってるぞ!?」


「これは『五連アームライト・弐式』と『魔力増幅式カップホルダー』、そして『振動するフットレスト』だ。夜間の魔力チャージや、我が血盟騎士団とのオンライン会議、そして激しい攻城戦の指揮において、これほど頼りになる相棒はないわ!」


「オンライン会議!? 攻城戦をゲーミングチェアで指揮してんの!? 何それ怖ええええ!!」


俺の剣を握る手が震えだした。

世界の命運をかけた戦いなのに、なんかめちゃくちゃシュールだぞこの状況。

魔王が、赤い光を放つゲーミングチェアにふんぞり返って、コントローラーでも握りそうな勢いで威張っている。


「ぬかせ勇者よ! 我が快適な玉座を侮辱するとは、万死に値するぞ! さあ、覚悟せよ! この究極の座り心地を知らぬ貴様に、魔王たる我の真の恐ろしさを見せてやろう!」


そう叫ぶ魔王の背後で、

ゲーミングチェアの背もたれが、ギィィンと鈍い音を立ててさらにリクライニングした。


「おい、まさか寝る気じゃねーだろうな!?」


俺と魔王の、人類と魔界の未来を賭けた最終決戦は、、、

最悪の、、、

いや、、、

最高の形で幕を開けたのだった。


(つづく)

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