第十六話 深海よりの帰還者たちと、プラシーボ

 深夜の港。人気のない倉庫の裏手に、一台のバンが停まっている。


 暖房がガンガンに効いた車内。


 私は毛布にくるまり、ガタガタと震えながら温かいココアを両手で包み込んでいた。


「……い、生き返るぅ……」


 一口飲むたびに、冷え切った内臓に熱が戻ってくる。


 死ぬかと思った。本当に、死ぬかと思った。


 横では、真田さんがジャージ姿で、ユダがテイクアウトしてきた特盛の牛丼をかき込んでいる。


「うまい! 極限状態からのリカバリーには、炭水化物とタンパク質の同時摂取が最適解だ!」


「……あんた、さっきまで三途の川見てたのによく食えるわね」


 呆れる私に、運転席のユダが振り返った。


 彼の顔は、まだ強張っていた。いつもの「気だるげな店長」の顔じゃない。


「……おい、結菜」


 低く、ドスの効いた声。


 私はビクッとして顔を上げた。


「な、なによ」


「なんで通信で俺を呼ばなかった」


 ユダの目が、私を射抜いた。怒りではない。もっと深い、焦燥のような色。


「バイタルが乱れて、残圧がゼロになったあの瞬間だ。……なんで『助けてくれ』の一言も言わなかった? 通話機能は生きていただろうが」


「そ、それは……」


 私は言葉に詰まった。


 言われてみればそうだ。マイクは生きていた。


 でも、あの時は――。


「パ、パニックだったのよ! 仕方ないじゃない!」


 私は叫び返した。恐怖が再燃して、声が震える。


「急に空気が吸えなくなって、目の前で真田さんが死にそうになって……! 頭真っ白で、無線を使うなんて思いつく余裕、あるわけないでしょ!?」


「……」


「あんたみたいに場慣れしてないのよ! 私はただの引きこもりなんだから!」


 私の剣幕に、ユダは口を閉ざした。


 彼はハンドルを握る手に力を込め、ギリッ、と革が鳴るほど強く握りしめた。


 その手は、怒りではなく、もっと別の感情で震えているように見えた。


「……そうだな。悪かった」


 彼は視線を落とし、独り言のように呟いた。


「……俺はもう、見たくねえんだよ」


「え?」


「『大丈夫だ』って強がって……死んでいった奴を見送るのは、もうたくさんだ」


 車内の空気が凍りついた。


 ユダの瞳に、深い影が差している。


 それは、私たちが知らない彼の過去――何か決定的な出来事が起きた所を見ている目だった。


 彼が裏切り者の代表「イスカリオテのユダ」と名乗る理由。


 それが、誰かを裏切ったからなのか、それとも組織に裏切られた誰かを見殺しにしたからなのか。


 私には分からない。


 でも、今の彼の必死さは、ただのビジネスパートナーに向ける温度を超えていた。


「覚えとけ。……俺はお前らのバイタルを常に監視してる。だが、モニター越しじゃ限界がある」


「ヤバいと思ったら叫べ。喚け。泣きつけ。……俺は必ず行く」


「二度と……間に合わなかったなんてことは、起こしたくねえんだ」


 重苦しい沈黙が流れる。


 真田さんが箸を止め、真剣な顔で頷く。


「肝に銘じておく。……今回は、俺の過信が招いた事態だ。すまない、ユダ」


 気まずい。でも、悪い気まずさじゃない。


 この不器用な職人が、私たちを「損得」以上の何かで守ろうとしていることが、痛いほど伝わってきたからだ。


 その空気を払拭するように、ユダが鼻を鳴らしてニヤリと笑った。


 彼の手には、一台のタブレット端末がある。


「ま、湿っぽい話はここまでだ。……飯も食ったことだし、『作戦記録』の確認といくか」


「……は?」


 嫌な予感がした。


 ユダの目が、さっきの「悲痛な目」から「いたずらっ子の目」に変わっている。


 彼は無理やりにでも、この空気を変えようとしているのだ。


「今後のために、通信記録は全て録音してある。特に今回は、お前らの『素晴らしい連携』が記録されてたからな。……再生するぞ」


「ちょ、待っ――」


 私の静止も虚しく、ユダは再生ボタンを押した。


 静かな車内に、大音量で「あの声」が響き渡る。


 『アハハハハ! 最高じゃない! 私、今なら光より速く打てるわ!』


「…………ちょっ!」


 私はココアを吹き出しそうになった。


 なんだこの、アニメキャラがラリったような声は。


 まごうことなき、私の声だ。


 『さなださーん! そっちのケーブル、邪魔ぁー! どいてぇー!』


 『すまない結菜! 風化した建物から流れてきたようだ! 引っこ抜く!』


 『アハハハ! 真田さんウケるー! その声で引っこ抜くとか言わないでー!』


 車内に、さっきとは別の種類の沈黙が落ちる。

 ランナーズハイとヘリウムガスが生み出した、地獄のコント音声。


 さっきまで「命がどうこう」と真剣に話していたのが馬鹿らしくなるほどの、IQの低さだ。


「……ぷッ」


 ユダが肩を震わせ、吹き出した。


「ギャハハハハ! 傑作だ! 『すまない結菜!』 『引っこ抜く!』だとよ! さっきまであんなシリアスな顔してた奴らの声かよ、これが!」


「わ、笑うな!」


 真田さんも顔を真っ赤にして抗議するが、その声すらアヒル声に聞こえてくる。


「け、消して! 今すぐそのデータを消去しなさいユダ!!」


 私はユダに飛びかかった。


 これは「第1の鍵」よりも重要な機密情報だ。


 ここから流出したら、K-Worksの威厳は地に落ちる。


「おっと、あぶねえ。……安心しろ、バックアップは取ってある」


「取るなぁ!!」


 ひとしきり暴れた後、私たちは息を切らして座り込んだ。


 車内には、いつしか温かい空気が流れていた。


 ユダはダッシュボードから「一枚のガラス片」を取り出し、私に投げ渡した。


「ほらよ。命がけの戦利品だ」


 『第1の深海の鍵Deep_Sea_Key


 深海の圧力にも耐え抜いた、冷たいメモリチップ。


 私はそれを握りしめた。


 まだ、手の震えは止まらない。


 でも、一人じゃない。


 過去に傷を持ち、社会からはみ出し、それでも互いの命を預け合う仲間たちがいる。


「……飯にするか」


 ユダがエンジンをかけた。


「そうね…、先生に言って経費?で落としましょー!……今度こそ、死ぬほど食べてあげるんだから!」


「いいな結菜!俺もちょうどタンパク質が欲しかったところだ!」


 深夜。


 潮風と排気ガスの匂いが混じる港の路地裏。


 港湾地区・焼き鳥『けむり


 赤提灯が揺れる、古びた焼き鳥屋の暖簾を、場違いな三人組がくぐった。


「いらっしゃい……って、あぁ?」


 ねじり鉢巻の大将が、焼き台の手を止めてギョッとした顔をする。


 無理もない。


 場違いなスーツで決めている、なぜか清潔感がある不精髭。


 真冬の深夜にジャージ姿で筋肉隆々の男。


 そして、ビシッと決めた制服を着た女子高生。


 どう見ても、カタギの集団ではない。


「おいおい、うちは学生お断りだよ。それに、もう席も……」


 大将が追い払おうと手を振る。


 普通ならここで引き下がるところだ。


 だが、ユダは違った。


 彼はスッと大将に歩み寄ると、人懐っこい、それでいて相手の懐にスッと入り込むような「営業スマイル」を浮かべた。


「大将。……いい匂いさせてるねぇ」


「あ?」


「炭は紀州の備長炭か? タレの焦げる匂いに、ほんのりザラメの甘い香りが混じってる。……こりゃあ、港で一番の『本物』だ」


「……ッ!」


 大将の眉がピクリと動く。


 職人のこだわりを、一瞬で見抜かれたからだ。


「実はな、この姪っ子が……今日、デカい試験に合格してな」


 ユダは私の肩をポンと抱いた。姪っ子!?


「『一番美味い焼き鳥が食いたい』って言うから、俺の勘を信じてここに来たんだ。……どうだ大将。この子の祝いに、あんたの最高の串を食わせてやってくれないか?」


「……祝い、か」


 大将の視線が私に向く。


 私は咄嗟に「……おなかすきました」と小声で言った、本音である。


 ユダは畳み掛ける。


「席なら奥の座敷が空いてるだろ? 俺たちは騒がねえ。酒も料理も、あんたの『お任せ』で頼む。……プロの仕事を、見せてくれよ」


 殺し文句だ。


 「プロ」と言われて、断れる職人はいない。


「……へッ。口の上手い兄ちゃんだな」


 大将はニヤリと笑い、顎で奥をしゃくった。


「いいだろう。とびきりのを出してやるよ! 座敷使いな!」


「感謝するぜ、大将」


 ユダは涼しい顔でウインクし、私たちを奥へと促した。


 ただの「口八丁」で、頑固親父を陥落させたのだ。


(……すごい)


 私は、彼の背中を見つめた。


 普段は「死んだ目」をしているくせに、こういう時はスイッチが入ったように魅力的な男になる。


 「人たらし」これもソーシャル・エンジニアリングの1つなのだろう。


 私が彼を信頼しているのも、結局はこの「人間力」にハッキングされているからなのかもしれない。


「「「お疲れ様でしたー!!」」」


 乾杯の音が、煤けた店内に響く。


 ユダは生ビール。


 真田さんはプロテイン入りのシェイカー、は流石にマナー違反なので、珍しく生ビール。


 私は……コーラだ。


「ぷはぁーっ! 生き返るぅ……!」


 炭酸の刺激が、深海で萎縮していた胃袋をこじ開ける。


 目の前には、山盛りの焼き鳥。茶色い宝石の山だ。


「いただきまーす!」


 私はタレたっぷりのつくねにかぶりついた。美味い。泣けるほど美味い。


「大将! ササミを塩で! あとレバーも塩で! 脂身の少ない部位をあと20本追加だ!」


 真田さんは、もはや食事ではなく「補給」のペースで串を消化している。


「おい筋肉。タレも食えよ。店の味が分かんねえだろ」


 ユダは呆れながら、タレの皮をビールで流し込んだ。


 その時。


 ガララッ……と店の戸が再び開いた。


「……遅れました」


 入ってきたのは、作業着姿のヴォーロンだ。


 そして、その後ろからさらに二人の人物が現れた。


「やれやれ。こんな夜更けに脂っこいものを食べるとは……。成長ホルモンの分泌に悪影響だぞ」


 ため息をつきながら入ってきたのは、スーツ姿のモリアーティ先生。


 手には、なぜか胃薬の箱を持っている。


「あら、いい雰囲気じゃない。……でも、ちょっと煙たいわね。私の美肌が荒れちゃうわ」


 先生の影から、女優帽を目深に被ったサロメが顔を出した。


 場末の焼き鳥屋には似つかわしくない、濃厚な香水の香りが漂う。


「先生! サロメ!ヴォーロンも!来てくれたのね!」


 私は手を振った。


 K-Works、全員集合だ。



 狭い座敷には、空いた皿とジョッキが積み重なり、心地よい喧騒が満ちていた。


 私の正面では、なぜか「暑苦しい握手」が交わされていた。


「……メロスさん」


 作業着姿のヴォーロンが、真剣な眼差しで真田さんの手を握りしめている。


「先ほどのミッションログ、拝聴しました。……あなたは、自らの呼吸を止め、命を削ってまで、将軍マムの呼吸を確保したそうですね」


「ん? ああ。計算上、それが唯一の生存ルートだったからな」


 真田さんはササミをかじりながら、事もなげに答える。


 だが、ヴォーロンの肩が感動で震えた。


「素晴らしい……! スパシーバ……いや、それだけでは足りない」


 ヴォーロンは居住まいを正し、母国語の響きを込めて言った。


「貴公こそ、真の『守護者опекун』だ」


「アペ……なんだって?」


「私の故郷の言葉で『守護者』、あるいは『防衛の要』を意味します。……己の肺を潰してでも主君を生かすその覚悟、戦場でも中々お目にかかれません。感服いたしました」


「そうか? ……ふっ、分かってくれるか、北の空の男よ」


 真田さんも満更でもなさそうだ。


 元・兵士と、現役・アスリート。


 住む世界は違えど、「極限状態で体を張る」という点において、魂が共鳴したらしい。


「あなたの背中は……頼もしいです。いつか私も、あなたのような盾になりたい」


「ああ。次は空だろ? 期待しているぞ」


 ガシッ! と再び握手。


 背景に、シベリアの凍土と灼熱の太陽が同時に見えるようだ。


(……暑苦しいわね)


 私は苦笑した。


 でも、悪い気はしない。


 ヴォーロンの、あの絶望しきっていた顔が、今では生き生きとしているのだから。


 その隣では、サロメと先生が優雅に飲んでいる。


「あら、熱いわねぇあの二人。……先生、お酌しましょうか?」


「すまないね、サロメ君。……しかし君も、この店にその格好は浮いているぞ」


「ふふ、女優はいつだって舞台の上にいるのよ」


 そして、その横では。


「サロメ、俺にも注いでくれよ」


 ユダが、先生の猪口に自分のビールを当てている。


「おや、ユダ君。君も飲むのかね?」


「ええ。今日は……ちっとばかし、神経すり減らしたもんでね」


「違いない。君も苦労性だな」


「……フフッ、それじゃあ」


 カチン。


 「大人組」の三人組には、言葉にしなくても通じ合う労いの空気が流れている。


(……ふふっ)


 私は、その光景を眺めて、自然と口元が緩んだ。


 ここにいる全員が、社会のレールから外れた「はぐれ者」だ。


 最初は、利害の一致だけで集まったはずだった。


 でも、今は違う。


 彼らは、私がいなくても笑い合い、認め合い、盃を交わしている。


 ここは、私たちが唯一、仮面を脱いで呼吸ができる場所。


「……悪くないわね」


 私は小さく呟いた。


 この空気が、なんだかこそばゆくて、とても温かい。


 そんな私の視線に気づいたのか、ユダがニヤリと笑ってこちらを向いた。


「なんだ野菜畑。コーラ片手にニヤニヤして、気持ち悪いぞ」


「う、うるさいわね! 雰囲気に浸ってただけよ!」


「へっ、……そういやお前、コーラじゃ物足りなそうだな?」


 ユダが悪戯っぽい目を大将に向けた。


「大将、アレあるか? 『裏メニュー』のやつ」


 大将は「あー、アレね。あるよ」とニカっと笑い、奥から「琥珀色の液体が入ったグラス」を持ってきた。


 氷がカランと涼やかな音を立てる。見た目は完全に、お洒落なカクテルだ。


「これ……なに?」


「『スクリュー・ドライバー・改』だ」


 ユダがもっともらしく解説する。


「果汁を限界まで絞ってアルコール臭が全くしない。口当たりはジュースだが……度数はアレだぞ。飲めるか?」


 挑発的な視線。


 ここで「飲めない」とは言えない。私はK-Worksのリーダーなのだから。


「……バカにしないでよ。これくらい、余裕よ」


 私はグラスを受け取り、恐る恐る口をつけた。


 ……ん? 甘い。オレンジの香りが広がる。


「おいしい……!」


 私はグイッと一口飲んだ。


 すると――。


 カァァァァ……。


 胃の底から、熱いものがこみ上げてくる気がする。

 顔が熱い。視界がふわふわする。


 これが……お酒の力?


「……ふふ。なんか、楽しくなってきたかもぉ~」


 私の様子が一変した。


 ヴォーロンとメロスの熱い友情も、大人の会話も、全部どうでもよくなってきた。


 今あるのは、この高揚感だけ!


「ねえ聞いてよぉ~! 真田さんがさぁ~! 深海ですごい顔で息止めるのよぉ! バカじゃないのぉ!?」


 バンバン! と真田さんの肩を叩く。絡み酒だ。


「悪かったと言ってるだろう……」


 真田さんが小さくなっている。


「あとヴォーロンもぉ! あんたも大概よ!」


 私は矛先を変え、ヴォーロンを指差した。


「私がねぇ! あんたを日本に亡命させた時、言ったわよね!? 『新しい戸籍と一緒に、新しい名前を考えなさい』って!」


「……はい、覚えています」


 ヴォーロンが直立不動で答える。


「戦争のことは忘れて、平和な日本で新しい人生を歩んでほしいから……『ポチ』とか『タマ』みたいな、可愛いコードネームにしなさいって言ったのに!」


「それ採用しなくて正解だったな」とユダがボソッと呟く。


「なのにあんた! 『ヴォーロン』って!」


 私はテーブルに突っ伏して嘆いた。


「それ、あんたが向こうの軍隊にいた時の、『無人機部隊のコールサイン』そのままじゃない! 全っ然、戦争のこと忘れてないじゃない! 過去を背負いすぎなのよぉぉ!」


 ヴォーロンは、少しだけ目を伏せ、静かに答えた。


「……忘れるわけにはいきません」


「え?」


「戦場の記憶も、罪も、消えはしません。……それに、カラスは『死を見届ける鳥』であり、同時に『主のために戦場を俯瞰する目』です」


 彼は、真剣な眼差しで私を見た。


「私は、将軍マムの敵を排除するカラスでありたい。……この翼と名前は、あなたを守るためにあるのですから」


「…………」


 店内が静まり返る。


 重い。


 物理的にも精神的にも、愛が重すぎる。


「ううぅ……重いぃぃ……」


 私は泣き崩れた。


「私はただの女子高生なのにぃ……なんで周りがこんな戦闘狂ばっかりなのよぉ……」


「……ふぅ。もう飲めないぃ……」


 私はテーブルに突っ伏した。


 世界が回る。これが大人の階段か。


 その時。


 ユダが、私の耳元でボソッと言った。


「……おい、野菜畑」


「んぅ~? なぁに~?」


「いい飲みっぷりだったが……それ、ただのオレンジジュースだぞ」


「…………はい?」


 時が止まった。


 私の脳内から、アルコールと思い込んでいた物質が一瞬で揮発する。


 私はグラスを見た。


 オレンジ色の液体。氷。


 ……匂いを嗅ぐ。


 うん。100%果汁の、健康的なオレンジの香りだ。


「あ、あれ……? でも、熱いし、フワフワするし……」


「そりゃお前、暖房が効きすぎた部屋で、厚着してはしゃげば顔も赤くなるだろ」


 ユダが腹を抱えて笑い出した。


「ギャハハハハ! 『楽しくなってきたかもぉ~』だってよ! オレンジジュースで泥酔できるなんて、安上がりな女だなオイ!」


 サロメも口元を押さえて震えている。


 先生も「やれやれ」と苦笑している。


 サーッ……。


 私の顔から血の気が引いた。


 ……確かに、本当にお酒だったのなら先生が止めないはずがない。


 ユダも『スクリュー・ドライバー・改』とは言ってたけど、お酒とは一言もいっていない。


 度数はアレだがって言ってたけどそれってゼロって意味にも捉えられる。


 酔っていたんじゃない。


 ただの「オレンジジュースでテンションが上がって、勝手に恥ずかしい本音をぶちまけていただけの痛い女」だったのだ。


「う、うわあああああああ!!」


 私は頭を抱えて絶叫した。


 深海の録音データ以上の黒歴史が、今ここに爆誕した。


「忘れて! 今の全部忘れてぇぇぇ!!」


 私が暴れる中、ユダは涙を拭いながらタブレットを取り出した。


「無理だな。それより、さっき再生しそこねた『深海の録音データ』を聞かせてやろうか?」


「やめてぇぇぇぇ!!」


 こうして、K-Worksの夜は更けていく。


 私の尊厳は死んだが、チームの結束はより強固なものになった……はずだ。

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このハッカー、ネーミングセンス皆無につき。  ~都市伝説《K》の正体は、ミルクティーを愛する無自覚系女子高生~ R.D @r_d

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