マインスイーパな世界
ちびまるフォイ
半球の浮島
「大変です! 地面から地雷が湧き出ています!!」
カチッ。
そう報道したキャスターは数秒後に爆散した。
とても見せられない映像がお茶の間を凍りつかせる。
「じ……地雷だって……?」
家の窓をあけて外を見る。
あちらこちらで爆発音が響いていた。
道路は血と肉片がとびちった目を覆いたくなる惨状。
「だ、大丈夫。きっと偉い人がなんとかしてくれるさ」
持ち前のひきこもりスキルを駆使し、
なんとなる日を夢見て必死に布団にくるまった。
なお偉い人たちが白旗上げるも早かった。
「えーー……地雷撤去プロジェクトは永久に凍結いたします。
なぜなら。撤去したところで地雷は明日には復活するからです」
一度爆発した地雷はその時点では消えるが、
翌日にはまた元通り未発動地雷として湧き出てくるらしい。
畑の雑草よりも成長速度が早い。
屋内には地雷が発生しないので、
家に引きこもり続けていたものの食料がつきてそれも限界。
おそるおそる外へ出ることをよぎなくされた。
「ど、どこに地雷埋まってるんだ……」
一歩も進めない。
塀や電柱を伝っていくことも可能だが、
広い通りに入れば抜き身の地面を通らなくちゃならない。
地雷は目視不可能。
また地雷探知もできないというから厄介。
そのくせ人間のみを爆殺するので、
野良猫は涼しい顔で車の減った道路を快適に歩いていた。
「だめだ! 怖くて一歩も進めない!」
道路で立ち尽くしてたとき、遠くから声が聞こえる。
「おーーい! 君! そこを動くな!!」
誰かが手を振っている。
まるで観光ツアー客のようにたくさんの人を従えているのが見えた。
「誰だ……?」
こちらの反応を待たずに向かってくる。
しかもまっすぐに。
「あ! 危ないですよ!? 地雷が!!」
案の定、道路にある地雷を踏み抜いて爆発。
しかもそのまま直進してくる。
いくつもの人の命が犠牲になって、その人はやってきた。
「おい君。下手に動くのは危険だよ」
「いやこっちのセリフですよ!?
ここにたどり着くまでに何人死んだと!?」
「ああ、それは大丈夫。死刑囚だから」
「えっ」
「死刑囚をたくさん買って、地雷原を歩かせる。
爆発してもしなくても、彼らが通った道は安全になるだろう」
「だいぶ人道から外れてはいますけど……。
それより、どうして俺に声をかけたんですか?」
「ああそうだった。実はわたしはある浮島を目指していてね。
死刑囚じゃない人もこうしてチームに集めて行こうとしてるんだ」
「浮島……?」
男はまるで夢物語の話をするように語り始めた。
地雷は地面から毎日自然に生まれてくること。
ただ、自分の目指す"浮島"は周囲を海に浮かんでいて地雷がないこと。
「私はひとつでも多くの正しい人間の命を救いたい。
君も私と一緒に浮島にいかないか?」
「もちろんです!!」
断る理由などなかった。
それはまるで幻想郷への切符を渡されたような気持ちだった。
「それじゃ死刑囚くん。浮島までの道を歩きたまえ」
死刑囚や重犯罪者はうながされて先導を切って歩く。
地雷を踏み抜いて命を散らすが、途中からなにも感じなくなった。
いいから早く浮島にたどり着きたいという気持ちが勝つ。
しかし歩けど歩けど、海沿いまでたどり着いても浮島は見当たらない。
「おかしい……このあたりなのに……」
男は徐々に狼狽と焦りをにじませる。
「場所がちがうのでは?」
「無人島や人工島ではなく、浮島だから波の影響とかで動くんだ。
くそ。前にはこの場所にあったはずなのに」
「もうコレ以上は海沿いを歩けませんよ。
犯罪者の数ももう少ないし……」
道中には一般人を集めつつ、犯罪者も集めていった。
それでも道中の地雷で減っていくので犯罪者ストックも限界。
「おい!? あれじゃないか!?」
誰かが遠くを指差した。
波の流れで少しずつこちらに向かってくる。
半球状にも見える浮島のシルエットが近い。
「まちがいない! あれが地雷のない浮島だ!」
浮島に上陸済みの人たちが、こちらに気づいて手を振ってくれている。
このノアの方舟を逃す手はない。
浮島は少し遠くの港へと流された。
「浮島が陸まで近づいた! 早く乗り込むぞ!」
リーダーが言い放った。
しかし誰も動かない。
「もう前を歩かせる犯罪者がいないから歩けないよ!」
「はあ? 何言ってる? お前が歩けばいいだろう」
「え……?」
「そのために集めたんだから」
リーダーは銃を突きつけた。
「早く私の前を歩け。歩かなければ殺す。
躊躇しても殺す。振り向いたり抵抗しても殺す」
「そんな……!!」
自分たちは一緒に安全な場所で暮らすチームではなく、
ただ男の安全を確保するための人柱としての要員だった。
「いやだーー! ママーー!」
「お願いだ! 爆発しないでくれ!」
「南無三!!」
促された人が必死に浮島への道を進む。
だが次々に道中の地雷を踏み抜いて消えてゆく。
自分も神に祈って前進するしかなかった。
前の人が通った道をなぞって進む。
「ああどうか!! どうか爆発しないでくれ!!」
そのとき、すぐ前を歩く人が地雷を踏み抜いた。
強烈な爆風で体が浮き上がる。
「うわっ!?」
ふっとばされた体は浮島近くの海上へと放り出された。
神の加護だろうか。
「おおーーい!! こっちだ!!」
浮島の人たちがへりに向かって進み、浮き輪を投げてくれる。
浮き輪をつかむとロープで浮島へと引き寄せてくれた。
「た、助かった……」
波の流れがかわって浮島は陸から離れてゆく。
爆風に巻き込まれていなければたどり着くこともできなかった。
浮島までたぐり寄せてもらうが、そこで静止させられた。
「待った。あんた体重何キロ?」
「ど、どうしてそんなことを?」
「いいから答えろ!」
「な、70kgだけど……」
「じゃあダメだ!」
「なんで!? ここまで来たのに!!
ゴールはすぐそこなのに!!」
ロープを切られて海に投げ出される。
それでも必死におよいで浮島のはしっこを掴んだ。
「おい! なに勝手にっ……!」
「ここまで来たのにどうして上陸させてくれないんだ!」
「やめろ! 上陸するな!!!」
聞いてられるか。
かまわず浮島に体を乗せる。
すると静かに浮島の上の半球部分が沈む。
ゆっくりと、ゆっくりと沈んでから作動域まで到達してしまった。
カチッ。
嫌な音が聞こえる。
自然発生する地雷の上に、重なって地雷は出現しない。
この浮島だけ地雷がない理由がやっとわかった。
ここは浮島なんかじゃない。
ただ海に生まれた巨大な地雷の上で暮らしていたに過ぎない。
海上で大爆発が起きた。
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