佐伯さんは今日も綺麗

遠山ラムネ

佐伯さんは今日も綺麗

綺麗なお姉さんのことが好きになっちゃうのって、人間の男なんだからしゃあねぇ、て、思わん?


だってさぁ、綺麗なんだよ、なにしてても、綺麗なの。

バイトに現れた瞬間から、接客中も、バックヤードで作業中も、ぼんやり休憩してる時だって綺麗なの。


そんなのさぁ、不可抗力だって、思わん?

俺は思うね。

だから、俺が佐伯さんのこと好きになっちゃったのだって、俺の責任じゃねぇ、て思う。


俺は高2でカフェでバイトしてて、佐伯さんはバイト仲間。大学2年っていってた。年上。

バイトの先輩、というには先輩ではなくて、働き始めたのは、俺の方がちょっと早いくらい。


初めてシフトが被った時からやべぇって思ってたけど、時間が経つに連れどんどん気になっちゃって、今じゃもう誤魔化しようがない。誤魔化しようがないけど、だからってどうということもない。だってバイトにいる男連中、結構な割合で佐伯さんがたぶん好きだ。だって綺麗なんだもん。


シフトが被れば嬉しいし、笑いかけられたりするとドギマギしてしまう。そんな日々を、もう数ヶ月繰り返している。ただ、それ以上のことはない。

佐伯さんには現在進行形で彼氏がいて、大学4年って言ってた。

え、それっていくつなんだ…?22?とか?

俺といくつ離れてる?5才?

そんなのもう、遠すぎて実感もなにも湧かない。

悔しいとか、張り合いたいとか、そんなこと思いもよらない。ただ、あー、今日も佐伯さんは綺麗だなぁ、と、いつものように思うばかりだ。


「おはよう豊島くん、今日も混んでるねぇ!がんばろっね!」


夜シフトにやってきた佐伯さんに明るく声をかけられる。

スマイル0円でどこかで売ってそうな完璧な笑顔。

そっかー、そうだよなぁ、俺なんて、カウンター越しの客レベルで、佐伯さんの人生に影響なんかしないんだよな。


だけどシフトが被れば嬉しいし、声をかけられれば浮かれてしまう。

俺の恋心も気のせいではないし、ただ、行き着く先はないし、なんの価値もない。


なんてことを、チラチラ考えながら、佐伯さんは今日も綺麗だなぁって、その柔らかな髪と横顔を見ている。



Fin

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佐伯さんは今日も綺麗 遠山ラムネ @ramune_toyama

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