宇宙ステーション
大石たちが乗る宇宙船オーガは、惑星ゼオを出発して11日目、予定通り、目的のステーションに到着した。
惑星ゼオで大石が行った騒動が、ステーションに伝わるとしても、電波通信なら一年以上かかる。
緊急で伝えるならば、ハイパードライブの宇宙船で物理的に伝える必要があるが、通常はマーク3まで、緊急時でも、マーク4。
マーク5という非常識な速度でステーションに来る宇宙船は、まずなかった。
このため、宇宙船オーガは堂々とステーションに入港した。
今回の仕事を依頼してきたのは、星間輸送会社スタートランス社のマネージャーのマックじきじきである。
愛称マック、マッキンリーと大石は、古くからの付き合いだった。
元々はマックの方が若く後輩だったが、大石の亜光速での航行時間が長くなり、結果、現在はマックの方が年上になっていた。
そして、元は年上の先輩で、現在は年下の下請けになっている大石に、マックは色々と便宜を図ってくれていた。
そのマックが、直接、大石に今回の『2名をゼオ星系からの脱出』を依頼してきた。
大石は、この『脱出劇』がまともでないことは、薄々感じていたが、以前、ビデオで見たスパイ映画もどきの事が実際にできると、二つ返事で受けていた。
大石は、中華レストランに一人で向かった。
相棒のクオリスは、量子コンピューター上の存在。
その量子コンピューターは30cm程度の大きさの青紫の透明な結晶体であり、必要なら移動させることも可能であったが、ゼオ星系住民の無法ぶりを考え、宇宙船オーガの留守番を行うことになった。
中華レストランは、空港から10分程度の距離にある。
店構えは高級店。普通ならドレスコードが必要な高級店であるが、ここは、ゼオ星系の中継ステーション。
大石はパイロットスーツのままで入れた。
大石は、中華レストランで指示された通り、『豚骨ラーメンと焼き餃子』を頼んだ。
そのレストランで、密航者2人はコンタクトしてくることになっていた。
しかし、惑星ゼオでの仕事がいつ終わるか分からなかった為、毎日、決められた時間に指定された中華レストランに行き、『豚骨ラーメンと焼き餃子』を注文することになっていた。
そのレストランでの2日目の食事の時、ウエイターが声を掛けてきた。
「昨日も同じものでしたね。お好きなのですか?」
大石は、『好きじゃない。指示されたからだ』と答えたいのを我慢して、指示通りの答えを返した。
「日本食が好きなだけです」
ウエイターは笑顔で離れて行ったが、暫くすると、再び大石の席に来た。
「向こうにお座りのお二人からです。『水餃子も美味しいので召し上がってみて下さい』とのことです」
ウエイターが示した席には、中年の男性と少女が座っていた。
大石は二人に会釈して、食事を続けた。
彼は視界の隅に二人を捉えて、同時刻にレストランを出られる様に、食事を進めた。
しかし、二人の食事は遅い。
大石は、八割がた食事が終わっているのに、二人はまだ半分にも達していない。しかもコース料理の様子。
彼は、仕方なく、炒麺、いわゆる焼きそばを注文し、『こんな骨董まがいのスパイ映画の様なマネはしたくない』と思いながら、麺を一本ずつ食べ始めた。
その炒麺も、残り一割ぐらいのなった時、ウエイターが近づき耳打ちしてくれた。
「お二人は、あと数分で店を出られます。お二人が出られた後、1~2分してここを出て、ゆっくりと歩いて空港に向かって下さい。お二人は少し離れて、後ろを付いていくはずです」
大石は、頷きながらも、『これで、豚骨ラーメンと焼き餃子から解放される』と思い、二度とこんな仕事しないと固く誓った。
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