016 - おしごとをしよう! -

016 - おしごとをしよう! -


「あの・・・どうでしょうか?」


もっ・・・もっ・・・


「美味しいけどお婆さんの作ったのと比べると何か違う気がします」


「あぅ・・・」


「でも美味しかったですよ、お昼前にはお婆さんを連れて来ますね」


ティアさんが泣きそうだ、頑張って練習してるのを見ていたから気持ちは分かる・・・僕は朝食を兼ねたティアさんの作る料理の試食を終えて3階の部屋に戻った。


今食べた料理の食材はティアさんが買ってきたものだ、そのお金はリーシオから持ってきた僅かな貯金とミアさんがクソ野郎2人組の武器を売ったお金・・・。


「早くお婆さんに合格を貰わないとお金が尽きそうな気がするなぁ・・・」






この家を買って10日経った。


ティアさんはお婆さんと料理の練習、シアちゃんはお母さんのお手伝いをしつつロキくんと海で遊んでいるし、ミアさんはハンターギルドで石級ハンター向けに出されている依頼を地道に受けている。


みんなこの街での生活に慣れてきたようだ。


僕はというと3階の拠点でのんびりしながら今後の計画を立てているところだ、この建物には屋上があって晴れた日には椅子に座り海を眺めるのが日課になっている。


「まるで引退した年寄りね」


「ひどい!」


殆ど人間と見分けがつかないくらい実体化できるようになったロリーナが僕を見て呟いた。


「お仕事しなきゃとは思うけど、この世界に来て色々あったから数日くらいはのんびりしてもバチは当たらないかなって」


「バチ?当たる?、何それ」


ロリーナに意味が伝わらなかったようだ。


「僕の居た世界では怠けたり悪い事をしたら神様から罰が与えられるって考えがあるんだよ」


「なるほど、でもこの世界で罰を与えるのはあの駄女神よね」


「・・・それは何か嫌だ」


駄女神が笑顔で僕に罰を与える・・・想像しただけで腹が立ってきたぞ。


「仕事をするにしてもこの街の周辺には魔物が居ないから高ランクハンター向けの依頼はあまり無いわね」


ロリーナは銀級のハンターだ、魔力封じの枷のせいで毒竜に殺されかけたけれど万全の状態なら竜だって魔法で楽に倒せる。


「ロリーナは銀級だけど僕は登録したばかりだからまだ白石級だよ、黒石級のミアさんより下だから地道にランクを上げていこうかな」


「銀級の私が一緒なら高報酬の依頼が受けられるし昇級も早いわよ、白石級だと最初は街のゴミ拾いや下水掃除・・・苦労して依頼一つ終わらせても良くて銅貨一枚ね」


「えぇ・・・でもそれって僕のアイテムボックスを使えば一瞬で終わるよね、ゴミは不法投棄の谷に捨てればいいし、一度に10件依頼をこなせば銀貨1枚になるよ」


銀貨1枚はおよそ4万円だから日当としては悪くない。


「それをやると駆け出しハンター達の仕事が無くなって怒られるわよ」


受ける依頼一つでもハンター同士で調整しないといけないのか・・・同僚のハンターに恨まれても厄介だし予想してたより面倒だな。


「銀級の依頼だと危険な場所での薬草採集や魔物狩りだよね、どこまで行けばいいの?」


「ヴロックの西にエースという街があって、その街から南に馬車で1日くらいのところに魔物の居る森があったと思うわ、大物狙いならそこが一番近いわね」


「遠くない?」


「遠いわね、魔導列車で半日、そこから馬車で1日、森の奥まで行って野宿込みで狩りをした後戻って来るなら6日といったところね」








・・・


「それで、私はエースの街?から南下して森の中に入ればいいの?」


「うん、この街に来たのと同じ要領でお願いできますか、報酬は銀貨5枚で旅費として銀貨1枚を別に渡します」


僕とロリーナはアイテムボックスの中でミアさんとお話をしている、今日の夕方ミアさんは全身汚物まみれになって泣きながら家に帰ってきた。


下水掃除の依頼を受けて現地で作業していたら下水路に落ちたそうだ。


このままの状態で家に入れると臭くなるので僕は急遽アイテムボックスに収納して汚れを不法投棄の谷に捨てた。


綺麗になったミアさんを見て僕は閃いたのだ!、時間をかけてエースの森に行くのは面倒くさ・・・いや効率が悪いからミアさんにお小遣いを稼がせてあげようと。


「やる!、いつ出発すればいいの?」


予想通り報酬に食い付くミアさん、石級の依頼を受けて銀貨5枚稼ぐのは大変なのだ・・・ただ現地に行って帰るだけの楽なお仕事、ミアさんは道中で不幸を引き寄せそうだけど美味しい依頼なのは間違いない。


「いつでも都合のいい時でいいですよ、あ、2日おきくらいにお家に帰ります?」


こくこく・・・


ミアさんが頷いている、家には帰りたいようだ。




ミアさんが明日から出発すると言ってアイテムボックスから出た後、僕は屋上で椅子に座って夕陽を眺めている、頭上には2つの月が見え始めた・・・この世界には月が2つあるのだ!。


「平和だねー」


「リーナはこの街で100年くらいのんびり暮らしそうな気がするわ・・・」


僕の横で同じように椅子に座って海を眺めていたロリーナが呟いた、最近は短時間なら物に触れられるし椅子にも座れるようだ。


「100年経ったらミアさん達みんな死んじゃうよ!」


「そうね、私が最初に知り合った人間の若者達も今はみんなおじさんおばさんね、いずれ年老いて死んでしまうわ」


「それは寂しいかなぁ・・・」


「慣れるしかないわね」


「そうだねー・・・」










「ねぇロリーナ」


「何かしら」


「ミアさんって不運過ぎてそのうち死ぬんじゃないかな?」


「・・・」


ミアさんが隣街に出発する日の朝、僕とロリーナはアイテムボックスの中で画面を開きミアさんの様子を眺めている。


寝坊して路地を全力疾走するミアさん・・・狭い路地から大通りに飛び出し馬車に跳ね飛ばされるのを見て僕達は悲鳴をあげた。


幸い高性能な斥候服に守られて膝やお尻は無事だったけれど手のひらは酷く擦りむいている、馬車のおじさんに怒られて路地に座り込み泣いているミアさんのところに行きたいのに街の人達が見ているから無理だ。


しばらくして駅に着き裏にある井戸で血だらけの手を洗っている、周りに人が居なかったからミアさんのところに出て行き治癒してあげた。


「大丈夫です?、出発は明日にしますか?」


「ぐすっ・・・いえ、大丈夫です」


次の便で出発するとエースの街に着くのは夜になりそうだ。


「エースの街に着いたら人の居ない場所に行ってください、迎えに行きますから」


こくり・・・








「絡まれてるし!」


その日の夜、エースの街に着く時間になってミアさんの様子を確認すると酔った男に絡まれていた!。


慌ててロリーナと一緒にミアさんのところに助けに行く、ロリーナが男を魔法で眠らせ僕は泣いているミアさんの手を引いて狭い路地を抜け出した。


人の居ない場所に行く指示をしたのは僕だから罪悪感がすごい。


僕は路地の隅に「箱」を隠した後ミアさんとロリーナをアイテムボックスに入れてお家に帰った。







翌日になって昨日「箱」を隠した場所にミアさんを送り出す。


無事に馬車に乗り込み森の近くにある村へ向かうミアさんに話し掛ける10代後半くらいの女の子3人組が居た、音が聞こえないから表情と身体の動きで想像するしか無い・・・。


「一緒に依頼を受けようって誘われているんじゃないかしら」


僕の隣で様子を見ていたロリーナが呟く、確かにそんな感じだ。


「ミアさん挙動不審になってるよ」


ミアさんとは色々話をしたけれど友人については聞いた事がない、もしかしてコミュ障で友達が少ないタイプなのか?。








・・・


「その目はどうしたの?」


「毒竜のブレスを浴びて・・・」


「えー!、毒竜に襲われて生きてるなんてすごーい!」


「そんな・・・運が良かっただけで・・・」


・・・


「セリフをつけるの上手いわね」


ロリーナが感心したように呟く。


「でも違ってるかもしれないし」


「そう言ってるようにしか見えなかったわ!」


僕はミアさんの写った画面に向かって女の子達の会話をアフレコしている、一時期声優に興味を持った事があるから声を当てるのは得意なのだ。



一日中馬車に揺られてようやく森の近くにある村・・・ヴィエンの村に着いた。


規模は小さいけれど頑丈な外壁に守られた魔物の森に隣接する村だ、ロリーナによれば倒した魔物の肉や毛皮は痛みやすいのでこの村で買い取って貰うらしい。


村の中で肉や毛皮の保存加工をして街に出荷する、これがこの村の主な収入源になるようだ。


それとは別に傷んだり嵩張ったりしない魔石や牙、爪などはハンターが直接街に持ち帰りギルドで買い取って貰うのだ。


この村の宿泊所で料金を払い1泊する、もちろん宿としての設備は整っていてトイレやシャワーもあるし寝る為の毛布も貸してくれる。


「思ってたのと違う・・・」


僕は受付で毛布や入浴セットを借りてご機嫌なミアさんを眺めながら呟いた。


「え?」


僕の独り言が聞こえたのかロリーナが首を傾げる。


「魔物に怯えながら野宿したり焚き火をして一夜を過ごすのかと・・・」


「場所によってはそうなるわね、でも森の近くに村があればちゃんとした宿泊施設があるわよ」


僕はミアさんや女の子3人組のハンターが熟睡している真夜中、宿泊所に移動して建物の裏手に「箱」を隠した。






「一緒に森へ入るようだね」


「そうね、誘われていたみたいだから」


「どこかで森に出たいんだけどあの3人が居ると面倒だなぁ」


「そのうち一人になるわよ」







しょわわわぁ・・・ほかほかぁ・・・


しゅたっ!


「ひゃぁ!」


森の中で3人組から離れたところを見計らって僕とロリーナはミアさんの目の前に出た。


おしっこをしていたミアさんが驚いて尻餅をつく、かなりの量を撒き散らして服も濡れてしまったから涙目だ。


僕は森の中に「箱」を隠し、おしっこまみれになっているミアさんをアイテムボックスで綺麗にしてあげた。


「これで今回のお仕事は終わりだからこの後はミアさんの好きにしていいですよ」


話を聞くとあの女の子3人組も駆け出しのハンター・・・をようやく卒業して鉄級に上がったばかりらしい。


昇格で森の中に入る許可が出たから仲良しの3人で初の魔物狩りに挑むようだ。


剣士1人と魔導士2人のパーティで前衛の攻撃力が薄く、斥候のミアさんが誘われたのだ。


「じゃぁエースの街に戻ったら迎えに行きますから」


そう言って別れようとした時・・・


「おーい、ミア、えらく長いけど大きい方か?」


がさがさっ・・・


草をかき分けて腰に剣を差した女の子が顔を出した。









アイテムボックス(0)(駄女神管理)

金貨:沢山

食料:沢山


アイテムボックス(1)

リーナが作った部屋:1

中二病くさい剣:1

下着:2組

ミアさんの家から貰ったソファ:1

斥候服(ロリーナとネリーザ用):2


アイテムボックス(2)

リーナのう⚪︎こ:少量

ゴミ:少量


アイテムボックス「箱」

1:メルト帝国、大森林(不法投棄用)

2:ミアさんに貸出し

3:メルト帝国、大森林の野営広場

4:メルト帝国リーシオの街、ミアさんの部屋

5:メルト帝国ズィーレキの街、路地裏

6:メルト帝国シリィの街、駅の近くの路地

7:ヴェンザ帝国ヴロックの街 拠点「マリアンヌの食堂」3階

8:ヴェンザ帝国ヴロックの街 お婆さんの部屋

9:ヴェンザ帝国エースの街 路地裏

10:ヴェンザ帝国ヴィエンの村 宿泊所裏口

11:ヴェンザ帝国 エースの森







近況ノートにイラストを投稿しています。


https://kakuyomu.jp/users/hkh/news/822139842175943869

ヴロックの街(周辺地図)


https://kakuyomu.jp/users/hkh/news/822139842175972040

ヴロックの街(詳細地図)

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ロリーナ・ボーンアゲイン!〜異世界に転生したら褐色ロリエルフになりましたぁ!〜 柚亜紫翼 @hkh

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