012 - おうちをかおう-

012 - おうちをかおう-



くぅぅ・・・


きゅるきゅる・・・


「あぅ・・・」


周りに漂う美味しそうな香りに誘われてミアさんのお腹が何度も豪快に鳴っている。


「どこかで食事しましょうか」


こくり・・・


僕の言葉にミアさんは顔を赤くして頷いた。


「肉料理の看板が出てるこのお店がいいかなぁ」


僕はまだ食事ができないロリーナをアイテムボックスに入れてミアさんと一緒に可愛い外観のレストランに入った。


「いらっしゃい・・・」


カウンターの中にはお店の見た目と一致しない筋肉モリモリマッチョなおじさんが居た!、目つきは鋭く黒髪をオールバックにしているイケおじだ。


「ミアさん何食べます?、もちろん僕の奢りだけど」


僕はメニューを眺めているミアさんに尋ねた。


「私はこのお肉の香草焼きが食べたいな・・・」


「じゃぁ僕も同じもの、それから野菜のスープも付けます?」


こくり・・・


ミアさんが頷いた、スープも欲しいようだ。


「すみませーん!」


どすどす・・・


お店の奥に居る給仕の女の子が注文をとりに来るのかと思ったらマッチョおじさんが僕達のテーブルにやって来た!。


「お決まりですか?」


地を這うような重くて渋い声が店内に響く・・・。


「このお肉の香草焼き2つと、野菜のスープを2つお願いします」


注文に頷き、チラリと僕の腕に嵌められている枷を見た後、おじさんはカウンターの奥に入って行った。


やはりこの枷は印象が悪いようだ、でも昨日の夜、魔力に慣れる為に外したらお漏らしをしてしまったからまだ時間がかかりそう・・・。


「ミアさん、ここまで大変だったけどお疲れ様でした、僕が依頼したお仕事はこれで終わりです、お食事の後宿に戻ったら報酬を渡して左目の治癒をしますから・・・」


「あの・・・ごめんなさい、私・・・迷惑ばかりかけてたよね」


「そんな事は・・・ちょっとだけあるけど気にしてませんから」


「生まれて初めて他の国に旅ができて楽しかった・・・です、できれば2日ほど滞在させて貰ってこの街を散策したいな・・・」


「もちろんいいですよ、またお仕事をお願いする事もあると思うので預けておいた「箱」はそのまま持っていて下さい」


ミアさんと話しながら僕は店内を見渡した、お客は僕達の他に5人、お昼をかなり過ぎている微妙な時間なのに結構繁盛している。


落ち着いた色の壁紙、可愛らしいテーブルと椅子、清潔なテーブルクロス、窓のところには小動物のぬいぐるみが沢山置いてある・・・とても居心地がいいお店だ、あのおじさんの趣味かな?。


・・・


じゅぅぅぅ・・・


どすどす・・・


「お待たせしました、熱いので気をつけて下さい・・・スープもすぐにお持ちします」


かたっ


焼きたてのお肉をマッチョおじさんがテーブルに運んできた、給仕の子は・・・カウンターの奥を見ると椅子に座って暇そうにしている・・・。


どすどす・・・




どすどす・・・


かたっ


「当店のおすすめ、野菜と香辛料のスープです・・・ではごゆっくり」


どすどす・・・


マッスルおじさんが躍動する上腕二頭筋を軋ませながらカウンターの奥に戻って行った、スープをテーブルに置く時におじさんの胸筋・・・乳首がピクピクってなったけど僕は見なかった事にする・・・。


「いただきます・・・」


僕はテーブルに置いてあるナイフとフォークを手に取り食べ始めた。


お肉は柔らかい、牛肉に近いけれど少し野生的な味だ・・・臭みを消す為の香草も僕好みでソースに使われているレモンっぽい柑橘の果汁が食欲をそそる。


「美味しい!」


ミアさんも気に入ったようで夢中でお肉を貪っている。


スープもこのお店のおすすめだけあってとても美味しい、大き目に切られた根菜、謎のキノコとネギっぽい香味野菜が入っていて唐辛子のような辛さもある。


・・・このお店は大当たりだ、近くに住む事になれば毎日通いたい。


僕が食べ終わってもミアさんはまだスープと格闘している、どうやら熱いものが苦手でよく冷まさないと食べられないようだ。


・・・


「そういえばミアさんは妹さんとお母さんの3人暮らしですよね、他に姉妹が居たりします?」


プライベートな事を聞くのは控えたかったのだけど、僕は前からどうしても気になっている事があった。


ミアさんの顔、目の色、赤い髪には見覚えがある、これはとても嫌な答えが返ってくるかもしれない質問だ・・・。


「父親はハンターでシアが生まれてすぐに亡くなったの、私とシアの間にもう一人リアという妹がいたのだけど・・・ある日突然居なくなって・・・近所の人の話だと2人組の男に連れて行かれたって・・・」


僕は駄女神が光の粒にした赤髪の女の子の姿を思い出す・・・年齢的にはミアさんとシアちゃんのちょうど中間くらいだった・・・。


「街の衛兵さんに探して貰えるように頼んだし、私やお母さんも探したけど結局見つからなかったの・・・」


「・・・」


「どうしたの?」


「・・・いえ、なんでもないですよ」


僕はこの世界に来る前に起きた事をお墓まで持って行く事にした・・・。





「鉄貨8枚になります」


威圧感のある低い声でマッチョおじさんが食事代金を僕に告げる、カウンターの奥を見ると給仕の子が居眠りをしていた。


「はい、鉄貨8枚・・・美味しかったです!」


「ありがとうございます、またのご利用をお待ちしております」


2人分の美味しいお肉とスープ、新鮮なサラダが付いて3200円・・・高過ぎず安過ぎない絶妙な値段だ、やはりこの店は大当たりかも。


「美味しかったですねー」


本当にこの店のお肉は美味しかったし量も結構あったから大満足だ。


「うん、お腹いっぱい」


ミアさんにも気に入って貰えたようだ。


僕達は大通りから一本脇に逸れた路地・・・今食事をしたレストランのある通りを歩いている、ここは道の両側に何軒も飲食店が並んでいる賑やかなところだ。


通りを更にに奥へ進むと人通りが少なくなってきた、まだ飲食店が所々にあるけれどこの先には何も無さそうだから引き返そうか・・・そう思っていた時、僕はある建物に気付いた。


3階建ての小さなお店、1階が食堂になっていてまだ営業しているようだ、でも店先には大きく売家の文字が書かれていた。


吸い寄せられるようにお店に近付き、中を覗くと椅子に座っているお婆さんと目が合った。


「いらっしゃい、食事かい?」


お婆さんが僕に声をかける。


「いえ、表に売家の文字が書かれていたので・・・」


このお婆さんの名前はマリアンヌさん・・・50年ほど前、旦那さんとこの場所にお店を開いたそうだ。


10年前に旦那さんが亡くなりそれでも常連客の為にお店を続けていた・・・でも一人で店を切り盛りするのは重労働で先日腰を悪くした事で閉店を決意、近くに住む息子夫婦のところへ引っ越すらしい。


「いくらで売る予定ですか?」


僕の質問にお婆さんが答える・・・。


「土地と建物は私の名義だから、その権利を全部譲るなら金貨50枚かねぇ・・・」


2000万円か・・・


「でも私の味を引き継いでこの場所でお店を続けて貰えるなら金貨40枚でいいよ」


400万円割引の1600万円、確かにお得だけど僕やロリーナは寝泊まり出来る拠点が欲しいだけでお店を続ける予定はない。


「僕はハンターなのでお店は続けられないのですが建物は買いたいです、詳しい話はまた明日相談させて貰っていいですか?」


僕の答えにお婆さんは一瞬寂しそうな顔をして・・・。


「いいよ、この家を買ってくれるなら大歓迎さ・・・明日のお昼にお腹を空かせてここにおいで、美味しいものを食べさせてあげよう」









「・・・という事があって、拠点にできそうな物件を見つけたよ」


「リーナがいいと思うのなら私は構わないわ」


宿に戻って僕の話を聞いたロリーナが答えた。


ミアさんはこの街をもっと見て歩きたいようでしばらく僕達と行動を共にする事になった、今泊まっている宿もミアさんが借りているから都合がいい。


「その前に、ミアさんに報酬を渡して左目の治癒を・・・」


「あの・・・左目を治すのは借金を全額返してからにして欲しいの」


ミアさんがおかしな事を言い出した。


「え・・・でも片目だと不便ですよね」


「私は貧乏だし、借金を踏み倒すかもしれない・・・でも返済が終わると左目が治るのならそれを目標に頑張ろうかなって」


ミアさんの借金は金貨3枚・・・120万円程度だ、正直踏み倒されても痛くないし片目を代償にするには少な過ぎる金額だ。


それにこの街での滞在が終わって実家に送り返したら二度とミアさんには会わないかもしれない。


「えーと、先に今回の報酬、金貨2枚を渡します」


ちゃりっ・・・


僕はミアさんに金貨を渡した・・・1枚は約束の報酬、もう1枚は旅費などの必要経費だ。


「ありがとうございます・・・」


「さて、今日はもう寝ようか、明日はお昼前にお婆さんのお店に行こう」


僕はロリーナにそう言ってアイテムボックスに入る・・・。


この宿は今までのような安宿ではなく普通の観光客や家族連れが利用するようなところだ、値段は今までの4倍するけれど鍵はしっかりしているし受付の人の対応も丁寧だった。


でも最初に借りた宿の印象が悪過ぎて僕はこの世界の宿屋が信用できず、アイテムボックスで寝ると強く主張したのだ。








・・・


「来たかい、そこに座りな」


僕達は約束通りお婆さんのお店を訪ねた、ロリーナは食事ができないからアイテムボックスの中に入っている。


僕とミアさんはお婆さんの指示通りカウンターに並んで座った。


「じゃぁ料理を用意しようかね」


そう言って奥の厨房へ向かうお婆さん・・・腰に手を当てて痛そうだ。


お店の中は4人掛けのテーブルが6組と5人が並んで座れるカウンターがあった、テーブルは5つ埋まっていてカウンターは僕達の他に2人座っている・・・ほぼ満席と言っていい。


「普段ならもっと空いてるんだがね、店を閉めるって聞いた常連さんが押し掛けて来てるんだ」


そう言ってお婆さんは僕の目の前に焼いた鶏肉?にソースをかけたものとパンを置いて行った、パンには切り込みが入っていてこれに肉を挟んで食べるようだ。


周りを見ると鶏肉だったり牛肉っぽかったり、あるいは野菜を炒めたものだったり・・・みんなお皿に乗った具材を自分でパンに挟んで食べている・・・中にはお皿に残ったソースをパンに付けて食べている人もいた。


僕達も真似をして一口食べてみた。


柔らかくて香ばしいお肉と甘辛いソースが絶妙に合っていて美味しい、パンは中がふわふわで外はカリッとしている。


これは凄く美味しい!。


隣を見るとミアさんが夢中でパンにかぶりついている。


食べ終わってお金を払おうとするとお婆さんは要らないと言う、他の常連さんからも取っていないようだ。


「今日のお昼で店じまいさ・・・最終日は今まで来てくれた常連さんへの礼として無料にしたんだよ」


そう言いながらお店の中を見渡すお婆さんの表情は寂しそうだ。


街にお昼ちょうどを知らせる鐘が鳴り響く頃には最後のお客が店を出て行った、この初老の男性はまだ幼かった頃からの常連さんらしい。


また再開する予定はあるのかと尋ねる常連客に「分からないねぇ」と答えるお婆さん・・・。





「さて、店を売る話をしようじゃないか」


店の戸締りを終えてお婆さんは僕達の目の前にある椅子に腰掛けた。


「その前に少しいいですか?」


僕はお婆さんに近付き、腰に手を翳して治癒のスキルを発動させた。


ぱあっ!


「うわ眩しっ!」


思わず目を瞑るお婆さんに僕は言った。


「腰の調子はどうですか?」


「おや、痛くなくなったねぇ・・・」


「これでしばらくお店を続けられますよ、売るのはやめますか?」


「お前さんが直してくれたのかい?、凄いねぇ・・・でもその力はあまり人に使うんじゃないよ、特に貴族どもに知られたら面倒な事になるからね」


とても真剣な表情で僕に助言してくれた、このお婆さんは良い人だ。


「分かってます」


「腰は確かに痛くなくなった・・・だが私も歳だ、店を続ける気力も体力も尽きちまったからねぇ・・・やはり売る事にするよ、これからは息子や孫達に美味いものを食わせてやるさ」


お婆さんと話し合った結果、お店は僕に売ってくれる事になった。








アイテムボックス(0)(駄女神管理)

金貨:沢山

食料:沢山


アイテムボックス(1)

リーナが作った部屋:1

中二病くさい剣:1

下着:2組

ミアさんの家から貰ったソファ:1

剣士と魔法使いの服、剣、財布:1

強盗の服、財布:1

ミアさんが買った防具、短刀:1

ミアさんが着ていた服、靴:1

斥候服(ロリーナとネリーザ用):2


アイテムボックス(2)

リーナのう⚪︎こ:少量

ゴミ:少量


アイテムボックス「箱」

1:メルト帝国、大森林(不法投棄用)

2:ミアさんに貸出し

3:メルト帝国、大森林の野営広場

4:メルト帝国リーシオの街、ミアさんの部屋

5:メルト帝国ズィーレキの街、路地裏

6:メルト帝国シリィの街、駅の近くの路地

(仮置):ヴェンザ帝国ヴロックの街、宿の部屋

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る