006 - きんかをもちにげされた! -

006 - きんかをもちにげされた! -


・・・


「よく平然とあんな嘘がつけるね・・・」


「脅しておかないと裏切るかもしれないわ」


「それはそうだけど・・・」


「リーナは甘いのよ、甘々のお人好しだわ!、そんなんじゃ悪い奴に騙されて私みたいに奴隷にされるわよ」


「・・・やっぱり奴隷だったんだ!」


「ど・・・奴隷じゃないわっ!ちょっと言い間違えただけよ!」


ミアさんを見送った後、僕達はアイテムボックスの中で話をしている。


ロリーナがミアさんを脅した・・・裏切ると治癒が無効になるというのは嘘だ、いくら「治癒(神)」のスキルでもそこまで万能じゃない。


目を瞑って集中するとミアさんが持っている「箱」の周りの景色が頭に映し出された、駆け出しとはいえ斥候なだけあって走るのが速い、森の景色が目まぐるしく移り変わってる。


「森の出口まで普通に歩けば1日半、斥候の足なら1日といったところかしら、適当なところでミアに持たせた「箱」を使って移動しましょう」


ミアさんに渡した「箱」もロリーナの提案だ、彼女を監視できるし森の入り口付近で僕達が「箱」から外に出れば森を歩かないで移動できる・・・ちょっとした転移能力みたいに使えるのだ。


「でもあの格好で街に入るの勇気あるなぁ」


そう、ミアさんは毒竜のブレスを右半身に浴びていて服がボロボロだ、辛うじて胸や腰の防具と服の一部が残っている状態でほぼ半裸・・・お尻なんて丸出しだった。


「身体が腐り落ちて死ぬって言われたら恥ずかしいなんて言ってられないわよ」


脅した張本人のロリーナが他人事みたいに言う。










・・・


「景色が止まってるね、まだ眠ってるみたい」


あれから1日が経ち今は空が薄明るくなっているから夜明け前だろう、僕は目を瞑りミアさんの様子を「箱」から眺める。


「じゃぁ「箱」から外に出ましょうか」


「うん」


すたっ・・・


「箱」から出てまず目に入ったのは焚き火の跡、ロリーナの話だと弱い魔物は火を恐れて寄り付かないのだとか。


その横には大きな木を背にして熟睡しているミアさんが居る。


「疲れているとはいえ無防備過ぎるわ、私達の気配に気付かないなんて斥候としては失格ね(ぼそっ)」


ロリーナが呆れたように小声で呟いた。






僕達はミアさんから少し離れたところに移動する、ロリーナの話だとここは森の入り口から歩いて1刻・・・1時間ほどの場所らしい。


この辺りには凶暴な魔物は殆ど居ないとの事なので外に出て魔法と剣の練習をする事にした。


・・・


・・・


「魔法はいい感じに使えるようになってきたから次は剣ね、これが身体強化の魔法陣よ」


ぱぁっ!


「やってみるね・・・」


ぱぁっ!


僕はロリーナに見せて貰った魔法陣を真似してやってみる、同じものをすぐに起動できるのはロリーナの身体が魔法の使い方を覚えているのと「魔法が上手(神)」のスキルのおかげだと思う。


白銀の魔法陣が僕の身体を上から下に通り抜けた。


「力が漲ってきたよ!」


エ⚪︎ドリ5本を一気飲みした(やった事ないけど!)ような感じで身体が熱くなって心臓がドキドキする、これが身体強化?。


「この状態で剣を振ってみて」


ずずっ・・・


すらりっ・・・


ロリーナに促されて僕は背後の何もない空間に手を突っ込み剣を引き抜く・・・アニメや映画の主人公みたいだ、全裸じゃなければ凄くかっこいい!。


ぶぉん!・・・ぶぉん!・・・


剣を両手で握り軽く振ると刃が空気を切り裂く音が鳴った・・・。


身体強化しているからか重そうな大剣がプラスチックで出来ているみたいに軽い、剣の扱いもロリーナの身体が覚えていてすぐにでも戦えそうだ。


「身体強化を最大にしてこの木を斬ってみて」


ぱぁっ!


言われた通り身体に最大の強化をかけると白銀の魔法陣が金色に輝いた。


ひゅん!・・・


しゅぱっ!・・・ずしゃぁぁ!


木に向かって剣を振り抜くと何の抵抗もなく斬れてしまった、硬い木でこれだから人や魔物も簡単に斬り伏せられるだろう・・・僕に生き物を殺す度胸があればの話だけど・・・。


「ひゃぁぁ!・・・もうお日様があんなに高くなってるぅ!、寝過ごしたぁぁ!」


木が倒れる音で目が覚めたらしいミアさんが遠くで叫んでいる、まだ寝てたんだ・・・。


・・・


ひゅっ!・・・しゅっ!・・・


ロリーナに教わりながら剣の扱いを練習しているといつの間にか日が傾いていた、お腹も空いたし今日はこの辺でやめておこう・・・。


・・・








もっもっ・・・


しゃくしゃく・・・


「美味しい・・・」


お腹が空いたからアイテムボックスの中に入り駄女神がくれた果物やパンを齧る、見慣れない調味料もあったけれどロリーナによるとこの世界で売られているものらしい。


「前にも聞いたけど本当にロリーナはお腹空かないの?」


また少し身体の色が濃くなったロリーナに尋ねた、この世界に来てからロリーナは何も口にしていないのだ。


「実体化すれば食べる事が出来るって長老達が言っていたわ、でも基本的に精霊は空気中の魔素を取り込んで生きているから食事を摂らなくても大丈夫みたいね」


目を瞑りアイテムボックスの外の様子を伺うと既に日は落ちている、ここはミアさんが野営をしていた場所だ、広場になっていて他のハンターも時々利用するらしい。


今も夜なのに黒いフード付きローブを着た女性が魔法で道を照らし、その後ろを剣士やライフル銃?みたいな武器を持った人達が森の奥に入って行った、これからハンターのお仕事に向かうのだろう。


「お昼過ぎにここを出発したのならもうすぐ街に着きそうね」


ロリーナにそう言われて僕はミアさんの「箱」に視界を切り替える・・・。


「ちょうど街に入るところみたい、音は聞こえないから何を言っているのか分からないけど、恥ずかしそうにお尻を隠しながら身分証を出してる・・・門番?のおじさんが凄い顔して見てるね」


「あの格好は確かに恥ずかしいと思うわ、知り合いに会わない事を祈るしか無いわね」


「あ、おじさんに頭を下げてローブを借りてる」


「チッ・・・」


何故かロリーナは残念そうだ・・・本当にいい性格してるな。







ミアさんが街に入ってからも僕は「箱」から監視を続けている、初めて見る異世界の街並みは眺めているだけでも楽しい。


夜でも多くのお店が開いていて暖かな光が石畳の道に漏れていた、建物は石やレンガ造りで外壁は白で統一されている、街灯もあるしこの世界の文明レベルは中世ヨーロッパより発展している。


「ミアさんがお家に着いた、あまり裕福そうな感じじゃないね」


街の大通りを抜けて裏道に入り、細い路地をいくつも曲がったところにミアさんのお家があった、賑やかな表通りと違って薄暗く周囲には貧しい人たちが住んでいるようだ。


母親と思われる優しそうな女性に抱きつかれて身体を心配されている・・・。


「わぁ・・・僕の金貨を母親?に渡しちゃったよ!」


「あの女・・・裏切ったわね」


冷ややかな声が聞こえたから目を開けてロリーナを見ると表情が抜け落ちていて怖い!、僕は見なかった事にして再び目を閉じた。


「母親と・・・妹さんかな、一緒に夕食を食べてる・・・閉じたままの左目を心配されてるようだね」


「・・・」


・・・


「水場で身体を洗ってる、この世界ってシャワー無いの?」


「・・・」


・・・


「自分のお部屋?で手紙を書いてるよ・・・これって家族に宛てた遺書だ!」


駄女神はこの世界の文字も読めるようにしてくれたようだ、ミアさんが泣きながら書いている文字が何故か読めた。


「・・・」


「・・・僕の「箱」を机の上に置いて出て行っちゃった」


「箱」から離れた場所は見えないからこれ以上ミアさんの行動を覗き見る事が出来なくなった。


「・・・」


「ねぇ、ロリーナ」


「・・・」


僕はさっきから黙っているロリーナに声をかけた。


「ミアさんに裏切られちゃったね」


「何を呑気に笑ってるの!、金貨を持ち逃げされたんだから怒りなさいよ!」


「そうだねー、確かに裏切られたのは悲しいけどミアさんは自分の命より金貨・・・治療費を優先したんだよ、妹さんが余程大切なんだと思う」


「そんな甘々な事を言っているとこれからもっと悪い奴等に騙されるわよ」


・・・






・・・


しゅたっ!


「ここがミアさんのお部屋かぁ」


僕はミアさんの机に置いてある「箱」から外に出た、木のベッドに簡素な家具、壁に吊るされている私服・・・あまり女の子らしくない部屋だ。


もう一つ「箱」を出してこの部屋の隅に隠蔽する、何かあった時に街に戻れるようにしておきたいからだ、ここに来る前には森の中の野営広場にも一つ隠しておいた。


ちなみにロリーナはアイテムボックスの中でまだ怒っている。


ぎぃっ・・・


ドアを開けて廊下に出ると隣のお部屋から声が聞こえてきた。


「お姉ちゃんごめんね、私のために怪我を・・・」


「こんな怪我なんてすぐに治るよ、それよりシアは今日も熱が出たってお母さんから聞いたけど大丈夫?」


「うん・・・今日は久しぶりにお姉ちゃんが一緒に寝てくれるから嬉しいな」


「・・・いい加減お姉ちゃん離れしなさい、いつまでも一緒に居られる訳じゃないんだから」


「え・・・お姉ちゃんどこか行っちゃうの?居なくなっちゃ嫌ぁ!」


「・・・私は・・・どこにも行かないよ・・・」


「お姉ちゃん、どうして泣いてるの?、傷が痛むの?」


・・・


・・・


「わぁ・・・」


扉の前で2人の会話を聞いてしまった僕は思わず呟く、こんなの聞かされてどうしろと・・・。


・・・


・・・


しばらく廊下で立っていると部屋から寝息が聞こえてきた・・・。


ぎぃ・・・


月明かりに照らされた妹さんの部屋も質素で物が少ない、でも机の上には小さな木の実や綺麗な石が大切に飾ってある、お姉ちゃんが森から拾って来たのかな?。


仲良くベッドで眠っているミアさんと、ミアさんをそのまま小さくしたような妹さんを見て僕は悩むのをやめた。


「またロリーナに怒られそうだ・・・」


ぱぁっ!


・・・


・・・


ごろごろっ!


「あぅ、痛い!・・・ここはどこ?、私、シアと一緒に眠って・・・」


「こんばんは」


僕はアイテムボックスに収納したミアさんに声をかけた。


「ひぃぃぃやぁぁぁ!」


「そんな化け物を見るような目で見ないでくれる?」


ロリーナが僕の後ろからミアさんを睨む、とても怒っているようだ。


「貴方に服を買って来るようにお願いしていたのだけど気が変わったの、預けていた金貨を返してくれる?(ニコッ)」


相変わらずロリーナは容赦無いな・・・。


フルフル・・・


「どうしたの?、買って来なくていいから金貨を返せって言ってるの!」


「あぅ・・・ぐしゅっ・・・ひっく・・・」


「ロリーナ、もういいよ・・・」


ミアさんが泣き出したところで僕はロリーナを止めた。


ちゃりっ・・・


ミアさんに金貨2枚を手渡す、それからミアさんの机の上にあった「箱」を消してもう一度彼女の前に差し出した。


「え・・・」


「悪いと思ったけどずっとミアさんを監視してました、金貨をお母さんに渡してたよね」


「あ・・・ごめんなさ・・・」


「先に渡した金貨は「貸し」にしておきます、この金貨一枚で僕の服を買って来てください、それともう一枚の金貨でミアさんを雇います」


「雇う?・・・」


「この「箱」を隣の国まで運んで下さい」


そう言って僕はロリーナを見る・・・僕の意図を察したのかロリーナがミアさんに話しかけた。


「リーシオの南にあるズィーレキの街からヴェンザ帝国行きの魔導列車が出ているわ、それに乗って国境を越えなさい、旅費は金貨一枚あれば足りるでしょ」


「旅費も必要だったね、はい金貨もう一枚・・・」


「だ・か・ら!、何で先に金貨を渡すのよ、また持ち逃げされたらどうするの!、ヴェンザ帝国に着いた後で払えばいいでしょ!」


3枚目の金貨をミアさんに渡そうとしたらロリーナに怒られた。


「いや、足りなくなったら困ると思って」













アイテムボックス(0)(駄女神管理)

金貨:沢山

食料:沢山


アイテムボックス(1)

リーナが作った部屋:1

中二病くさい剣:1


アイテムボックス(2)

リーナのう⚪︎こ:少量

ゴミ:少量


アイテムボックス「箱」

1:メルト帝国、大森林(不法投棄用)

2:ミアさんに貸出し

3:メルト帝国、大森林の野営広場

4:メルト帝国リーシオの街、ミアさんの部屋

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ロリーナ・ボーンアゲイン!〜異世界に転生したら褐色ロリエルフになりましたぁ!〜 柚亜紫翼 @hkh

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