第12話 塔の正位置「災い」





明け方。

火事で黒く焦げたアパート。

ミドリが懐中電灯を片手に、部屋の中を探索する。


ミドリ「カード……。残ってないよな……」


真っ黒な室内。

焦げて、消火で撒かれた水に濡れている。

焼けたベッド、机は炭になっている。


ミドリ「……」


部屋から出る。


ミドリ「ちくしょ……。カードを持ってかれちまった……。あー、くそ……、人の願いまで奪っておいて、アタシは何してんだよ……」






スミのクラス。


スミ「おはよ」


女子生徒「おはよう、スミ」


女子生徒「おはよー。聞いた?」


スミ「え……。なんの話?」


女子生徒「ゲーセンに続いて、コンビニでも強盗だって、最近多いよね~」


スミ「あ、えっと、ごめん、後でもいい?」


女子生徒「おっけーおっけー。でね、それでさ~」




ミドリの席を見る。

机に突っ伏している。


スミ「西野さん……」


ミドリ「……」


スミ「……ごめん。なんでもない」


ミドリ「なあ、スミ」


突っ伏したままでミドリの顔は見えない。


スミ「……なに?」


ミドリ「スミのカード、アタシにくれない?」


ビクっとする。


ミドリ「アタシの願いごと、また遠くなった」


スミ「……うん」


ミドリ「スミも願い事してんの?」


スミ「……してる」


ミドリ「どんな?」


スミ「アサコ……。入院してる友達が、目を覚ますこと」


ミドリ「そっか……」


スミ「ごめん……」


ミドリ「じゃあさ……。お前らの同盟、アタシも入れてよ」


ミドリの顔は見えない。


スミ「……。放課後、保健室で……」


ミドリ「……」






放課後。

保健室。


秋穂「聖火みたいな武器、炎を操るカードの所持者ね……。そして、そいつは仲間を引き連れて、集団で狩りをしている」


ミドリ「ああ。そいつらから、カードを取り戻したい」


ヒロト「……」


秋穂「西野さんは4枚持ってるって、前に言ってたよね。今は何枚?」


ミドリ「元々持ってた1枚だけ」


秋穂「ふーん。なるほどね」


スミ「西野さん……。今、大変なんでしょ……?」


ミドリ「ああ」


スミ「今は、カードのことは……」


ミドリ「そんな訳に行かねえんだよ。アタシがカードを奪った人のこと、考えたらさ」


スミ「奪ったって……」


ミドリ「アタシの家族のことも、もう、カードの願い無しで解決なんて出来ない」


スミ「西野さんの家、今は大変だとは思うけど……」


ミドリ「何も知らねえくせに……、黙ってて!」


スミ「……ごめん」


ミドリ「……いや、わりぃ。……スミは何も悪くない」


秋穂「はいはい。切り替えましょ。西野さん、あなたが、そこまでしても叶えたい願いって、なんなのかな?」


ミドリ「……うちの借金を、カードで全部チャラにして、家族みんなで幸せに暮らしたい」


秋穂「へえ……、そう」


ミドリ「……私の願い、変ですか?」


秋穂「いいえ。私はとても共感しているのよ」


ヒロト「……」


秋穂「いいわ。取り返しに行きましょう、西野さんのカードを」


ミドリ「協力してくれるんですか?」


秋穂「ええ。でも、タダじゃない」


ミドリ「え……」


秋穂「狙うのは、奪われたカード3枚に、その聖火のカード、少なくとも合わせて4枚。ここにいるのは4人。わかるでしょ?」


ミドリ「……ひとり、1枚?」


秋穂「そ、山分け。それに加えて、相手は集団で行動してるから、他にもカードを持っている可能性も高い。損な取引じゃないわ。それでどうかな?」


ミドリ「……わかった。そいつらが何枚持ってるかなんて知らないけど、奪われたままじゃ、許せない」


スミ「あの……」


ヒロト「まだ協力するって言ってないけど?」


秋穂「あなたって、本当に輪を乱すのが好きなのね~」


ヒロト「勝手に話を進めんな。巻き込まれるのは、ごめんなんだよ」


秋穂「黒瀬さんはどうする? クラスメイトがこんなに苦しんでるんだけど」


スミ「……」


ミドリ「……」


ヒロト「……」


スミ「あの……、先生」


秋穂「なに?」


スミ「その人たちから……、命を奪うんですか?」


ヒロト「……」


ミドリ「……」


秋穂「そうね~……。その時でなければ、わからないわね」


スミ「……。西野さんは……、その人たちをどうしたいの……?」


ミドリ「……」


ヒロト「……」


スミ「私……。西野さんと先生が、カードを取り返しに行くなら……、付いていきます」


ミドリ「スミ……」


秋穂「は~い、それじゃ、決まりね。カード奪還作戦開始~!」


ヒロト「……そいつらの居場所に、目星はついてんの?」


秋穂「まだ、これからよ。でも、時間の問題じゃないかな~」


ヒロト「行く時は教えて」


秋穂「あれ~、協力しないんじゃなかったの?」


ヒロト「気が変わった」


秋穂「ふ~ん、まあいいや。なら早速、情報収集を始めましょ。そうね……、今日からは二手に分かれて探索といきましょう」


ヒロト「二手?」


秋穂「ええ。私と西野さん、新藤君は黒瀬さんと一緒に、放課後から探索しましょう。見つけたら、すぐに全員に共有。人数的に不利なら逃げる」


スミ「……」


秋穂「はい。じゃあ、そうと決まれば、早速動く! ゲームスタート!」


ミドリ「はい」


スミ「はい……」


ヒロト「……」






広い幹線沿いを歩く。


ヒロト「黒瀬先輩。なんで秋穂先生の誘いに乗っちゃうんだよ」


スミ「……ほっとけないよ。西野さん」


ヒロト「同情はするよ。家も無くなって。でも俺らには、どうしようも無いじゃん」


スミ「うん……。それはそうだけど、西野さんがカードを奪うために、人を殺すようになって欲しくない」


ヒロト「まだ、そんなこと言ってんの……。これは戦争だよ。命の奪い合いなんだって」


スミ「……」


ヒロト「言いたくないけどさ。西野先輩は、もう人を殺してるかもしれないし、黒瀬先輩だって、いつそっちに回るかわからない」


スミ「私も……?」


ヒロト「当たり前だろ? 生きるために、せざるを得ないことだってあるし」


スミ「私は……、したくない」


ヒロト「……。あめぇよ……」






黒いスポーツカーに乗り、

ゲームセンターに来る。


秋穂「ボヤ騒ぎと強盗が重なって、臨時休業中。西野さんが、火のカード所持者と接触した日と一致してるわね」


ミドリ「あいつ……。見境のないクズだったんだ。私はそんな奴にカードをもらおうとしてたなんて……」


秋穂「西野さん、家が火事になって、泊まる所はあるの?」


ミドリ「おばの家。これからも暮らしていいって」


秋穂「お母さんは入院してるわよね。お父さんは?」


ミドリ「仕事場で寝泊まりしているらしいです」


秋穂「へえ。家族みんな、バラバラの場所にいるのね」


ミドリ「アタシがカードを集めようとしたから……、バチが当たったんですかね?」


秋穂「そんな風に考えるのは良くないわ」


ミドリ「はい……」


秋穂「願いは誰しもが持つ物よ。そして、それを持つこと自体が、人間を人間たらしめる」


ミドリ「え?」


秋穂「あなたは自分の願いの為に動いていた。それは、とても尊い、人としての行いよ」


ミドリ「はい……」


秋穂「私にも願いがあるわ」


ミドリ「……先生の願い事って?」


秋穂「西野さんの家族は、お金のことで困っていたのよね?」


ミドリ「はい。借金に追われて」


秋穂「私の願いは、あなた達のような、お金によって不幸に落とされる人が、いなくなる世界よ」


ミドリ「え……」


秋穂「うふふ~。私の願いはね、ワールドワイドなんだよね~。その願いをカードがどこまで叶えてくれるか、全然未知数なんだけどね~」


ミドリ「……アタシ、その先生の願い事、いいなって思います」


秋穂「へへ~ん。照れる~」


ミドリ「先生、この後、どの辺を探すんですか?」


秋穂「西野さん、そいつらと会った時、カードを何枚持っているか見せた?」


ミドリ「一枚だけ。手に持っていたから」


秋穂「だったら、そいつらは3枚を奪って、あなたのカードを全て奪ったと、安心しているかもしれない」


ミドリ「そうかも……」


秋穂「火のカード所持者と出会ったゲームセンター。その付近は、そいつらの日常的な活動エリアになっているかも。しばらくは、近くを回りましょう」


ミドリ「わかりました」







ウーウー!


ヒロトとスミの横を、消防車がまとめて追い越していく。


スミ「火事?」


ヒロト「どこだ?」


すぐ先のカーブを、消防車たちが曲がっていく。

少し向こうに、黒い煙がうっすらと上がっているのが見える。


スミ「燃えてる所、近いんだ」


ヒロト「……離れた方が、いいかもしれない」


スミ「え?」


ヒロト「だんだん、近づいて来てるかも……」


スミ「え、何が……」


カードがほんの少し、熱を持ち始めたのかもしれない。


スミ「え、近くに、カードを持った人が、いる……?」


ヒロト「……そうか、しまった! 黒瀬先輩!」


スミの手を引いて、来た道を戻るように、走り出す。


スミ「え、ヒロト君!?」


ヒロト「遠くから、速い速度で近づいてんだよ!」


大きな排気音。

後ろを振り返る。

消防車が入った曲がり角から、

3台のバイクが連なって出てくる。


一気に熱を帯びるカード。


スミ「え!?」


ヒロト「くっそ!」


3台のバイクが通る。

そのうち1台は2人乗り。


バイクに乗る4人の男が、

スミとヒロトを見つめながら、通り過ぎる。


ヒロト「ちっ……」


スピードを緩めるバイクの集団。


スミ「まさか、あの人達……」


ヒロト「こっち!」


ヒロトに手を引かれ、住宅地の中に走っていく。




バイクたちが道路の端に停まる。

スマホを取り出すヤンキー風の男。


ヤンキー「二人見つけた。いや、さっきのコンビニの店員とかじゃなくて、カードを持ったヤツ。高校生二人。そう」


長い髪の男「え? なに? 今のガキたちもカード持ってんの?」


金髪の男「あの制服……、あー、そうか、あいつら、あの時の」


バイクの後ろに乗る金髪の男。

アサコを入院に追い込んだ、丸太のカードを持っていた男。


長い髪の男「何? 知り合い?」


金髪の男「前に俺のカード奪っていた奴らだわ」


入れ墨の男「へー、強そうだね。追いかけたら、喧嘩になるんじゃない?どうするの?」


ヤンキーがスマホをポケットにしまう。


ヤンキー「やるに決まってんだろ。援護も呼んだしよ」


入れ墨の男「あー、やっぱそうなるか」


長い髪の男「よっしゃ、面白くなりそうじゃん、ははははは」


長い髪の男の笑い声。

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