第13話 月の正位置「逃避」





木が生い茂る緑地公園。


スミ「はあ、はあ、ヒロト君、この公園に入って、逃げ切れるの!?」


ヒロト「はっ、はっ、アイツらバイクなんだ! せめて入って来れそうに無いとこに行かないと!」


ブー!!!ブンブンブン!!!ブウウウ!!!ブンブンブンブンブンブンブン!!! 


木々の向こうから聞こえる、バイクの排気コール。


スミ「き、来てる!」


ヒロト「公園の入り口には柵がある。バイクじゃ来れないだろ。秋穂先生は何て?」


スミ「すぐ行くから待っててって!」


ヒロト「ここで時間稼ぐしかねーか……」


バイクの排気コールが遠くなる。

カードの熱も収まり出す。


スミ「い、行った? 離れていってるよね?」


遠くから小さく反響するバイクの音。


ヒロト「ちげぇよ……。バイクの入れる隙間を探してんだ」


スミ「そ、そんな、どうしよ」


ヒロト「こっちとしては時間稼げて好都合だよ。どうせ逃げ切るなんて無理だし」


スミ「あ、秋穂先生……、早く」


ヒロト「丸太のカード、使えるようになった?」


スミ「武器にすることはできたけど、戦うなんて、無理だよ」


ヒロト「無理とかじゃねーから……。やるか、やられるかなんだって」


スミ「……」


ヒロト「黒瀬先輩、よく聞いて。向こうは4人。西野先輩が持ってた3枚のことを考えても、全員がカードを持ってると思っていい」


スミ「う、うん……」


ヒロト「そいつら全員を、俺一人で相手するなんて無理。黒瀬先輩は自分の身はちゃんと守って」


スミ「わかった……」


ヒロト「この公園の真ん中に、芝生の広場があるんだよ。そこに行こう」


スミ「そんなところ、すぐバレちゃうよ」


ヒロト「バレていいんだよ。どうせ隠れててもカードの感知でバレる。だったら広い所のほうが、向こうの動きもわかるし。丸太だって使いやすいだろ」


スミ「そうか……」


ヒロト「行こう!」






秋穂「思ったより早かった。黒瀬さんたちが、カードを持った男たちに追われているって」

黒いスポーツカーのエンジンをかける。


ミドリ「スミが!? 今どこに? 早く行かねえと!」


秋穂「緑地公園の中に逃げてるみたい。私達も行きましょ」


ミドリ「ああ、早くしねえと、お母さんみたいに、スミもやられちまう」


秋穂「どうかしら、きっと新藤君は男たちに抵抗する。そしたら殺されるわね」


ミドリ「だったら、なおさら早くだろ!」


秋穂「あなた、そいつらを殺せる?」


ミドリ「え……。当たり、前だろ……」


秋穂「ふーん。気に入ったわ。西野さん」






周りを木に囲まれた、広い芝生。

人はいない。

日は沈みかけ、ぼんやりと紫色の暗い空。



長い髪の男「あれ~! わかりやすい所で、待っててくれてんじゃん!」


スミがビクっとする。


金髪の男「あ~、やっぱお前か。山で地震おきたときにいた女子」


スミ「あ、あの人……、アサコの……」


ヒロト「何? 新しいカード手に入れたってわけ?」


金髪の男「ああ。今日は前みたいに油断してねえからよ」


ヒロト「やっぱ、あの時に殺しといたほうが、面倒にならなくてよかったよね」


金髪の男「見逃してくれて助かったわ。今日は俺がお前、殺すから」


長い髪の男「なあ、あの女の子は殺さないよな?」


金髪の男「殺すだろ。まとめて」


長い髪の男「えー、もったいなくね? 可愛いじゃん」


入れ墨の男「はいはい、ロリコンはやめようって」


長い髪の男「ロリコンじゃねーって、相手、高校生だろ?」


ヤンキー「うっせーなー。そんなの、別にどっちでもいいんだよ。カードさえ手に入れば」


ヤンキーの手のカードが、聖火トーチに変化する。


ヤンキー「めんどくせーし、一発で決めるわ」


ヒロト「黒瀬先輩、後ろに」


スミ「……うん」


カードを剣に変えるヒロト。


ヤンキー「じゃあな!」


ゴウ!


聖火からヒロトに向けて火炎放射。


スミ「きゃっ……!」


ヒロトとスミを炎が飲み込む。


ブワッ!!


二人を包む炎が、

広がって、かき消える。

吹きすさぶ風。

舞い上がる枯葉に、火が燃え移る。


ヤンキー「は?」


ヒロト「何? こんなもん?」


ヤンキー「……あ?」


入れ墨の男「あれ……。効いてなくない?」


金髪の男「こいつ、案外つえぇから、簡単には行かねーよ」


ヤンキー「……ふーん」


ヒロト「なんだよ、心配して損した。思ったより雑魚じゃん」


髪の長い男「ヒュー。かっこいいー」


ヤンキー「殺すわ、コイツ」


ヒロト「俺をやれんの? そのマッチみたいなショボイ武器で?」


ヤンキー「死ね!!」


聖火からの火炎放射。

ヒロトが剣を思いっきり振る。

強い風が吹き、

炎が四方に飛び散る。


長い髪の男「うわ、あっち、あちぃって!」


ヤンキー「このやろ……」


ヒロトがダッシュでヤンキーに近づく。

聖火を剣で叩き上げる。


ヤンキー「は!?」


空中で聖火がカードに戻る。

それを奪い、後ろにステップして、

スミの前に戻る。


ヒロト「はい。まずは一枚」


ヤンキー「……ガキが」


入れ墨の男「へー。ホントにやるね、コイツ」


ヤンキー「くそが、油断してただけだっての」


ヤンキーがポケットから、別のカードを出す。

チェーンのついた、銅色の大きなメダルに変化する。


金髪の男「な、強いだろ? コイツ」


長い髪の男「おい、もういいよな? まとめてかかったほうが良くない?」


入れ墨の男「駄目って言っても、僕はやるけど」


男たちがカードを取り出す。




ヒロト「……できるだけ引きつけるから、先輩は全体の動きを見てフォロー」


スミ「うん……」


握りしめるカード。



長い髪の男「なーにコソコソ話してんの!」


長い男の男がカードを変化。

先端に細いノズルが付いたボトル容器。


長い髪の男「今度はこっちの番!」


ブシャア!


ボトルの先端から、白い液体が水鉄砲のように飛び出す。

ヒロトがスミの肩を抱いて押す。


スミ「わっ」


ボトルの液体が芝生に撒かれる。

粘性のある液体。


長い髪の男「ほらほら」


ブシャア! ブシャア!


液体を連射し、ヒロトたちを追う。


ヒロト「もう、めんどいんだよ」


液体が放たれたと同時、

強く剣を振る。風が吹く。

液体の勢いが落ち、ヒロトには届かず落ちる。


長い髪の男「あー、それズルイぞ!」


ヒロト「戦いの中で、ズルイとかねーから」


入れ墨の男「僕もそう思うよ」


ヒロトたちの横から、ダッシュで近づく。

手にしているのは、大きな裁ちばさみのような物。


ヒロト「ちっ」


剣で薙ぎ払う。

ハサミを開いて剣を受け止める。


入れ墨の男「カット」


ハサミが剣を切るように閉じたかと思えば、

ヒロトの剣が一瞬でカードに戻る。


ヒロト「な!?」


困惑するヒロトに向かって、

閉じたハサミで突き。

後ろステップで回避。


ヒロト「はっ、はっ……」


握りしめていた剣は、手の中でカードに戻っている。


スミ「ヒロト君!」


ヒロト「……オープン」


カードが変化し、細い剣に。


ヒロト「……なんだ、そのハサミ。なんでカードに戻された?」


入れ墨の男「原理なんて、知らないけど」


ヒロト「オープンはできる。一時的にカードに戻るだけ……か」


入れ墨の男「冷静だね、君。好感が持てるな」


ヒロト「俺は別に持ってないけど」


入れ墨の男「それは残念」


ハサミを閉じて、ヒロトに向かって、

連続した突きを繰り出す。

剣で何度も弾く。


スミ「ヒロト君! 横からも来てる!」


目線の端に金髪の男。

手に持つのは、長い棒の先端にトゲトゲの鉄球がついた杖みたいなもの。


金髪の男「この前のお礼だよ!!」


先端のトゲトゲの鉄球が一回り大きくなる。

ヒロトに振り下ろす。


ガン!


ヒロトが剣で受け止める。


ヒロト「くっ!おもっ!」


背後から入れ墨の男が近づく。

ヒロトが剣で鉄球を受け流す。

地面に叩きつけられるトゲの鉄球。

反転して入れ墨の男を蹴り飛ばす。


金髪の男「くそ」


入れ墨の男「おしかった」


ヒロト「はっ、はっ、はっ」



突如、ヒロトの足元の地面が盛り上がる。


ヒロト「うわ!」


バランスを崩す。


ヤンキー「油断してんじゃねーよ、カス」


手にした銅色のメダルを、ヒロトに向けている。


長い髪の男「チャ~ンス」


ノズル付きのボトルから、液体を放出。

ヒロトの足にかかる。


ヒロト「あっ」


スミ「ヒ、ヒロト君!!」


立ち上がろうとするが、液体のネバつきで起き上がれない。


ヒロト「拘束系かよ!くっそ!」


金髪の男「終わりだな」


ヒロト「ちっ!」


金髪が鉄球の棒を振りかぶる。

ヒロトが剣で受け止めの体勢。

そのとき、剣がカードに戻る。


ヒロト「はあ!?」


入れ墨の男「残念」


金髪の男「これで仕上げだ!」


振り下ろされる鉄球。



スミ「ぶ、武器になれぇ!!!」


スミの手の中のカードが、勢いよく伸びる。


金髪の男「がっ!!」


カードが丸太に変わり、金髪の男を突き飛ばす。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る