第11話 審判の逆位置「自己否定」





ミドリの母「ミドリ、そろそろ学校行く時間よ。いい加減、起きなさい」


部屋の扉を開ける。

ベッドの上に私服のまま寝ているミドリ。


ミドリ「あ、朝か……」


ミドリの母「あんた、最近いつも夜中まで出歩いてるわね。悪い男と付き合ったりしてないわよね?」


ミドリ「はあ……、してねぇよ……」


ミドリの母「ほら、着替えて学校行きなさい」


ミドリ「うん……」


ミドリの母「ねえミドリ」


ミドリ「なに?」


ミドリの母「あんた、この家にいるのが辛いなら、フミコおばちゃんの家で暮らしてみる?」


ミドリ「え?」


ミドリの母「フミコおばちゃん、ミドリが来てもいいって。おばちゃん一人暮らしで、仕事も忙しいみたいだけど……」


ミドリ「……。いかねえよ……」


ミドリの母「そう……、急に答えを出さなくていいから。ゆっくり考えて」


ミドリ「……」




学校に向かう坂道。

カードを片手に登校する。


ミドリ「本当は家に置いときたいけど……。もう、ゆっくり探してる場合じゃなさそうだしな……」


女子生徒「おはよー、ミドリー!」


さっとポケットにしまう。


女子生徒「あれ? 顔色悪くない? 大丈夫?」


ミドリ「ぜ、全然だよ! おはよう!」


女子生徒「最近元気なさそうだし、なんかあった?」


ミドリ「あー、そうかな」


女子生徒「クラスのみんなも心配してるよ。バイト入れすぎなんじゃないかとか、なんかあったのかなって、みんな噂してる」


ミドリ「へえ……」


女子生徒「今年、一段と寒いらしいしさ、身体、大丈夫?」


ミドリ「大丈夫……。別に……。なんにもねえよ……」






学校の門をくぐる。


ミドリ「まじかよ……、カードが……」


ポケットのカードが熱を持ち始めたのを感じる。

いつもの学校が来た事のない場所に思える。


女子生徒「ん、どした?」


ミドリ「いや、なんでもねぇ」




校舎に入ると一段とカードが熱を持ったように感じる。


ミドリ「……」


鼓動が早くなる。




クラスの扉を開ける。


女子生徒「おはよう!」


女子生徒「おーっす」


女子生徒「おはよう~」


女子生徒「お、ミドリも一緒じゃん!」


ミドリ「お、おう……」


扉を入ってすぐの所にいるスミと目が合う。

まん丸に目を見開いている。


スミ「え……」


ミドリ「あ……」


女子生徒「なに見つめあってんの、二人とも!」


ミドリ「い、いや……」


スミ「お、おはよう……、西野さん……」


ミドリ「おは……、よう……」


目を合わせないようにして、席に着く。






一限目が終わる。

机に伏せているミドリ。


スミ「あの……、西野さん……」


ミドリ「……」


スミ「あ、あの……」


ミドリ「ごめん……、放課後で……」


スミ「うん……」





昼休み。


女子生徒「ミドリー! ごはん食べようー!」


ミドリ「ごめん、今日、購買行くから」


女子生徒「えー、珍しいな~」


ミドリ「わるい!」


足早に出ていくミドリ。

スミが横目で見る。




ミドリ「どうしよ……。スミが……? どうする……。頼んでみるか……? でもな……、くれなかったら、どうする……? 諦めるか……。 いや、まさか、スミがアタシのカードを狙ったりしないよな……。あーもう、わかんねぇ……」


ビク!

ポケットが熱くなっているのに気づく。

とっさに振り返る。


ミドリ「スミ……?」


後ろを見回す。

誰もいない廊下。


ミドリ「か、隠れてんのか……? スミ?」


秋穂「あら~」


ゾクっとして振り返る。


ミドリ「あ、秋穂……、先生……?」


秋穂「滝見校同盟に新人あらわるって感じかな~?」


ミドリ「同盟……? せ、先生も、カードを……」


秋穂「放課後、保健室に来ること。いいわね?」


ミドリ「は……、はい……」


すれ違いざま、肩をポンポンと叩かれる。

青ざめて、冷や汗をかく。

立ち尽くすミドリ。

中庭から遠目に、その様子を見つめるヒロト。






放課後の保健室。


秋穂「はーい。皆様お揃いでー」


ミドリ「……」


スミ「……」


秋穂「えっと……、なに? ふたりとも暗い顔して」


ヒロト「いいから、本題」


秋穂「せっかちね~。はい、西野さん、自己紹介」


ミドリ「2年2組……、西野ミドリ……、です」


秋穂「そっか、黒瀬さんと同じクラスよね。じゃあ、自己紹介はいらないか」


スミ「……」


秋穂「はい、じゃあ、次は新藤君」


ヒロト「……1年1組、新藤ヒロト」


秋穂「はい、よくできました。私は養護教諭の秋穂。秋穂先生って呼んでね!」


ミドリ「はい……」


秋穂「じゃあ、新人も入った所だし、中間報告といきますかー」


スミ「中間報告?」


秋穂「そう、自分が何枚カードを集めたか、現状の報告会」


ヒロト「手の内さらすようなこと、する意味ある?」


秋穂「私たちは同盟なんだし、別にいいじゃない。カードのことを知るにも、情報共有は必要よ」


ヒロト「……」


秋穂「まずは私からね」


秋穂がポケットからカードの束を取り出す。


秋穂「私は現状6枚」


ビクっとするスミ。


ヒロト「2枚……、増えたな」


秋穂「すごいでしょ~」


スミ「あれから、一週間で……」


秋穂「ふふふ~。じゃあ、次は黒瀬さん」


スミ「私は……」


ヒロトを見る。

目からプレッシャーを感じる。


スミ「私は……、1枚……です」


秋穂「ま~、うん。変わってないよね。西野さんは?」


ミドリ「ア、アタシは……、4枚」


スミ「え……」


ヒロト「……」


秋穂「すごーい! そんなにすごい使い手なのに、気づかなかったな~」


ミドリ「あ、いや……」


秋穂「学校にカードを持ってきたのは、初めてよね? これまで、カードはどうしてたの?」


ミドリ「家に……、机の引き出しに……」


ヒロト「……」


スミ「いつも、持ってた方が……、いいかも……」


ミドリ「え?」



『あー、2年2組、西野、2年2組! 西野ミドリ! 学校に残っているか!? 残っていたら、至急、教頭室に来なさい! 2年2組、西野ミドリ! 至急、教頭室に来なさい!』


ミドリ「え?」


スミ「西野さん、呼ばれてる……」


ミドリ「あ、うん……。何だ……?」


秋穂「黒瀬さん、一緒に行ってあげて」


スミ「はい」


ミドリ「……」






教頭室の前。


コンコン。


ミドリ「失礼します」


教頭「ああ、来たか……。西野だな。ん、えっと、君は……」


スミ「同じクラスの、黒瀬です」


教頭「あ、ああ……。黒瀬、すまんが、廊下で待っていなさい」


スミ「はい」


教頭「ああ、それと、扉は閉めてな」


スミ「はい、失礼します」




ミドリ「あ、あの、アタシ、何かしましたか……」


教頭「いや……。驚かないで聞いてくれ。実はな……」




ミドリ「え!! ウチが火事!?」


教頭「落ち着け、お母さんは無事だ。病院に運ばれたらしいが、命に別状はないようだと、親族の方から連絡をもらっている」


ミドリ「よ、よかった……」


教頭「家の方は……、アパートは全焼……、してしまったらしい」


ミドリ「そう……、ですか」


教頭「お父さんが迎えに来るらしいから、校舎の中で待っているように。来たら放送で教える」


ミドリ「はい……」




扉から出る。


スミ「西野さん……」


ミドリ「わりぃ……。今は一人にしてほしい……」


スミ「……うん」


背を向けて歩き出す。






病院。


フミコ「あ、お義兄さん、ミドリちゃんも……」


ミドリの父「フミコさん、妻の容体は?」


フミコ「大丈夫です。でも、かなり混乱しているようで、何を言いたいのか、わからないこともあるんですけど……」


ミドリの父「妻はどこです?」


フミコ「病室に案内します」


ミドリ「……」



ミドリの母がベッドに寝ている。

顔にはアザや、火傷。


ミドリ「お、お母さん!」


ミドリの母「ミドリ……。良かった。あなたが帰るのが遅くて」


ミドリの父「助かってよかった。心配したぞ」


ミドリの母「家具も、何もかも、全部燃えてしまったわ。おじいちゃん達の位牌も」


ミドリの父「……命があっただけでも、良かったと思うしかない」


ミドリの母「借金がまた膨らむわね」


フミコ「……」


ミドリの父「……気にしなくていい。さっき、警察から事情を聞かれたらしいな」


ミドリの母「ええ」


ミドリの父「何があったんだ?」


ミドリの母「若い男の人達が、数人で訪ねてきた」


ミドリ「え?」


ミドリの母「扉を開けたら、顔を殴られて。何度も踏みつけられて……。う、うう……」


ミドリの父「まさか……。借金取りか?」


ミドリの母「わからないわ……。知らない人達よ。それから、家を荒らされて、ミドリの部屋まで……」


ミドリ「ゆるせねぇ……」


ミドリの母「そしたら、見つけたとか、なんとか、喜んだように笑いながら叫んで……。そのあとは、よく覚えていないの」


ミドリの父「無理に思い出さなくていい」


ミドリの母「いいえ……。覚えているのだけど、現実のことには思えなくて……。私は何度も男の人達に踏みつけられて、それから……」


ミドリの父「ひどいことをする」


ミドリの母「なぜだか、わからないけど、結婚式のキャンドルをつける、火のついた棒みたいな物を……、一人の男が持ち出して、家に火を……」


ミドリ「な……」


ミドリの父「……今は、ゆっくり寝ていなさい」


ミドリの母「ごめんなさい、支離滅裂で……。意識を失っていたのか、気が付いたら周りは火に囲まれていて……」


ミドリ「……」


顔が青ざめる。






フミコ「ごめんなさい。お姉ちゃん、突然のことで混乱してるんだと思います」


ミドリの父「ああ……。今は身体だけ心配してくれたら。それで……」


フミコ「今晩から、どうします……? ミドリちゃん、家で預かってほしいって、お姉ちゃんが言ってました」


ミドリの父「私からも、お願いします。フミコさん。どうか、ミドリを住まわせてください」


フミコ「ええ、もちろん……。お義兄さんは?」


ミドリの父「私はしばらく、仕事場の工場の方で寝泊まりします。今後のことは……、妻とよく話し合って決める気でいますが……。妻と娘には、これ以上、迷惑が掛からないように……」


フミコ「……」






病院のバルコニー。


ミドリ「多分……、あいつだ……。ゲーセンで会った、火のカードを使う奴……」


ポケットから、カードを取り出す。


ミドリ「アタシが、アタシがカードなんて集めなければ、こんなことには……」


力なく、しゃがみ込む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る