例えロボットになろうと、化け物になろうと、異世界に転生しようと、僕は貴方と結ばれたい!
@tatananakaka
例えロボットになろうと、化け物になろうと、異世界に転生しようと、僕は貴方と結ばれたい!
神山 明は、一世一代の告白を行う。
「し、詩織さん! ど、どうか、僕と付き合って下さい!」
校舎裏。
呼び出したのは絶世の美女にして、学園のマドンナである双葉 詩織。
若干、声が裏返りながらも頭を下げ、腕を伸ばす。
しかし現実は非常だった。
「うーん。ごめん。無理」
一世一代の告白に対して、思い人の返答は実に淡泊なものだった。
明の心情を反映するように、晴天だった空はどんよりとした曇り空へと変わる。ポツポツと大粒の雨まで降り注ぐ。
全身がびしょ濡れになってしまうが、明にとってはどうでも良かった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
振られた。振られてしまった。一体、何が駄目だったんだろう? 告白の仕方が不味かった? それとも、告白場所を選ぶべきだった?
分からない。
何も分からない。
でも振られてしまった事だけはわかった。
「え?」
突如として、眩い光が視界を満たす。
雷だ。
明は雷の直撃を食らった。そんな事実を知る由もなく、明は意識を失うのだった。
目を覚ます。
全身に感じる違和感。
首を動かして様子を見れば、驚いた事に自分の全身は大量のチューブによって繋がれていた。おまけに、体は全て金属に変わっていた。
これは一体どういう事なのか?
「キョッ! キョッ! キョッ! まさか、偶然道端に新鮮な素体が転がっているとはなぁ! やはり、儂は運が良い!」
目の前にいるのは、白衣の老人。
見た目はいかにもマッドサイエンティストという風貌だ。
記憶が曖昧だ。
思い出そうとすると、頭痛がする。
しかし、唯一これだけは覚えていた。思い人であった、学園のマドンナ。双葉 詩織に振られてしまった。思い出しただけで、気が遠くなる。
「既に計画は最終段階に入っておる! 後は、最終調整を残すだけ! それさえ済めば、憎きカップルを全員根絶やしにすることが出来る! キョッ! キョッ! キョッ! もう、貴様らはクリスマスを一緒に過ごす事は二度と無いだろう!」
だが、待って欲しい。
以前の自分と比べて、今の自分はどうだろうか?
肌色は無くなり、全身が金属に変わってしまった。しかし、見た目は案外悪くないのではないだろうか? いや、カッコイイ。
もしも今、告白すれば成功できるのでは?
そう考えたら、居ても立っても居られなかった。
「む? どうした? リア充撲滅ダー? ……な、なんだ!? この、数値は!? 馬鹿な、暴走しているというのか!?」
動かなかった体が動く。
腕に取り付けられたレーザービームを使い、建物の壁を壊す。
チューブを引きちぎり、そのまま詩織のもとへ向かう。
道中、周りは騒がしかったが気にならなかった。
「詩織さん!」
「明くんじゃん。3日も学校休んでたけど、大丈夫だったの?」
「どうか、俺と付き合って下さい!」
事情を説明した方が良かったのかもしれない。しかし、何よりも先に告白したかった。振られてしまったとしても、それでも好きだから。
「告白してくれたのは嬉しいけど、無理。金属多すぎて、日の光とかが反射して滅茶苦茶眩しいし」
また振られてしまった。
気づけば、明は宛もなく町中を全力疾走していた。
2回も振られた。
1度振られたのだから、2回目振られたとしても大丈夫、と考えていた甘かった。滅茶苦茶辛いし、滅茶苦茶悲しい。
「クソッ! せめて、合体ロボットになることさえ出来ていれば……あっ!」
前を見ていなかった。
フェンスに思い切り衝突し、明は川に飛び込んでしまう。
「不味……い! 電化製品に、水……は……!」
全ては後の祭り。
明の全身は水に浸かっている。
バチバチ! と嫌な音を聞きながら、明の意識はそこで途切れた。
「ヒッ! ヒッ! ヒッ! まさか、こんな辺鄙な土地でこのような最高傑作を生みだす事が出来たとは! 流石の私も、これは予想外だねぇ!」
ぼんやりとしていた意識が、次第にハッキリしていく。
不思議な感覚だった。
目の前にいるのは「魔女」という二文字が似合いそうな老婆。
対する明の見た目は、人間の体を成していなかった。
目が大量。
手や足も大量。
口も大量。
体は球型。
明らかな化け物だ。
元の面影など残していない、完全な化け物。
「人間の悪意や憎悪を混ぜ合わせ、強い思いを抱えながら息絶えた骸に詰め込む。そうすれば、目につくもの全てを破壊してしまう凶悪な怪物の完成だぁ! ヒッ! ヒッ! ヒッ! さぁ! 殺戮の限りを尽くせ、鬼々怪々! 学生にも関わらず、学業という本文を忘れて恋愛ごとに現を抜かす俗物どもを始末してやりな!」
こんな姿では、思い人である詩織に告白する事さえできない。
目が合った瞬間「キモ。死ねば?」と言われるに違いない。死ねる。既に一度死んでしまったのに、二度も死んでしまう事になる。
(いや……待てよ?)
2回目に告白した際、金属が多すぎるから、という理由で振られてしまった。
今の姿はどうだ?
見た目は完全な化け物だ。
しかし、金属など皆無。
悍ましい姿をしているが、よくよく見れば悪くない? 見た目をしているようにも思える。いわゆる、キモカワという奴だ。
キモカワだったら、ワンちゃんあるのではないか?
三度目の正直。
今なら、思い人である詩織に告白すれば、受け入れてくれるのではないか?
思い立ったが吉日。
早速、明は詩織のもとへ向かう。
手も足も人間だった頃と比べて数が多すぎる。それなのに、どうやって動かせば良いのか分かった。
「うん? 何故、勝手に……ッ! まさか、私の言う事を聞いていない!? ッ、コラ! いう事を聞け! お前は私の創造主だぞ! その私に歯向かうなん……グボァッ!?」
軽くぶつかってしまった。
魔女は勢いよく吹き飛び、気絶してしまう。
悪い事をしてしまった。
しかし、気にしている余裕はない。
告白だ。
詩織に告白をしなければならない。
キモカワとなった明にとって、壁など存在していないに等しい。腕を振るい、足を振るい、壁を難なく破壊する。
道中「キャー!?」や「ギャー!?」といった悲鳴が聞こえてきたが、明の耳には届かない。というか、耳が存在しているのかさえ怪しかった。
詩織に告白する。
彼を動かす原動力は、溢れんばかりの熱意だった。
目的地である学校に到着する。
キモカワである明の姿を目にして、周りの生徒達が悲鳴をあげる。まるで、夜道で幽霊と遭遇してしまったような反応だ。
「あ、明くん? 久しぶり。一か月振りだけど、随分姿が変わったね」
いた。
思い人の詩織だ。
周囲の反応が微妙な中、詩織だけは普段通りに接してくれた。
やっぱり、キモカワで正解だった。
「し、詩織……ざぁん」
声は地の底から響くような、酷く恐ろしい声だ。
不味い。
こんな声では、キモカワ感が薄れてしまうかもしれない。
それでも明は告白する。
思い立ったが吉日。
勝負は今決める!
「ど、どうがぁ、お……オデと、付き合って……」
「告白は嬉しいけど、クリーチャーは無理」
「やっ“ばり、駄目だったァ“ァ”ァ“ァ”ァ“!」
振られてしまった。
キモカワだと自分自身を偽っていたが、やっぱり気持ち悪かった。
可愛い要素なんて皆無だ。
3回も振られてしまった。
それでも慣れる事は出来ない。
明は全ての眼球から大粒の涙を流し、絶叫しながら一心不乱に町中を走りまわる。その姿を目撃した人々は、全員例外なく悲鳴をあげた。
余りにも恐ろしすぎた。
赤信号になっている事にも気づかず、明は横断歩道を渡ってしまう。
「そげぶっ!?」
対面からのトラックに跳ねられ、明は失意の中で息を引き取ってしまうのだった。
何時も通りの毎日。
しかし、双葉 詩織はどこか物足りなさを感じていた。
きっと3度に渡って告白してきた神山 明が原因だ。
ある時はロボットになって。
ある時はクリーチャーとなって。
振られても尚、めげずに告白をしてきた。
噂によれば、クリーチャーとなった明はトラックに跳ねられて死んでしまったらしい。
だが、詩織はこう思っていた。
もしかすると、自分の死すらも無かった事にして、彼は4度目の告白を私にしてくれるのではないか? と。
あれから1年が経過した。
日常に変化はない。
これからも変化など無い日々を過ごしていくのかもしれない。
ぼんやりとそう思った。
違った。
「うん?」
空間にひびが入った。
一瞬、目の錯覚かと思った。
違う。
空間にひびが入っている。
ひびは次第に大きくなっていき、やがて割れた。
「……明君、だよね?」
目の前に現れたのはかつての同級生。その容姿に面影は残っている。だが、身に纏う衣服と、醸し出される雰囲気はどこか禍々しい。
さながら悪の組織の幹部。
或いは魔王なんて言葉が適切かもしれない。
「詩織さん。僕は君に振られた後、トラックにはねられて死んでしまった。けど、気づけば僕は異世界に転生したんだ。異世界では沢山の出来事があった。全部説明すると、日が暮れてしまうほど沢山の事が。僕は異世界で強大な力を手に入れ、魔王となり、世界を手中に収めた。この世界に戻ってくる事なんて、今の僕には造作でもない事なんだ」
一体、これから何が行われるのだろうか?
異世界を手中に収めた。
新たな標的として、この世界が選ばれた?
或いは、明を振った詩織に復讐をする?
はたまた、詩織では想像もつかないような、何か崇高な目的がある?
色々考えてみたが、どうにもピンとこなかった。
詩織の知っている明であれば、きっと次に口にする言葉は……。
「世界の半分をあげよう。だから、詩織さん。……ぼ、僕と付きあって下さい!」
シリアスな空気は一体どこに消えたのか、明は若干緊張した様子で、手を伸ばしながら頭を下げる。
禍々しさはもう、感じられない。
「…………」
詩織は明へとゆっくり近づき、伸ばした手を取る。
「別に、世界の半分とか欲しくないかな? 私が欲しいのは君、かな?」
今、ようやく気付く事が出来た。
どうやら自分はいつの間にか神山 明という同級生を好きになっていたらしい。
「え!? そ、それって!?」
「いいよ。君の告白、OKだから」
「や、やったー!」
間違いなく、この時、この瞬間こそが明にとって最高の瞬間だった。
ガチャ。
異音を耳にするまでは。
「え?」
自身の手首を見れば、重厚そうな手錠が嵌められていた。片側は自分の手首。そして、もう片側は詩織の手首に。
「……あ、あの……これって?」
「実は、私って少しだけ重たいんだ。具体的にいうと、好きな人とは常に一緒にいないと駄目だし、他の女子と話してたら少しだけ焼きもちとか焼いちゃうんだ。でも、大丈夫だよね? 私達、両想いだし。ね?」
「あー。えっと……うん!」
告白したのは間違いだったかもしれない。
一瞬、そんな考えが脳裏を過ったが、明は大きく頷く。
大丈夫だ。
なぜなら、ロボットに改造され、化け物の素材に利用され、異世界に転生して世界を手中に収める魔王になったとしても貴方の事が好きだったのだから。
だから、大丈夫だ。
――多分。
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