第2話
ゴクゴク。
ゴクゴク。
ゴクゴク。
ゴクゴク。
ゴクゴク。
俺は黙って、手持ち無沙汰な手で草をぷちぷちと抜いていた。
ゴクゴク。
ゴクゴク。
ゴクゴク。
ゴクゴク。
ゴクゴク。
安い笑いとろうとしやがってっと、わざと一気飲みをして、突っ込まれるのを待とうとする金髪を横目に、ぷちぷちと草を抜く。
「グエっ」とゲップをして俺のほうを見る金髪をみずに、俺は
「橘、今日無断欠席らしいぞ。」と言う。
「あー、聞いた聞いた。連絡家に、したらしいけど連絡取れないってな。」と金髪が答える。
「あれ、橘じゃねえか。」と向こう側の河川敷の土手を指さし、俺は金髪に問いかける。
「ありゃ、橘だな。間違いない。」
金髪は視力が3.0有ると自称している。前に調べたら日本人の最高視力は2.0とネットで書いてあったので、俺はずっと嘘だと思っているが。
ーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーー
15分程歩くと、橘は廃小学校のような建物に、入っていった。両手で重そうな大きな鞄を抱えていた。
「見るからに怪しいな」と金髪は言う。
時刻は16時くらいになっていた。
「学校を休んで、廃校に行くって、なんか訳ありっぽいよな。」と俺は言う。
バレないように後を付け、俺らも廃校に入っていくと、橘が廃校の中の一つの教室に入っていく。
中を覗くとバレそうなので、壁に耳をつけて、中の音を聞こうとする。
「お金は持ってきました。これで妹は返して頂けるのですよね。」と橘の声がする。
「まずは、中身を見せろ。」と男の声がする。しわがれた老人の様な声だった。
バッグのチャックを、開ける音がした後、男は「今日の27時にここに来い。警察に通報したり、していることが分かった時点で、妹は殺す」と言い。足音が、こちらに近づいてくる。俺らは、コソコソと近くに積んであった机の物陰に隠れやり過ごす。
男の後ろ姿、しか見えなかったが、二人組のどちらも黒いスーツの身長180を超えるくらいの大男だった。
隣の金髪はとても渋い顔をしていた。俺はなんとなく、悟った。
恐らく、妹はもう生きて居ないのだろう。
「どうする。」と俺は金髪に問いかける。
「一先、橘に声かけるか。」
俺達は教室の中に入り、橘に声を掛ける。
「悪い、見かけたんで、つけてた。」と金髪は話しかける。
一瞬、目を見開いたが、俺等がいつも河川敷にいることを知っている橘は状況をなんとなく、察し、すぐに冷静になり。
「遊び、じゃねぇんだぞ。どこから聞いてた。」と橘は言う。
「まあ、大体状況は分かった。どこに来いって。」と金髪は問いかける。
「家の近くにある公園だ。今のうちに、雲隠れして、妹だけその時間に介抱できるようになってるのかもな。」と橘は言う。
しかし、こいつは冷静だなと、感心する。元々、父親が社長で、色々な、社交場など、小さい頃から大人の世界で生きてきたこいつは、年齢の割に、とても肝が据わった奴だった。
父親は、中学生の頃、病気で亡くなり、莫大な遺産と、家を持っているが、母も娘を出産すると同時に亡くなっており、お手伝いさん、を雇いつつ、妹と二人で暮らしていた。
妹は今小学生3年生で、ほとんどこいつが親代わりをしていた。
そんな妹が攫われ、気が気じゃないだろうに、外には、一切不安な素振りを見せなかった。
そんなことを考えれば考えるほど、胸が痛んだ。こいつはもし、妹が亡くなったことを知ってしまったら。。。
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
「妹、見えたんだよな。」と、橘の家の近くの喫茶店の席に、二人で座り、俺は金髪に話しかけた。
「ああ。」とだけ金髪は言う。
橘を家まで送り、俺らは状況整理をしていた。
「27時、公園に行かせるのは、時間稼ぎってことかね。それまで警察に連絡されなければ行方をくらませるってことかね。」と俺は問いかける。
「まあ、わからんが、そうなのかもな。奴らの行方を追うことは、出来るかも知れんが、そんなことしても、金が返ってくるだけだしな。」と金髪は、俺に視線を合わせずに言う。
「でも、少しでも気は晴れるかも知れないし、亡骸は返してやったほうが良いんじゃねえか。」と俺は言う。
ーーーーーー
ーーーーーー
少しの沈黙の後、金髪は顔を伏せ、集中し始める。
本人曰く、一度見た、霊の痕跡は、精神を研ぎ澄ますと、探せるらしい。あまりに遠すぎたりすると無理らしいが。
金髪は目を開けると。「あの廃校だったんだ。あの廃校に死体はある。元々、バレても直に行方をくらます算段があるのかもな。あんな簡単に見つかっちまう場所なんかに捨てるってことは。犯人を捕まえるのは無理かもな。それでも、早く死体を見つけて、警察に出来るだけ早く行方を追ってもらうのが良いかもな。」
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
19時頃。俺らは、廃校につき、先ほどの教室で、もう1度、金髪は集中する。
現場に行くと、霊殺された映像を観ることができるらしい。実際に、過去の映像が、再生される様なことを言っていた。
そして、「死体をここに持ってきて、コンクリートで固めてるみたいだな。給食のデカい鍋に折りたたんで入れてるみたいだ。」と金髪は言った。
その時、こちらに歩いてくる足音が聞こえた。
俺らは急いで教室の掃除用具入れにに隠れた。隙間から覗くと、誘拐犯の二人組だった。2人は様子を確認して、教室から出ていった。
「何で戻ってきた。とりあえず警察に連絡して、捕まえるチャンスなんじゃないか。」と俺は言う。
「急いで、後を付けて、何とか引き留めないといけないかもな。」と金髪は言う。
「通報は頼む。」と良い、俺は急いで後を追いかけた。後ろから金髪が何か言っていたが、俺は無視して、追ってしまっていた。
後から考えれば、後先、考えずな行動だったが、その時は早く引き留めないと逃げられると言う事に頭が一杯になり、何も考えず飛び出していた。
ーーーーーー
ーーーーーー
俺は遠くから、二人の姿を視界にいれると、二人に向かって大きな声で「給食の鍋に死体を入れただろ。警察には連絡したからな」と叫んだ。
右側の男が、合図すると、もう一人の男がこちらへ走って来た。俺は目の前の階段を登り、上の階へ走って逃げた。
そして、上の階から、2つ目の教室(理科室)に入り、中の机の下に隠れた。
階段は両端にあるため挟み撃ちをされると、捕まってしまうと思って、隠れることにしたのだ。
俺は、咄嗟に警察の名前を出してしまったが、引き止めるならば出してはいけなかった事に気付き、何故追ってきたのか疑問に思っていると、理由が分かった。
金髪にメールを送ろうとケータイを取り出すと、県外だった。これでは警察への連絡も出来ない。あの2人は瞬時に嘘だと判断し、追ってきたのかもしれない。
俺はどうするか、考えていると、教室に人が入ってきた。2つ目の教室に入ったのも失敗だったか、と思った。順番に探して回るつもりなのだろう。時間稼ぎにもならないかもしれない。
教室に入った足音が、少しづつこちらに近づいてくる。しっかり一つづつ机を確認しているようだ。
やがて、足音は俺の隣の机まで行き、もう駄目だと思ったその時。
「おい、こっちだ。」ともう一人の男の声が外からする。
すると、隣まで来ていた男は、急いで教室を出ていった。恐らく、金髪がもう一人の気を引いてくれたのだろう。俺は気配がなくなると、教室から出て、恐る恐る進んだ。
下の階へ降り始めていると、サイレンの音が聞こえた。
警察が来たのだ。しかしどうやって、金髪は警察を呼んだのだろうか、校舎から出るとすでに男たちは、捕まっており、事情聴取のようなものをされていて、金髪は別の警察と話していた。
後から聞くと、やはり県外で携帯は使えなかったため。屋上で、落ちていた教科書などを燃やして、火を起こし、警察に火を見た近隣住民に通報させていたらしい。
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーー
男達は黙秘していたらしいが、俺らは肝試しにきて、給食室でコンクリートに詰められた、鍋をみたことを警察に話すと。警察は中を調べ、中から少女の遺体が発見された。
橘は身元確認のため、警察に呼ばれる。俺らは橘に声を掛ける事は出来なかった。
橘は、扉を開け、変わり果てた妹と対面する事になる。
こんなときでも、橘は泣いてはいなかった。それが逆に辛く思えた。
中がざわめく。俺らは中に入り様子を伺うと。
橘は「これは妹じゃない。」と珍しく興奮していた。現実を受け入れられず、声を荒げる橘の肩に手を置き、「橘!」と声をかけると
「違う、本当に知らない子だ。この子は妹じゃない。」と橘は言う。
俺達は顔を見合わせてハッとした。確かに俺等は二人とも橘の妹の顔を知らない。別の被害者がいた可能性もあるのだ。
その後、取り調べが進むと、橘の妹が別の場所で監禁されていたことがわかり、無事生きたまま発見された。あの二人組は、もう一度、死体を隠すため、下見に来ていたようだった。俺等が行っていなければ、あの後、あそこで橘の妹を殺害するつもりだったらしい。
俺等は警察署をあとにする時、泣き崩れる、夫婦を見た。恐らくあの夫婦の娘さんだったのだろう。二人組が乗っていた車から見つかっていた遺留品から事前に連絡していたらしい。先にいた、橘にも身元確認をしてもらっていたようだった。
俺等は気の毒には思いつつも、それでも自分達に不幸が降りかからなかった事に安堵していた。
そんな、後味の悪い思いをしながら、俺達は日常へと戻る。
幽霊が見えることを知らない橘には「警察を呼んで、もし妹が殺されたらどうするつもりだったんだ」と怒られたが、それでも俺達が橘のためにやったということを分かっていたようで、最後には御礼を言って解散した。
ーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーーー
河川敷に一人座っていると、後からいつもの、気だるそうな足音に視線をやりつつ、「橘、今日休みだったな。」と金髪に話す。
「まあ、色々在った次の日だしな。」と座ろうとしながら、話す金髪をよく見ると、白い、医療用の眼帯をしていた。
「どうした、それ」と俺は尋ねると。
「昨日、色んな汚いところを触った手で目を描いたせいで、ものもらいになったな。」と金髪は言う。
「災難続きだな。」と俺は言う。
「俺らにとっては災難よりも、幸福だったかもな。」と金髪は良い、俺等は黙った。
俺は持っていた、コーラを一気飲みして、耐えきれず、戻して、吐いた。そしてゲップをした。
金髪は、笑った。俺も一緒に笑っていた。
10代の頃、友人だった彼は今どうしているだろうか。 @oyashirazu2000
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。10代の頃、友人だった彼は今どうしているだろうか。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます