迷賊?

「Hglk」


途端に動きを止めるオルトロス。

何が起こったか分からない綾香。

だが、オルトロスの後方に誰かが居る。


「おや、こんな所で出会うとは」


気楽な雰囲気でオルトロスに語りかけるのは、一人の仮面を付けた少年だった。

少年の声に反応し、後ろを振り向くオルトロス。


「う〜ん、どうしよっかね…」


少年はオルトロスを前にしても自然体でいる。


「「グルゥウゥゥ…」」


オルトロスが少年に近づく。

そして、前脚を持ち上げ…


「Hglk」


動きを止めたオルトロスの前脚を少年は不用心に触る。

まるで従えているように。


「Ivgfim gl blfi lirtrmzo kozxv」


不思議な言葉を少年がオルトロスに喋ると、オルトロスは少年を追い越しダンジョンの奥へと消えていった。


コメント:何語?

コメント:助かったのか…?

コメント:オルトロスを従えている?


オルトロスを目で追っていた少年が、こちらに振り返ると、


「ん…、人がいたのか」


少年は自分達に今まで気付いていなかったようだ。

少年は口元に笑みを浮かべながら、声をかけてきた。


「大丈夫かい?なにがあったんだい?」


なぜ私達が倒れているのか一目瞭然なのにもかかわらず、少年は私達に問いかける。


「おや、随分と酷い傷だね。立てそうかい?」


その言葉に、震える脚に力を込めながら私達は立ち上がる。


「無理しなくても良いよ。」

「いえ、大丈夫です。それよりも、あのオルトロスは?」


少年は首を傾げながら答える。


「んん?心配しなくてももう大丈夫だよ?」


それが聞きたいんじゃない。

だが、その返答で怪しさが増していった。


「あのオルトロスを逃がしたんですか?」

「あぁ、違うよ。元の場所へお帰りって言っただけさ」


(この少年、まさかオルトロスの飼い主?)

頭をよぎる危ない思考。

だが、万が一当たっていたら?


「貴方は、私達を助けてくれたんですか?」

「いや、たまたま偶然君達が助かっただけだよ。良かったね〜」


少年の口元は依然として緩んだままだった。


(有り得ないと思うけど、迷賊かもしれない…)


迷賊。ダンジョン内で盗賊紛いの行いをする者たちの総称。

その為の対策として撮影ドローンなどによる配信行為が推奨されている。


「皆、警戒態勢」


リーダーの沙紀が小声で3人に指示を出す。

今、4人と少年の間には静佳が倒れている。

少年が自分達を攻撃するなら、静佳の身が危ない。

故に、魔法使いの柚葉は静かに詠唱する。


「火よ、矢となれ」


柚葉を自分達で隠しながら、綾香は問いかける。


「所属と名前を教えてもらえますか?」


少年は笑みを浮かべたまま応える。


「遠慮しておくよ」


その瞬間、柚葉は命じる。


「火よ、前へ!」


少年は放たれた火矢の魔法に笑みを少し崩したが、すぐに笑みを戻し、


「Wrhzkkvzi」


唱えた瞬間、火矢は跡形もなく消える。


「…ッ!」

「酷いな〜。いきなり攻撃するなんて…。ビックリしたじゃないか〜」


驚いた様子もなく、軽い口調で抗議する。


「傷を、癒やせ!私達を!」


美月の魔法が5人を癒す。

綾香と沙紀がそれぞれのカトラスと槍を少年へと向ける。


「Hglk rg」


少年の声のすぐ手前で2人の武器が止まる。

押し込もうとしてもビクともしない。


「そろそろ帰りたいんだけど?」

「ッ!炎よ、貫け!」


柚葉が炎の槍を飛ばすも、


「Hglk」


静かに少年は命じる。

炎の槍は少年に従い止まる。


「もう良いだろう?では、皆様さようなら」


「Hsfg rg wldm」


私達の意識はそこで落ちた。








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