恋なんですか!?

本日19時にもう1話投稿します!


* 


 私は重い足取りで学校に向かった。ほとんど眠れなかった。あれから頭の中はずっと、由奈ちゃんのことでいっぱいだった。


 っていうか、百合とか全然知らなかったし! 由奈ちゃんのことは友達としか見てなかったし!

 

 昇降口に着くと——。

 

「あ、律先輩! おはようございます!」

 

 由奈ちゃんが、いつもの笑顔で駆け寄ってきた。


「あ……お、おはよう」

 

 心臓が飛び跳ねた。だけど由奈ちゃんは、いつも通り私の腕に自分の腕を絡めてくる。

 

「今日もいい天気ですね! 律先輩と一緒だと、毎日が楽しいです!」

 

「そ、そうだね……よ、よかった……」

 

 やばい。意識し過ぎて、まともに喋れない……!

 

 由奈ちゃんの柔らかい腕の感触。ほのかに香るシャンプーの匂い。いつもなら何とも思わなかったのに、今は全部が——ドキドキする。

 

「律先輩? どうかしました? なんだか顔が赤いですけど」


 さらりと黒髪を揺らして、私の顔を下から覗いてくる。


「え!? そ、そんなことないよ!」

 

「本当ですか? もしかして体調悪いとか……」

 

 由奈ちゃんが心配そうに、私の額に手を当ててくる。顔が近い。

 

 黒くて、ぱっちりとした目が今日はいつもより可愛らしく見えるような……

 

「ひゃ!?」

 

 思わず変な声が出て、私は後ずさってしまった。

 

「り、律先輩!?」

 

 由奈ちゃんが驚いた顔でこちらを見ている。

 

「ご、ごめん! なんでもない、なんでもないから!」

 

「え、えっと……本当に大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫! ちょっと寝不足なだけだから! また放課後ー!」

 

 私は慌てて言い訳をして、走って教室へ向かった。

 

 ああ、もう……。

 

 由奈ちゃんの行動が今はすごく眩しくて、胸が苦しい。

 

 ただ、ドキドキする心臓を抑えることができなかった。

 

 ——どうしよう。

 

 昼休み。

 

 私は教室で、友達の木下美咲とお弁当を食べていた。

 

「ねえ、美咲」

 

「ん? どったの?」

 

「あのさ……ちょっと相談があるんだけど」

 

 私がそう切り出すと、美咲は箸を止めて私の方を向いた。

 

「おお、珍しいね。律から相談なんて。どうしたの?」

 

「その……友達の話なんだけどさ」

 

「はいはい、友達の話ね」

 

 美咲がニヤニヤしながら言うと、私は両手を振って美咲が考えていそうなことを速攻否定する。

 

「ほんとに友達の話だから!」

 

「わかったわかった。それで?」

 

 私は少し躊躇してから、口を開いた。

 

「もし、友達が……すごく懐いてくれてて、毎日『大好き』とか言ってくれるんだけど、それって友達としてなのか、それとも……その、恋愛的な意味なのか、どうやって見分ければいいと思う?」

 

「ほう」

 

 美咲は箸を置くと、肘をついて身を乗り出し、ニヤニヤしながら私の顔を凝視した。

 

「……それって、七海さんのこと?」

 

「え!? な、なんで!?」

 

「だって、律にそんなこと言ってくる子、七海さんくらいしかいないじゃん」

 

 あははと高笑いをしながら図星を突かれて、私は何も言えなくなった。


 ほんと美咲ってこういうところ勘がいいな。

 

「やっぱりね。で、急になんで?」

 

「それが……昨日、百合漫画を読んじゃって」

 

「ああ、最近ネットで漫画見てるって言ってたもんね」

 

「うん。それ見たら、由奈ちゃんと私の関係とすごく似てて……」

 

 私は顔を赤くしながら、昨日のことを話した。膝に座ってくること。毎日のメッセージ。首に抱きついてくること。全部。

 

 美咲は私の話を聞きながら、何度も頷いていた。


「……それ、完全に好きでしょ」

 

「え?」

 

「七海さん、律のこと好きだよ。絶対」

 

 美咲はあっさりと言った。正直もう少し考えてくれたり、否定してくるものかと思っていた。

 

「だ、だって……」

 

「だってもなにも、女の子同士だからって、あんなに毎日ベタベタしないよ。それに、七海さんが律と他の子が話してるとき、すっごい不機嫌な顔してるの知ってる?」

 

「まぁ、知ってるけど……」

 

「でしょ。完全にヤキモチ妬いてる顔、あれは友達としての嫉妬じゃないよ」

 

 美咲の言葉が、胸に刺さる。


 正直あそこまで不機嫌になるとは思ってなかったから、あの時おかしいなとは思ってたけど。

 

「じゃあ、由奈ちゃんは……」

 

「律のこと、好きなんだと思うよ。恋愛的な意味で」

 

 それを聞いて、私の心臓が、まるでハンマーで叩かれたかのように、ドクン!と激しく跳ね上がった。

 

「で、律はどうなの? 七海さんのこと」

 

「え、私?」

 

「うん。律も七海さんのこと好きなんじゃないの?」

 

「そ、そんな……私は友達として……」

 

 そう言いかけて、言葉が詰まった。

 

 本当に友達として? 昨日から、ずっとドキドキしてる。

 

 由奈ちゃんの顔が近いだけで、心臓が跳ねる。

 

 由奈ちゃんの笑顔を見るだけで、胸が苦しくなる。

 

「律、顔真っ赤だよ」

 

「う、うるさい……」

 

 美咲はくすくすと笑った。

 

「まあ、焦らなくてもいいんじゃない? 生徒会長らしい完璧な答えを出そうとしなくても。自分の気持ち、ゆっくり確かめていけば」

 

「……うん」

 

 そう返事をした時、教室のドアが遠慮がちに開いた。

 

「律先輩ー!」

 

 由奈ちゃんだ。

 

 私を見つけると、由奈ちゃんはいつもの百点満点の笑顔で駆け寄ってきた。

 

「あ、由奈ちゃん……」

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