生徒会の副会長が毎日『大好き』って言ってくるけど、友情だと思ってたら百合だったらしい

白雪依

これってもしかして、私と後輩みたいなこと!?

毎日更新中!



「ねえ、見て。また篠井会長と七海副会長だ」

 

「ほんとだ。今日も一緒なんだ」

 

「あの二人、いつ見てもお似合いだよね」


 廊下を歩いていると、そんな声が聞こえてきた。


 私、篠井律と、隣を歩く七海由奈のことだ。最初はなんだかむず痒い気持ちが大きかったけど、もう慣れっこになった。


 生徒会の仕事も完璧にこなしているし、私は成績も良いほうだと思う。それに由奈ちゃんの方も能天気でちょっとドジだけどかなりの人気者だ。


 「律先輩、聞きました? また噂されてますよ」


 由奈ちゃんが艶やかな、長い黒色の髪を揺らしてくすくすと笑いながら、私の腕に自分の腕を絡めてくる。


「聞こえたけど、もう慣れちゃったね」


「そうですね。もう噂されるのも日常茶飯事ですもんね」


 由奈ちゃんは嬉しそうに微笑んで、さらに腕を強く絡めてきた。柔らかい感触と、ほのかに香る石鹸の匂い。


 いつものことだから、私も特に何とも思わない。


「由奈ちゃん、あんまりくっつくと歩きにくいよ……」


「えー、いいじゃないですか。律先輩のこと、大好きなんですから」


 そう言って、由奈ちゃんは私の肩に頭を寄せてきた。周りの生徒たちが、また「仲いいな」という温かな視線を向けてくる。まあ、女の子同士でこういうのって普通だし、私たちは特に仲がいいんだから当然だよね。


「はいはい、私も由奈ちゃんのこと大好きよ」


「本当ですか!? 嬉しい!」


 由奈ちゃんの顔がぱあっと明るくなる。その笑顔を見ると、私も自然と笑顔になってしまう。


 ほんと可愛い子だ。



「律先輩、お疲れ様です!」

 

 書類整理をしていると、由奈ちゃんが生徒会室に入ってきた。制服のリボンを少し緩めて、いつもの笑顔で私に近づいてくる。

 

「お疲れ様。今日の議事録、まとめておいたから確認してもらえる?」


「はーい。じゃあ、失礼しまーす」

 

 そう言って、由奈ちゃんはすたすたと私のところまで歩いてくると——当たり前のように、私の膝の上にちょこんと座った。

 

「もう、重いからやめてって言ってるでしょ?」

 

「えーいつものことだからいいじゃないですか」

 

 由奈ちゃんは私の手から議事録を受け取ると、私の膝に座ったまま真面目な顔で確認し始めた。背中が私の胸に当たって、ふわりと髪の毛のいい匂いがする。

 

「もう、仕方ないな……」

 

 確かにいつものことだ。由奈ちゃんは書類を確認する時、よく私の膝に座ってくる。由奈ちゃんが言うには「こっちのほうが落ち着くんです!」とのこと。


 ちょっと邪魔だけど、まあ別に私の仕事終わったからいっか。

 

「ここの部分、ちょっと修正した方がいいかもですね」

 

「どこ?」

 

 私が覗き込むと、由奈ちゃんが少し身体を傾けて、私の方を振り向く。顔が、すごく近い。

 

「ここです。『検討する』じゃなくて『実施する』の方が正確かなって」

 

「ああ、確かにそうだね。さすが由奈ちゃん、細かいところまでよく見てる」

 

「えへへ、褒められちゃいましたー」

 

 由奈ちゃんは嬉しそうに笑うと、私の首に腕を回してきた。

 

「ちょ、ちょっと……」

 

「だって嬉しいんですもん。律先輩に褒められると、すっごく幸せな気持ちになるんです」

 

 そのまま、私の首に顔を埋めてくる由奈ちゃん。温かくて、柔らかくて、なんだか妙にくすぐったい。

 

「もう、業務中でしょ? そろそろ降りなさい」

 

「律先輩が優しいから、甘えたくなっちゃうんですよ」

 

 由奈ちゃんは私の首元で、くすくすと笑っている。

 

 まあ、これもいつものこと。由奈ちゃんはこういう子だし、私も別に嫌じゃない。というか、こうやって慕ってくれるのは可愛いし、ちょっとだけ嬉しい。

 

「はいはい、じゃあもう少しだけね。あと会計報告も確認しなきゃいけないから」

 

「わかりました。あと五分だけ、このままでいいですか?」

 

「……仕方ないなー」

 

 私は諦めて、由奈ちゃんの頭を優しく撫でた。

 

 由奈ちゃんは幸せそうに目を細めて、「律先輩、大好きです」と小さく呟いた。

 

「私も大好きよ、由奈ちゃん」

 

 そう返すと、由奈ちゃんはますます嬉しそうに私にしがみついてきた。


 その日の夜、ベッドに入ってスマホを開くと、由奈ちゃんからメッセージが届いていた。


『お疲れ様です! 今日も一緒に話せて楽しかったです!』


 たまに生徒会のあとこういうメッセージが来る。


 なんだか小動物を相手しているみたいで可愛くてちょっと楽しい。


『お疲れさま! 私も楽しかったよ』


 そう返信すると、すぐに既読がついて返信が返ってくる。


『えへへ、そんな風に言ってもらえると嬉しいです。ほんとに好きですよ先輩』


『わかったから、もう遅いから寝なよ』


『わかりました! いい夢見てください、おやすみなさい!』


『おやすみ』


 由奈ちゃんに返信をして私はスマホのブラウザを見る。


 由奈ちゃんには寝なよなんて言ったけど、私は全然まだ寝ないんだよな。


 そして、漫画のサイトを開いてランキングをスライドさせて見る。すると、なにやら可愛らしい女の子二人の表紙が目に留まった。


 百合漫画……? ってなんだそりゃ。なんか、言葉は聞いたことあるけど全然知らないんだよね。


 私はポチっとその漫画を押した。その漫画は一巻が無料となっていた。


 ちょうどいいし読んでみよっかな。



 画面には、制服を着た二人の女の子が映っている。一人がもう一人の膝の上に座って、首に手を回している。そして——。

 

『先輩のこと、好きです』

 

『私も……大好きだよ』

 

 二人は見つめ合って、頬を染めながら微笑んでいる。

 

 その瞬間、私の思考が停止した。

 

 え……?

 

 待って。

 

 これって……。

 

 心臓が急に早鐘を打ち始め、手が震える。

 

 膝の上に座る。

 

 首に手を回す。

 

 「大好き」って言い合う。

 

 見つめ合う。

 

 これ、全部——


 ――私と由奈ちゃんがやってることじゃない!?


 頭の中で、由奈ちゃんとの記憶が次々と蘇ってくる。

 

 膝に座ってくる由奈ちゃん。

 

 腕を絡めてくる由奈ちゃん。

 

 首に抱きついてくる由奈ちゃん。

 

 毎日送られてくる「大好き」のメッセージ。

 

 そして——私が他の人と話していると、むくれた顔をする由奈ちゃん。

 

「ま、まさか……」

 

 違う違う、そんなわけない。私たちは友達で、先輩後輩の関係で、だから……。

 

 でも、さっきの漫画の二人と、私たちの関係が、あまりにも一致してる。

 

「もしかして由奈ちゃん、私のこと……」

 

 その可能性を考えた瞬間、全身から血の気が引いた。

 

 いや、そんな……

  

 でも、友達って、あんなに毎日「大好き」って言うもの?

 

 友達って、あんなにベタベタくっついてくるもの? 友達って、あんなに独占欲見せるもの?

 

「ちょ、ちょっと待って……」


 顔が熱い。心臓が早すぎて息が苦しい。

 

「嘘でしょ……まさか、由奈ちゃん、私のことを……そういう意味で好きだったの?」

 

 そして、もっと恐ろしいことに気づいた。

 

「私、今まで……どんな顔で、由奈ちゃんの好意を受け止めてたの!?」

 

 膝に座られても、何とも思わなかった。「大好き」って言われても、友達として受け取ってた。

 

 抱きつかれても、甘えん坊だなって思ってただけ。

 

「うわあああああ……」

 

 思わず、顔を両手で覆った。

 

 恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。

 

 由奈ちゃんは、ずっと……恋愛感情で接してきてたの? それを私は、友情だと思って……。

 

「どうしよう……明日、由奈ちゃんに会わせる顔がない……」

 

 いや、待って待って。まだ決まったわけじゃないよね? もしかしたら、由奈ちゃんも私と同じで、友達として「大好き」って言ってるだけかもしれないし……。

 

 でも、でも……。

 

 思い返せば思い返すほど、由奈ちゃんの行動全部に説明がついてしまう。

 

 私が他の女子と仲良く話してると、むすっとして腕を引っ張ってくる。生徒会室で二人きりになると、いつも以上に甘えてくる。


 これ、かなりまずいんじゃないかな……。


ーーーーーーーー

【あとがき】

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

この先、二人の関係はさらに拗れたり、いちゃついたりしていく予定です。

少しでも「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

フォローと星を入れていただけますと、大変励みになります。

皆さまからの応援が、なによりのモチベーションとなります。

よろしくお願いいたします!

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