第37話 交流、ただし留学生。
「号外ですわーっ! セドリック殿下とユーフィリア殿下の兄妹対決ですわーっ! 負けた陣営は美化清掃の刑! さあさ、お賭けなさってくださいですわーっ!」
アルテア先輩とフランツ先輩の協力を取り付けた帰り。
幻の五人目、ユーフィリア殿下のお墨付きの魔法師はユーフィリア殿下が「お任せください」というので帰宅しようと教室に向かう途中、廊下で決闘を宣伝する人影が見えた。
縦ロールちゃんことミストレスさんである。
「ミストレスちゃん♡ なにしてるの~?」
「リリアさま! 次の決闘の勝敗を賭けた胴元をしているところですわーっ! 一口いかがです?」
うーむ。さすが豪商の息女。金の匂いに敏感である。
ちなみに賭けの倍率はリリアちゃん陣営が1.1でセドリック殿下が30.2。
「だいじょうぶ? ユフィちゃんにおこられない?」
「問題ございませんわーっ! 殿下には了承を得ておりましてよーっ!」
え、ユーフィリア殿下が許可してるの?
(ははーん、読めたぞ)
《おにーちゃん? なにが?》
これ、賭けをうたっているが本質は別。
(要は世論操作を兼ねてるんだよ、これ)
学園の生徒は大半が貴族だけど、そのほとんどは王都から離れた場所に領地を持つ地方貴族。
中央の政治に関心が強くない人間も少なくない。
ついでに言えば貴族ですらない特待生枠の平民も一定数学園に通っている。
そういう生徒たちは、殿下同士の兄妹喧嘩と聞いて、どちらが優勢なのか直感的にわからない。
いや、主語が大きかったけれど、そういう層は少なくない。
なんなら「兄より優れた妹などいない」って考えてる人もいるかもしれない。
ユーフィリア殿下はそう考えている。
しかし、こうして賭けの倍率が表示されればどうだろう?
ユーフィリア殿下側に賭けても返金率は少なく、ハイリターンを求めるならセドリック殿下に賭ける必要がある。
それはつまり、セドリック殿下の方が勝ち目が薄い裏返しだ。
情勢に疎い生徒たちでも、直感的に「ユーフィリア殿下の勝ちが濃厚なのか」と理解できる。
(あとは、賭けに参加した生徒は勝敗を気にするでしょ? そうやって衆目を集めて、あとあと言い逃れをする退路を断つって目的も兼ねてるんじゃないかな)
他にも狙いはいろいろ考えられる。
ミストレスさんに胴元を任せることで利益を与えて好感度を稼ぐ。
セドリック殿下に期待して賭けた人の、期待をヘイトに変換する。
勝てると確信しているなら、これ以上ないくらい見事な追い打ちと言えるだろう。
《ユフィちゃんすっご~い!》
本当にね。
ボードゲームと違ってルールも勝利条件もあいまいな現実で、ここまで的確に敵の急所を突くのは見事と言わざるをえない。
「やや、そこのカッコいい上級生のお兄さん。お兄さんも一口いかがでして? いや、このビッグウェーブ乗らなきゃ損損ですわーっ」
あれ? と思った。
リリアちゃんは完全記憶の持ち主だ。
一度見た人の顔は忘れない。
そして、ファーブル・ディスガイア教員が事件を起こしたときに全校集会があったわけで、教員生徒含めて全員の顔を把握しているわけだが、妙なのだ。
ミストレスさんが話しかけた男子生徒に、見覚えがない。
いやまあ、あの日欠席していた生徒かもしれないけれど。
「へぇ、面白そうですね。では」
どん。
と、ずっしりした重量感のある袋をミストレスさんの手に握らせる上級生男子生徒さん。
中身を確認したミストレスさんの目の色が、袋の中身が大金であると雄弁に語っている。
「これをセドリック殿下側に」
「お、おお! 素晴らしい、素晴らしいですわよお兄さん! よっ、乾坤一擲! 太っ腹! もう一声!」
「ではこちらも」
どん。
と、同じ袋をもう一つミストレスさんの手に握らせる上級生男子生徒さん。
ミストレスさんはだらしなく相好を崩し、よだれを垂らして尻尾を振っている。うぇひひ、と不気味な笑い声をあげている。
「初めまして」
賭けた金額を記載した賭け札を受け取った男子上級生が、リリアちゃんに視線を向ける。
「セドリック殿下からお話は伺っています。リリア・ペンデュラムさんですね」
「え~? ひとちがいじゃないの~♡」
「えっ。失礼いたしました、早とちりをしてしまったようで」
「かっこわる~♡ ものしりがおでこえかけてきてはずかしくないの~?」
「弁明のしようもございません。私、ユリウス・ヴァン・ザールフェルドと申します」
「リリアはリリアだよ~♡」
「合ってるではありませんか!」
リリアちゃんが腹を抱えて爆笑している。
というか、うん?
ヴァン? ミドルネーム?
「リ、リリアさま、リリアさま……」
「どうしたの? ミストレスちゃん」
顔を真っ青にしてミストレスさんがふるふると首を横に振っている。
あ、このリアクションは間違いないですね。
「このお方、ザールフェルド王国の王子殿下です……!」
「へ?」
リリアちゃんが男子上級生の頭のてっぺんから足先まで視線を移して不敵に笑う。
「へぇ? りんごくのおうじさまがぁ♡ セイファートおうこくのがくえんにどうしているんでちゅかぁ?」
「留学ですよ。近年目覚ましい発展を遂げるセイファート王国ですから、学べることがたくさんあると思いまして。こうしてお目通りが叶って光栄です、リリア・ペンデュラムさま」
「そのわりにはぁ♡ セドリックくんにかけてたみたいだけど~?」
リリアちゃんが煽ると、ザールフェルド王子は不敵に笑った。
「ええ、この度セドリック殿下に要請され、セドリック殿下陣営で出場させていただく運びとなりました」
「え」
「いやぁ、前々から留学したいと申し出てはいたのですが、まさかこのような形で受け入れていただけるとは夢にも思いませんでした」
「え」
「胸を借りるつもりで、戦わせていただきます」
セドリックのクソ王子、自国で勝てそうにないからって他国に媚売りやがったな!?
逃げるな卑怯者! 正々堂々戦え!
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