第38話 開戦、ただし混成軍。

 ということで、団体決闘当日。


 リリアちゃん軍。

 先鋒、剣術、アルテア・フォートライン先輩。

 次鋒、電気電子工学、ミストレス・ジャッカルボルト。

 中堅、盤上遊戯、フランツ・グランヴェール。

 副将、障害競走(馬)、リリア・ペンデュラム。

 大将、魔法決闘、テルプシコラ・ロギアクルス。


 リリアちゃん軍と銘打ってはいるが、その実はユーフィリア殿下の派閥からなる群れ。

 特に、テルプシコラさんはユーフィリア殿下の隠し玉なのでリリアちゃんと接点がない。

 そういった意味でもユーフィリア殿下とその愉快な仲間たちの方が表現としては適切かもしれない。


 続いてセドリック殿下軍。


「よく来たな。逃げずにやってきたことを褒めてやろう。しかし勝てるかな? 私が組んだ、このドリームチームを相手に!」


 先鋒、剣術、留学生。

 次鋒、電気電子工学、留学生。

 中堅、盤上遊戯、セドリック・フォン・セイファート。

 副将、障害競走(馬)、留学生。

 大将、魔法決闘、留学生。


(いや混成軍)


 留学生しかいねえ。知らない顔ばっかり。

 唯一知ってる顔、ミストレスさんの賭けに対しセドリック殿下に大枚はたいたユリウス・ヴァン・ザールフェルドさんは次鋒、電電。

 リリアちゃんに気付くとにっこりと笑みを浮かべて手を振ってきたので、リリアちゃんが口パクで「ざぁこ♡ ざぁこ♡」と返す。

 伝わってるかは謎。


「セドリックくんは……だいぶにげたね」

「なっ!?」


 あーあ。

 リリアちゃんですら、呆れてメスガキ構文すら出てこない。


「ひっしすぎてきっしょ~♡」

「黙れ! 私は勝つ、必ずだ!」


 と思ったら出た。

 うーん。

 最近、リリアちゃんがメスガキやってる方が安心する。

 よくない慣れだこれ。


  ◇  ◇  ◇


 そんな感じで、先鋒。

 剣術対決。


 勝った。


  ◇  ◇  ◇


「なにぃ、ば、馬鹿な……! ありえん……! 彼はラスタヴィーア王国最強の剣士だぞ!?」

「ところがぁ♡ それがありえるかも♡」


 しかし、前回もそうだったけどアルテアさんの試合は何故か描写が欠落している気がする。

 ひょっとして、過程をすっとばして結果だけを生み出す能力者?

 その魔法僕も欲しい。


 なんてふざけたことをちょっと真剣に考えていると、セドリック殿下が突然、ハッと何かを思いついたように声を荒げた。


「そ、そうかわかったぞ! リリア・ペンデュラム! 貴様アルテア・フォートラインに【身体強化】の魔法を使ったな!? これは1対1のルールに抵触する! この試合は貴様たちの反則負けだ!」

「ちっちっちー」


 セドリック殿下、いいところまで読んでるね。

 でも、あいにくそんな真似はしない。


「リリア、アルテアせんぱいにまほーつかってないよ♡」

「嘘を吐け! やつの動きは間違いなく【身体強化】を使っていた! そして詠唱の確立されていない魔物由来の魔法を使えるのはリリア・ペンデュラム、貴様だけだ!」

「でもぉ♡ そのえいしょうをうみだしていたとしたら~?」

「……は?」


 人類が魔法の行使に詠唱を用いるのは、多種多様な魔法を効率よく継承していくためのシステムだからだ。

 逆に言えば、詠唱さえ成立させてしまえば、一子相伝の魔物魔法だろうと簡単に継承させられることを意味している。


「まだわかんないの~? あたまよわよわでちゅね♡ つ・ま・り♡ アルテアせんぱいはぁ♡ リリアがつくったえいしょーで、まほーをおぼえたってこと♡ だから、アルテアせんぱいのちからだよ? わかりまちゅか~♡ セドリックちゃん♡」

「ふ、ふざけるなぁ! そんなバカげたことあってたまるか!」


 激昂するセドリック殿下を、初戦で敗退を喫したラスタヴィーア王国からの留学生さんが引き止める。


「おやめください、セドリック殿下。いまの試合に不正はありませんでした。すべては私の実力不足が招いた結果。殿下が自ら汚名を被ってまで口論することではありません」

「ぐ……っ! しかし!」

「殿下、残りの試合を勝てばいいのです」

「そう、だな。それもそうだ……」


 で、セドリック殿下が残りの組み合わせを確認して、ぎょっとする。


「待て待て待て!? リリア・ペンデュラム! 何故貴様が障害競走なのだ!? 貴様は電気電子工学に出てくるはずだろう!?」

「え、そんなことひとこともいってないけど」

「なっ!?」


 えぇ……いまぁ?


 それくらい対戦カードが発表されたタイミングで確認しておこうよ、殿下。

 何も言ってこなかったから、開催当日までにリリアちゃんが電電に出場してこない可能性に気付いて心構えができていたのかと思っていた。

 買い被りだったか。


「お任せくださいセドリック殿下。電気電子工学は、私が最も力を入れている学問」

「おお、ユリウス殿下……! 頼もしい。そうだな、第一人者であるリリア・ペンデュラムが試合から降りたのだ。一勝をもぎ取る場所が変わったと考えるか」


  ◇  ◇  ◇


 次鋒、電気電子工学。

 勝った。


  ◇  ◇  ◇


「やりましたわーっ! リリアさまーっ! 私の大勝利でございますわーっ! ご覧くださいましたか!?」

「ミストレスちゃんすっごーい♡」

「うぇひひ、リリアさまにお褒め頂けるなんて光栄の極みですわーっ! はぁ、がんばった甲斐がありましてよ」


 テンション高めの一年生ズと対照的に、セドリック殿下たちのムードはギスギスだ。

 何を無様に敗北しているんだ、と言いたげなセドリック殿下と、さすが本場の生徒ですねとすがすがしい表情のユリウス殿下。

 まあ、ユリウス殿下は負けたって失うものはないからね。


 そう考えると、他国の生徒に頼った連合軍って実は弱いのかも。


 ……いや、セドリック殿下の手札の切り方が悪いな。


 本気で勝ちを狙いに来るなら、報酬は後出しにすべきだった。

 勝利を条件に対価を与えるべきだった。


 だが、実際には出場の見返りに留学を受け入れるという形をとってしまった。

 この時点で他の選手たちは、対抗戦に参加した時点で義理を果たしたことになってしまう。

 目的のために、我武者羅に勝利を求めに行かなくなってしまう。


(モチベーション管理の観点でもユーフィリア殿下に軍配が上がるかな)


 胴元的に、リリアちゃん軍が勝利した方が儲けが大きいらしく、ミストレスさんの姿勢は鬼気迫るものがあった。

 考えてみれば、金銭で買収されかねないミストレスさんの裏切りを防止するという目的もあの賭けにはあったのかもしれない。

 つくづく、ユーフィリア殿下って神算鬼謀だよね。


「ぐ、ぐぐ……」


 さて、いよいよ後がなくなったセドリック殿下。

 リリアちゃん軍は2連勝中。

 あと1勝で勝利が確定してしまう。


 その絶体絶命の状況で、迎える中堅戦は、セイファート王国随一の頭脳派、フランツ・グランヴェール先輩。

 対するはセドリック殿下本人。


 ……なんでこの人、電電で出てこなかったんだ?

 リリアちゃんが電電で出てくると読んでるなら、自分を配置すべきでは?

 ほかの分野なら勝てる自信があった?


 いや、逆か。

 団体戦とはいえ、直接対決でリリアちゃんに敗北したという傷を負いたくなかった感じか。

 そのせいで追い込まれてるのはもう、自業自得。


「では、行ってまいります」

「フランツせんぱ~い♡ がんばってね♡」

「ええ」


 中堅戦、フランツ・グランヴェール先輩VSセドリック・フォン・セイファートの戦いが始まる……!

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