坂紙七架の滑稽推理劇《ミステリレスク》
三峰燐寸
その壱
1-1
突然の頭痛。
誰かに殴られ続けているような、もしくは内側からかき回されているような。
繰り返す鈍痛は、真夏の灼熱の太陽よりもずっと不快で、辛くて、苦しい。
立っているのもままならなくて、その場にうずくまった。アスファルトからの照り返しで、立っているよりも暑さが増した。倒れたら火傷しそうだ、なんて限界な理性だけで、なんとか両の足に力を込める。
「──どうしましたか、
駆け寄ってくるみたいな靴の音。私の傍で、何者かが足を止めた。
「
……ああ、いま、声をかけられているのって、私か。
「すみません、マネージャーさん……急に、頭痛が……」
痛みに耐えて、声を出す。なんともか細い声で、自分のものとは思えなかった。
「動けますか」
「……むり、かもです」
「分かりました。一度戻りましょう」
しゃがんでいる私の足と背中に手を回して、マネージャーさんは私を抱え上げた。わずかな揺れでさえ意識が飛びそうになる。けれども痛みのせいで、飛んだ先から意識を引き戻されている。このまま死んでしまうのではないか、と不安になる程度には、苦しい。
吸って吐いてを繰り返しているだけでも、つらい。呼吸も意識も、どんどんと浅くなっていってる気がする。
「救急車は必要ですか」
「すこしやすめば、よくなるはずです」
強がった。心臓や肺は痛くない。気がする。せいぜい脳がぐちゃぐちゃとかき回されて意識が飛びそうになって、ちょっと呼吸が浅いだけで。ごめん、気を抜いたら死ぬんじゃないかと嫌になる。それでも、それならそれで、いいか。
「マネージャーさんから見て、どうですか」
「……俺では判断できません。少し様子を見ても回復しないなら、すぐに救急車を呼びます」
「わかりました」
なんとか気合で言葉を吐いて、私は一度目を閉じた。
このままだと撮影はどうなるんだろう、とか。
みんなに迷惑かけてるな、とか。
苦痛からなんとか逃れるために、関係ないことを考えようとして、自分の体調の心配よりも先に、人の心配が出てきてしまった。
どれだけ苦しくても、自分のために、何かが出来るわけじゃないから、なのだろうけれども。
コンコンと、何かを叩く音。
「はーい」と別の誰かの声。さっきまで私に化粧を施してくれていたメイクさんだった。
……ああ、ここ、ロケバスか。
「
「分かりました。しっかり見ておきますね」
「ありがとうございます、私は他の方々に声をかけてきます」
優しく座席に転がされた。エアコンによって冷えているけれども、揺れはある。頭の痛みと混ざって、ぐらぐらガタガタと視界ごと騒がしい。
少しでも和らがないかなと、右腕で視界を塞ぐ。
「どんな感じですか?」
と、真上から、同じアイドルグループに所属する
「とにかく、あたまがいたい。だれかにずっとたたかれてるみたい」
「なるほど。似た症状は普段からありますか?」
「ない、けど」
ふむ、と嘆息を漏らす
「体温は……平熱っぽいですね。熱中症や脱水でもなさそう。となると……安静にしておくしかなさそうですね」
「……ありがと」
「いえいえ。容体が変化したら、声をかけてください。頭痛薬はないですけど、お水ならありますから」
そう言うと、
「私を枕にしちゃってください」
なんて声をかけてきた。
「……ありがと」
もぞもぞと体を動かして、
ちょっとひんやりとして、気持ちがいいかも。
* * *
「マネージャーさん、どうかしましたか?」
「──カメラマンさんが死んでいた」
「……警察には、私が通報します。マネージャーさんは、ディレクターさんたちを探してきてください」
なんてやり取りが聞こえた気がしたけど、頭痛が見せた、ただの悪夢だろう。
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