心の恋人

湊星 真維

心の恋人

 僕には心の恋人がいる

 でも前はそうは思えなかった。

 昔から僕は身体が弱かった。

 学校は休みがちで友達も少なかった。でもそんなとき、話しかけてくれた子がいた。

 その子はいつも話しかけていて、いつも笑って話を聞いてくれた。気づいたら僕は彼女に恋をしていた

 初恋だった。心臓の鼓動が早くなり、体温も高くなっていた。ある日突然僕は胸が痛くなった。そして気づいたら病院だった。目が覚めたことに気づいたら看護師が医師を呼びに行った。医師によると僕は二日も寝ていたようだ。そして医師から告げられたのは、心臓病を患っていると。しかもドナーが見つからなければ、数カ月ほどで死ぬとのこと。

 僕は悲しかった。辛かった。でも残りの寿命を変えることは出来ない。だから心に誓った。残りの人生精一杯生きようと。気づいたら目から涙が溢れていた。自分では精一杯生きようと思っても、心はまだ現実を受け止められないんだ。心は素直なんだ。

 医師から余命宣告を受けてから数日経った。彼女がなんの前触れもなく駆けつけてきた。

 そして彼女はすぐにこういった

 僕のドナーになると

 でも何も悪い所がない人はドナーになんてなれない。そう伝えると彼女はとても悲しそうに泣いていた。彼女に寄り添ってしばらくたった。もう日もくれそうな時間だ。すぐに帰るよう促すと彼女は僕から離れなかった。心が燃えるように熱くなった。思いが溢れそうになったけれど、誰かに襲われたら洒落にならない。だから彼女に言って、彼女は不貞腐れて帰っていった。ある日突然病院に一人の子供が運ばれてきた。かなり酷い怪我をしたようで、手術室へ向かっていった。数時間後僕と同じ病室にきた。その子の顔を見るとショックで失神しそうになった。だってそれはついこの間まで話していた、彼女だったから。

 僕は自分を恨んだ。今すぐにでも死にたいくらいに。僕のせいで彼女は事故にあった。僕がいなければ彼女はこんなことにはならなかったんだ。彼女のことだ。自分から事故にあったんだろう。

 それからは早かった。

 彼女がドナーになる件は確定してしまった。

 それからはすぐだった。数日後に心臓移植の手術をすることになった。そして手術する前日の夜、僕は彼女に自分の思いを伝えた

 彼女は頬を赤らめて、嬉しいと言ってくれたんだ。

 そして一晩中話した。

 幼少期の話や最近のことまで。

 そして手術当日となった。麻酔を受け、気がつくと日が傾いて窓から僕を照らしていた。

 手術は無事に成功したと医師が言った。しかし僕はかなりちっとも嬉しくなかった。何日も飲まず食わずで部屋に引きこもっていた。悲しかった。自分を責め、恨み、憎んだ。それでも何も変わらない。そして医師が一言言った。

 今君が生きてるのは彼女のおかげだ。でも君が病んだら彼女は報われない。だから君は立ち直って悔いの無いように生きなさい。彼女に会う時に恥ずかしくないようにと。それから僕はそう考えるように必死に生きた。それでもしばらくは病んだ。でも彼女のためにと思うと不思議と立ち直れた。それからは一生懸命彼女が報われるように生きた。行かなかった学校も、苦手だった会話も全部頑張った。どんなに挫けても彼女のためと思えば余裕だった。数年が経ったある日僕はふと思った。この心臓は彼女のものだ。そして自分のものでもある。でも彼女がいなければ、僕はあの時死んでいただろう。

 あの夜、互いの思いを確かめ合った時彼女はこう告げた。短い間いやこれからもずっとずっと恋人だよと。

 彼女は今この世には……いやここにいるか。

 僕らはただの恋人なんかじゃない。

 僕らは心の恋人なんだ!!!

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心の恋人 湊星 真維 @Mai6918

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