戦火の只中から始まる物語は、少年の視点を通して、痛みと混乱、そして過去へと静かに遡っていきます。激しい状況描写の中に、子守唄や貝殻といった柔らかな象徴が差し込まれ、私の感情をゆっくりと解きほぐしてくれました。敵味方という単純な線引きでは語れない関係性と、それでも少年自身が選び取る未来。その一歩が描かれる終盤は、切なさと同時に、かすかな希望を感じさせる余韻を残します。
奇縁、宿命に翻弄されて、悲しみとともに流されて、誰も望まなかった運命によって戦場に立たされたその少年。入り乱れた運命が解きほぐされても、もはやそれは遠いもので。解き放たれた少年は、それゆえにこそ信じる「自分」へと羽ばたいてゆく。その足取りが、力づよいものであることを願って。